windows10mobileはどこを目指すか

 2016年2月22日~25日の4日間にわたって、モバイルと無線通信技術の展示会「Mobile World Congress(MWC 2016)」がスペイン・バルセロナで開催された。ただ、例年と比べて明確なテーマが少なく、特に「最新スマートフォン」などモバイル端末偏重だった雰囲気は薄れ、より技術やサービスに特化した展示が増えており、「業界関係者向けの商談と情報交換の場」としての側面が強くなった印象だ

【写真:イベントで展示されたWindowsスマホ/タブレットたち】

これは次世代の通信基盤である「5G」をにらんだ動きと連動しており、2020年以降の来たるべきタイミングに向けた新技術やプラットフォーム整備の進展など、数年先に大きな話題となりそうな技術展示が多く見られたことに起因する

一方で、このMWC 2016を「WindowsとMicrosoftの視点」で振り返った場合、2つの大きなトレンドを感じることができた

1つはiOSとAndroidに続く「第3のモバイルOS」を巡る戦争が既に終了し、もはや会場に争いの跡すら見られない状態だったことだ。もっとも、これはWindows 10 Mobileが勝利したという話ではない。もはやOS自体は重要なテーマではなくなり、次の別のトレンドを模索し始めている段階にあると考えている。

もう1つは「OEMの台頭とビジネス市場の勃興」だ。Microsoft自身はデバイス事業のメインから一歩引き、主役がOEMへとシフトしている様子が同社ブースの展示からうかがえた。また大手OEM各社は、Windows 10 Mobileにおけるターゲットをビジネス市場に定めてきている

●Lumia/Nokiaのカラーがほぼ消えたMicrosoft

筆者がMWCを取材するのは2011年から数えて6回目だが、当時のMWCにおける主役はデバイス中心のNokiaならびに、ネットワーク機器メーカーのNokia Siemens Networksの2社だった。

Microsoftはどちらかと言えば脇役的な存在であり、MWCを目当てに集まった報道陣を目当てに新製品説明会を別会場で行うなど、2013年9月にNokiaの携帯端末事業買収を表明するまでは、メイン会場での露出はほぼ見られなかった。

その後、買収の完了した2015年のMWCにおいても、Nokia改めMicrosoftブースの主役は「Windows Phone」のLumiaであり、実際にMicrosoftブランドで「Lumia 640」が発表されている。展示ブースも以前までのNokia色を色濃く反映しており、Microsoft製デバイスが展示の中心だった。

しかし2016年になり、展示内容は大きく変化した。まずWindows 10 Mobileの提供が開始され、Windows Phone 8.1の時代にはほとんどなりを潜めていたOEMメーカー各社の活動が活発化し、新製品が続々と登場してきている

MicrosoftブースにはWindows 10 Mobileを搭載したOEMデバイスの紹介コーナーが設けられ、ここで展示されていた端末の半数が「KATANA」「NuAns NEO」「MADOSMA」といった日本国内市場向けのものだった。海外の来訪者にとっては初めて触る端末群であり、興味を持っていろいろ見て回っていたのが印象に残っている。

世界を見ても日本だけOEMメーカーが極端に多いという現状ではあるが逆にLumiaの紹介コーナーは非常に小ぢんまりしたものだった。全体にOEMメーカーの製品が目立つような展示になっていたのが、2016年におけるMicrosoftブースの特徴だ。

この特徴は、PCやタブレット製品についても同様だ。「Surface」や「Surface Book」の展示こそあったものの、スペース的にはOEM各社の2in1タブレットや、パナソニックの「タフブック」「タフパッド」のような業界向けソリューション製品がその多くを占めており、Microsoftのブースというよりは「Windows OSを採用した各社製品のソリューション紹介」が目立った

他の展示会と比較しても、このスタイルのほうが従来の「Microsoftらしい展示」であり、同時に「ようやくOEMが出そろって自社以外の製品の展示が可能になった」ことを示しているとも言える。

とはいえ、Windows 10 Mobileに関しては喜ばしい話題ばかりではない。Gartnerの調査報告によれば、2015年第4四半期における世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比で9.7%の成長となったが、これを主にリードしているのはAndroidをベースとした端末だ。

モバイルOS全体に占めるAndroidのシェアは76%から80.7%へ拡大しているにもかかわらず、他のOSはシェアが漸減しているWindows系OSに至っては2.8%から1.1%へと激減しており、非常に厳しい状況であることは間違いない

