VW不正で→ドイツ製造業に打撃か?

欧州の自動車最大手、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)による排ガス試験を巡る不正問題が世界経済を揺さぶっている。経営陣への責任追及は会長だったウィンターコルン氏の辞任にとどまらず世界的な集団訴訟に発展する気配が濃厚だ米当局は最大で約2兆円の制裁金を科すことを検討していると伝えられ、ブランドの失墜も含め経営に与える影響は甚大となろう

 問題の経緯については多数のメディアが報じており門外漢の筆者には手に余る部分もあるが、問題の構図が先の東芝による不正会計問題とあまりにも似ていることに驚かされる。VWが世界シェアトップに躍り出た矢先に問題が発覚したこと、とくに低いシェアを余儀なくされていた米国で無理を重ねた結果が不正に繋がった可能性が高いこと、そして、不正の背景にカリスマ経営者としてVWに君臨していた元会長のフェルディナント・ピエヒ氏とウィンターコルン氏の新旧経営者間の確執があったとみられている点などだ。こうしたガバナンス上の不備が、結果として不正に手を染めても収益を優先するという誤った判断を生む土壌となった点も共通している

 しかし、VWの問題はその深刻度合いにおいて東芝を大きく上回る一部報道ではドイツ経済に与える影響はギリシャ問題を超えるとも指摘されているほどだVWは「ドイツ国民車製造会社」を原点とするドイツ最大の自動車会社であり、国内の雇用者数は約27万人に及ぶ。部品納入業者を含めれば雇用数はさらに膨らむ裾野の広い産業である。またドイツの自動車産業全体に目を転じれば、その雇用者数は2014年ベースで77万5000人、全労働者数の2%近くを占め。自動車および自動車部品セクターはドイツの全輸出額の約20%に達するリーディング産業にほかならない。そのトップ企業が不正を行っていたことはドイツの自動車産業のみならず製造業全体の信頼性にマイナスの影響が及ぶことは避けられない。ギリシャ問題以上にドイツ経済にとって深刻な事件というのは大げさな表現ではなかろう。

 さらに筆者がVWの問題が大きな影響を及ぼしかねないと危惧するのは、ドイツが国を挙げて推し進めている「インダストリー4.0」と呼ばれる革命に急ブレーキとなりかねないという点にある。「インダストリー4.0」は、「第4次産業革命」の意味が込められたもので、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)を製造プロセスに応用し、その上流から下流までネットワーク化することで製造業の生産性を飛躍的に高める戦略である。ドイツはその先進国で、メルケル首相は、「インダストリー4.0」で現状の生産性を4~6割も高めることが可能と主張している

 その「インダストリー4.0」のモデルセクターこそドイツの自動車産業であり、VWは先端を走る企業にほかならない。VWは車両の過半を共通モジュール化し、その組み合わせで多様な車を開発したり、工場設備をモジュール化することで、生産台数や車種の変化、技術革新に柔軟に対応できる生産性革命に取り組んでいる

 VWの不正問題が尾を引くことで「インダストリー4.0」が大きく遅れることにならないよう願うばかりだ。(森岡英樹)

 ◆もりおか・ひでき ジャーナリスト 早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。58歳。福岡県出身。

参考 Sankei Biz  2015.10.17

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