TPP大筋合意→農業、保護から競争へ

米アトランタで行われた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の閣僚会合は5日、大筋合意にこぎつけた交渉を主導する米国や日本は、巨大経済圏の枠組みを作り、その経済ルールを「世界標準」にすることを目指す。一方、関税引き下げや輸入枠拡大に伴う農産品の輸入増に直面する日本農業は、競争力強化のための構造転換を迫られる

◇迫られる構造転換

「保護一辺倒だったこれまでの農政を変えなければいけない」。TPP交渉に関わってきた政府関係者は、今回の大筋合意をきっかけに日本農業は体質強化を迫られると指摘する

日本の交渉参加が認められた2013年4月国会はコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖(甘味資源作物)を「重要5項目」と位置づけ、関税を維持するよう決議した。これらの品目の関税「撤廃」は免れたものの、大幅な引き下げや低関税での輸入枠拡大を受け入れることとなった

安価な輸入農産品が増えるのは確実で、農業関係者の不安は強く、政府への批判も高まりそうだ。政府・与党は、ただちに国内対策に着手する方針で、今後、農業政策の議論が本格化する。ただ、かつての関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンドの際も、農業関連対策に約6兆円を費やしながら、ほとんどが公共事業に回って農業の強化には直結しなかった。与党内には「二の舞いにしてはいけない」(農林族議員)との思いが強い

政府は現在、水田を中心とする農地集約や、農産物の生産だけでなく加工・販売まで手がける「6次産業化」、輸出促進などを軸とした農業の成長産業化を進めている経営の大規模化や企業参入、農産物のブランド化や海外市場の開拓などがポイントだ

ただ、これらはかねて指摘された課題。改革ペースが遅いのは、農地を借りる側に比べて貸す側の権利が手厚く守られていたり、企業参入のハードルが高かったりするためだ農業の足腰を強くする役割を担うJAグループは人数で圧倒的に多い兼業農家などの立場に理解を示して保護主義的な政策に傾斜する一方、担い手となるべき大規模農家の育成に役立ってきたとはいえない与党も、集票力を持つJAグループの意向を重く見てきた

日本農業は稲作を中心に減反や高関税で価格を安定させる政策を続けた結果、生産性の低い農家を保護できても、競争力のある農家を育てられなかった。「このままではじり貧TPPをきっかけに海外展開など攻めの姿勢に転じなければいけない」(新潟県の稲作農家)との声が上がっている。

TPP合意を見据え、政府は全国農業協同組合中央会(JA全中)の弱体化などの農協改革に踏み切った。しかし、TPP合意が当初目指した7月末よりも大幅に遅れたことで、来夏の参院選直前まで国会でTPPの議論が取り上げられる公算が大きい。選挙を意識して保護主義的な政策に回帰すれば、農業強化の機会を再び逸する可能性もある。【松倉佑輔】

◇米主導、新秩序へ一歩

TPPをアジア重視戦略(リバランス)の経済的支柱に据えてきたオバマ米大統領は世界貿易に変革をもたらす」として歓迎している。成長市場を抱えるアジア太平洋の貿易や投資に関するルールが21世紀のグローバル経済の「世界標準」になると位置づけ、米国主導の新たな世界経済秩序の構築に踏み出した形だ

オバマ政権にとってTPPは世界最大の経済国・米国と第3位の日本を加えた経済圏の構築で「今後も世界経済を主導する」(米高官)土俵作りだ米国は知的財産など経済活動に関するルール策定の交渉で、国益に最大限つながるようごり押しする場面が目立った

TPPが巨大経済圏の構築で先行すれば他の国や地域もその経済ルールを意識せざるを得なくなる。米国の意向が強く反映されたルールをTPPに埋めこめば、米国のメリットは大きい。

グローバル経済で中国に対する優位を維持・拡大する狙いもあるオバマ政権が掲げるリバランスは安全保障と経済の両面で中国を抑止し、関与させるのが目的だ

米国は中国と南シナ海での埋め立てやサイバー攻撃など安全保障問題で鋭く対立する一方、経済では関係を深めている貿易額は約5550億ドル(約66兆6000億円)と10年前の2倍に迫る勢いで増大し、カナダ、メキシコに次ぐ第3位の輸出国として依存性が高まっている。しかし、人民元為替管理や対中貿易赤字は米議会の中国への不満につながり、不安定な経済への不安もつきまとう

オバマ大統領は今年1月の一般教書演説で「中国によるルールづくりを阻止する」と表明。先月の米中首脳会談後の記者会見では、具体的な進展の第一に経済問題を挙げ、習近平国家主席が市場改革や人民元改革に加え、「世界経済を支えるルールに基づいたシステムでの役割拡大を約束した」と強調した

米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国経済専門家のスコット・ケネディ氏はTPPは、対中経済問題で米国にとって大きなテコになる」と指摘TPPのルールが浸透すれば、国営企業、知的財産権、環境などの改革を後押しするとの期待もあるオバマ政権は経済分野での連携強化を安保問題への「ヘッジ」(抑え)とする狙いも見える

参考 毎日新聞 2015.10.05

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