VW排ガス不正問題の真相

世界で最も信頼できるVWがディーゼル車の排ガス試験で不正行為――アメリカ発のメガトン級のバッドニュースはフランクフルト・モーターショーのプレスデーを終えたばかりの関係者に衝撃を与えた

その時点ではアメリカのNOx(窒素酸化物)規制対策が原因かと思ったが、事態は思ったよりも複雑そうだ。その前に、ディーゼルエンジンの排ガスをクリーンにすることの難しさを説明しておこう。

ディーゼル車は燃費性能が良いとして人気が高い燃費はガソリンよりも約25%優秀。ただし、軽油に含まれる炭素量はガソリンよりも約9%多いので、CO2排出量で見ると両者の差は15%前後かもしれない

燃費が良い理由に圧縮比の高さが挙げられる。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと異なり、空気だけを圧縮して燃料を噴射する。体積を小さくして温度を上昇させるためだ。最近は直噴方式がよく使われ、噴射圧力はガソリンの200~250気圧に対して、ディーゼルは2000気圧と高い

さらに最近のディーゼルは100%ターボなので、たっぷりと空気を吸い込む燃料と空気の比率はガソリンよりも圧倒的に空気が多い空気中には窒素が78%も含まれるので、ディーゼルはどうしても窒素が酸化したNOxを生成しやすいのだ

それゆえに排ガス規制が厳しい国で、ディーゼル車を市販するためにはさまざまな対策が必要だ。排ガスに含まれる成分のうち、HC(炭化水素)やCO(一酸化炭素)は最近の技術では大きな問題となっていない。問題視されているのはNOxと、ススの原因となるPM(浮遊物質)だ

このうちPMはコモンレールという高圧燃料噴射である程度低減でき最終的にはフィルターで除去できる残るはNOxの処理だ

VWは2013年モデルまでは白金触媒でNOxを還元していたこの方式では燃料を濃くして酸素が少ない状態を作るのだがこれは燃費に悪い。燃費=CO2なので、欧州メーカーはどちらかと言うとCO2削減を優先する考えだ

2014年以降のVWにはMQBモジュールが使われ、尿素SCRを備えていた。この方式ではNOx還元に尿素水を使用する。大量のNOxを処理するにはたくさんの尿素水が必要で、頻繁に補充する手間も増えることとなる

このように「NOxとCO2」は二律背反の関係になりやすい燃費を良くするとNOxが発生しやすく、NOxを減らすと燃費が悪くなり、走りのパフォーマンスも低下してしまう。燃費や走りはユーザーにとって重要で、実感もあるが、無味無臭のNOxは排出を実感しづらい。

そこを突いてVWは排ガス試験のときだけ起動するNOx対策を行う違法プログラム「Defeat Device(ディフィート・デバイス=無効化機能)」を忍ばせたのだ

ディーゼル車の排ガス規制は日米欧で異なる。日欧はガソリン車とディーゼル車を分けて考える。NOxが発生しやすいディーゼルは政策的に規制が甘い。これに対してアメリカはハッキリとしていて、どんなエンジンでも規制は一つだ

2008年前後に策定されたNOx排出量の規制値は下の通り。

■日本/ポスト新長期/0.08 g/km

■欧州/ユーロ5/0.18 g/km

■米国/Tier2Bin5/0.044 g/km

ユーロ5なら規制クリアはそれほど難しくないのに“ナゼ”?

アメリカでは販売から何年か後に排ガスの抜き打ちテストを実施するテストは室内で、車体が動かないように固定し、ローラーの上にタイヤを乗せた状態で、決められたモード走行にて行う

タイヤが回ってもステアリングが動かない状態が続くと、コンピューターは室内試験だと認識し、ディフィート・デバイスが起動。エンジンのEGR(排ガス還元装置)を使って大量の排ガスをシリンダーに戻し、燃焼温度を下げる。結果的にNOxが低減して、規制値をクリアできるというわけだ

今回の事態は、とある環境NPO団体がアメリカの大学に依頼し、実際の走行下での排ガスを調べたところ、VWのNOx排出量だけが最大40倍と異常な値を示したことで発覚した対象となるモデルは2008年から2015年までのゴルフ、パサート、ジェッタ、ビートル、アウディA3の2リッター・ディーゼル車で、合計48万2000台に及ぶ

NOxと燃費と性能のバランスを取るのが困難だったため、VWは厳しいアメリカの規制をクリアするために、やむなく違法なデバイスを使ったのだと思った。しかし、ドイツから続々とニュースが舞い込み、真相は意外な方向に発展していく

10月1日時点の情報では、問題のディーゼル車は約1100万台に達する。アメリカで指摘されたのは48万台だが、欧州やアジアでもディフィート・デバイスが使われたらしい

ドイツの報道によれば1100万台の内訳は欧州だけでVW乗用車が500万台アウディ210万台シュコダ120万台セアト70万台VW商用車180万台、残りは中国や韓国で市販されたものだという。

問題のディーゼル車はどの規制値を狙って開発されたのだろうか。欧州のユーロ5はアメリカの規制よりも厳しくなく、多くのメーカーがクリアしていた。それにも関わらず、VWだけがディフィート・デバイスを使用している

ここからは想像だが、ディフィート・デバイスを使えば、燃費性能を犠牲にしないで済むし、複雑で高価な触媒にコストをかけないで済むディフィート・デバイスを使うことに慢性化し、罪の意識が薄れていたのではないか。当時の欧州では120g規制と言われるCO2規制の方が社会の大きな関心事であった。

「それにしても……」と日本メーカーのディーゼルを開発するエンジニアは首をかしげる。ユーロ5なら規制クリアはそれほど難しくない。制御プログラムを作っていたのはドイツのメガサプライヤーのボッシュVWとボッシュはディーゼル技術で世界をリードしていたはずだった

それなのになぜこのような事態が起きたのか、未だに疑問が残る。ボッシュは不正プログラムを量産車に使うことは違法だと通告したと述べているがブランドへの信頼感の失墜は避けられない

問題の根底には2000年以降の急速なグローバル化があるのではないかトヨタもGMもホンダも、2000年代の10年に大リコールを体験した法令遵守よりも世界一をかけた熾烈な販売台数の競争が原因なのかもしれない

VWにはウミを流し、一日も早く元気なワーゲンに戻って欲しい。そのときはVWのディーゼル車を堂々と買いたいと思うのだ。

参考 オートックワン 2015.10.05

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