2045年は→選択によって築かれる

NHKのドキュメンタリーは、啓蒙的なもの、警鐘を鳴らすものが多い。そのため「2045年」という未来をテーマにするならば、そのネガティブな面も含めて検証をしていくのが、ある意味ではNHKらしいともいえるかもしれない。それはNHKのとても大切な役割です。しかし、怖がってばかりいても仕方がない。テクノロジーの進化というものは不可逆のものであり、それを前提として、われわれはどのような心の準備をしなければいけないのか、ということを心がけて作ってきたのが、これらの番組でした

今回も、基本的に未来をポジティブにとらえています。もちろん、議論を呼ぶようなテクノロジーも出てきますが、ポイントとなるメッセージは「未来を作るのは、今生きている私たちの選択の結果なのだ」ということ。何を選んで何を選ばないか、ということを、視聴者の皆さんが考えるきっかけになればと思います

――ゴールを「2045年」にしたのはなぜでしょうか。

番組にも登場する未来学者のレイ・カーツワイル博士は、「今から30年後までには、コンピュータの能力が、人類のすべての脳を足し合わせた能力をも超えるようになるだろう」と述べていますこれをシンギュラリティ(技術的特異点)と呼んでおり、ここで力関係が逆転する。そこで番組中のドラマも含めて2045年に設定しました

30年後にメインストリームを担う今の10~30歳の人々に届けばいいな、と思っています。NHKの視聴者はどうしても若い人たちが少ないです。普段あまりNHKの番組を見ない、若い人に届けるためにはどうすればいいか、ということを考えました。今回は、ウェブサイトのデザインについてもある意味、NHKのイメージらしくないスタイリッシュなものに、さらに人工知能を搭載し、双方向性を打ち出すなどの工夫を心がけています。このウェブサイトの制作をしているのは、番組第1回の生放送オープニングのテクニカル演出を行った、真鍋大渡さんのライゾマティクスのチームです。

――1月3日(土)の第1回 が「未来はどこまで予測できるのか」、4日(日)の第2回が「寿命はどこまで延びるのか」でした。1つ伺いたいのが、寿命の問題です。

これは多くの視聴者にとって関心のある話題ですが、一方では「カネを持っている人が長生きをできてしまう究極の格差社会になる」という懸念も心に浮かびます。その点は、どのように考えていますか。

テクノロジーが誕生した最初の段階では、そうなるでしょう。ただ普及をしていけば、それが安価になっていき、多くの人がその便益を受けられるということは歴史が示しています。ただ社会的な衝撃は非常に大きいでしょうね実際にマウスのレベルでは、人間でいえば60歳に当たるマウスを20歳へと若返らせる実験に成功したという研究成果が出ています

これがそのまま人間でも有効なのか、ということは、今は何とも言えません。もし研究が進み、若返りが可能になった場合、若返った人間がどのように社会で生活をしていくか、ということも課題ですよね。第2の人生、第3の人生ということを生きられるようになるかもしれないので、素晴らしいことではありますが、社会的にはいろいろな混乱を招く危険性もあると思います

第3回(1月24日〈土〉放送)のテーマは、「人間のパワーはどこまで高められるのか」です。番組にも登場する理論物理学者のミチオ・カク博士は遺伝子を操作することで100mを9秒切るスピードで走る人間も出てくることもそう夢物語ではないと予測しています。また、人間の脳を肉体から解放しコンピューターの中で永遠に生き続ける、というプロジェクトを実現しようとしているロシアの実業家や、脳で考えるだけで動き始める「ロボットアーム」なども紹介します。

第4回(1月25日〈日〉放送)は「人生はどこまで楽しくなるのか」。大きなテーマは進化していくバーチャル・リアリティ(仮想現実)。もっと言えば、VR(バーチャル・リアリティ)技術による、未来の「食う・寝る・遊ぶ」はどう変わるのかを描きます。さらには、VR技術を駆使して、リアル社会と同じ重みをもって、もう一つの人生を生きることを可能にするというチャレンジや、ある人の生前のログやデータを残しておき、それをもとに亡くなった人をデジタル空間に蘇らせるという試みも紹介します

火星移住に挑むベンチャー経営者たち

そして最終回となる第5回(2月1日〈日〉放送)は、「人間のフロンティアはどこまで広がるのか」。主に高さ2キロメートルにも及ぶ超高層ビルの計画、そして火星移住計画を取り上げます。実は、現在地球で住めなくなった場合に備えての、火星へ移住が宇宙開発ビジネスのトレンドになっているのです。多くのベンチャー経営者も参画している宇宙開発の最前線を紹介していきます。

――2045年というと、日本は人口減高齢化が進んでいます。消滅する自治体も出てきているでしょうし、社会保障システムが崩壊しているかもしれません。そのことが未来に与える影響も大きそうです。

おっしゃるとおりです。しかし、未来を見通すうえでそうした社会的な要素も入れると、番組の趣旨がぼやけてしまいます。もちろん環境悪化、富の集中など様々なことが起きることは間違いありませんが、今回はそうした社会的な要素を一切省き、テクノロジーが私たちにどんな未来を切り開くのかに絞っています

ただし、それも非常に重要なことなので、きっとそうしたシリーズ番組がどこかで企画されるのではないかな、とも思います。まずは、今回の番組で、テクノロジーが出現させるネクストワールドにワクワクしてもらい、心の準備をして欲しいというのが、私たちのメッセージです。未来を作るのは、今を生きる私たちの選択なのですから

 参考 東洋経済オンライン 2015.01.05

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