2016年1月には「Windows Phone is dead」という記事を掲載した海外メディアもあったが、これまでWindows Phone(Windows Mobile)の市場を支えてきたLumiaはその役割を終えつつある。位置付けとしてはGoogleの「Nexus」シリーズのような製品へとシフトし、この空いた部分をOEM各社の製品が埋めてきた、というのが展示会の雰囲気だ。

●Windows 10 Mobileの主要ターゲットはビジネスへ

現在日本を含む一部地域ではOEMメーカー各社のWindows 10 Mobile製品が一気に出そろい、ちょっとしたWindows 10スマートフォンのムーブメントが巻き起こりつつある。予想だが、日本国内を中心として、一時的に同OSのモバイルOS全体に占めるシェアが拡大するだろう

しかしブームは長く続かず、早ければ2016年後半にもこの動きは収束してしまう。現在のところ、新デバイスの話題以外で市場全体を引っぱる要素が不足しているからだ。これは特にコンシューマー市場に顕著で、「新しいモノ好き」の層に一定数以上デバイスが行き渡ることで、収束のタイミングがやって来る。これは新製品を投入したOEM各社やMicrosoft自身も自覚しており、この一時的ブームが去った「次」を見据えている。

今回、KATANAシリーズを出したFREETELとNuAns NEOのトリニティがMWCに出展していたが、これは海外に製品を紹介して潜在的な需要や顧客を探し出し、海外進出の足掛かりとすることが狙いの1つにある。特にNuAns NEOはスマートフォン製品単体で見ても非常にユニークなデバイスであり、提案型の商談に持ち込みやすいだろう。日本国内での需要が一巡することを見据え、その活動領域を少しでも広げるのは1つの手だ。

対して、大手メーカーと呼ばれるOEMやMicrosoftが狙っているのが「法人需要」だ。日本国内だとVAIOの「VAIO Phone Biz」が明確にこの市場をターゲットとしているが、今回のMWCで発表されたHPの「Elite x3」もまさにこの市場を主力としている。

Elite x3はSnapdragon 820を搭載するハイエンドモデルで、競合製品がそうであるように「Continuum」機能をセールスポイントの1つとし、実際に展示ブースでのデモもこの機能を主役に据えている。外部にノートPC型のキーボード+ディスプレイの「Mobile Extender」を組み合わせれば、Elite x3をノートPCのように操作することも可能だ。

またContinuumでは実行可能なアプリがUWP(Universal Windows Platform)に限定されるという問題があるが、「HP Workspace」を使ってクラウド経由の仮想デスクトップ環境を呼び出せば、既存のWindows向け業務アプリケーションをあたかもPCのように利用でき、本当の意味でElite x3をPCワークステーションとして活用できる。

将来的には業務アプリケーションがUWP対応したり、Edgeなどの新型Webブラウザへの対応が進むと思われるが、仮想デスクトップやリモートデスクトップ機能を組み合わせることで、プラットフォームや互換性の問題を考えずにWindows 10 Mobileを本格活用できるのは大きいだろう。

さらにWindows 10 MobileはMicrosoft IntuneによるMDM(モバイルデバイス管理)や、Azure ADによるアクセス権限管理など、競合のモバイルOSプラットフォームに比べて管理機能が使いやすいという特徴がある。アプリケーションの豊富さや開発者の層の厚さという面での難点こそあるものの、これらは企業ユーザーに製品を売り込むうえで大きなセールスポイントとなる。

このように、比較的大手のメーカーらはWindows 10 Mobileの当面の市場をエンタープライズに見いだしており、Microsoftとともにキャンペーンで製品展開していくとみられる

今回興味深かったのが、中国メーカーの雄であるHuaweiの動向だ。同社はモバイル端末メーカーとしてもトップ3の一角を占める強豪でありながら、MWCに合わせて開催された同社の発表会では「MateBook」というWindowsタブレットのみを紹介し、モバイル端末は一切発表していない。

MateBookは同社がWindows PC市場に初参入する製品で、「プロフェッショナル」「ビジネスユーザー」を主なターゲットに掲げている。コンシューマーよりもむしろ、エンタープライズ市場にこそ需要があると考えているようだ

このように、OEM各社の目は一斉に法人のスマートデバイス需要へと向いている。今後数年のWindows PCとWindows 10 Mobileの動向を占ううえで、重要なポイントになるだろう

[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

ITmedia PC USER2016.03.10
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