2020年には1ドル60円もおかしくない

日本株はこの一週間で大きく下落した。6日の日経平均株価は7日続落となった。これは、アベノミスク相場が始まって初めてとのことだが、何か象徴的な出来事のように感じられるドル円も一時110円を割り込むなど、安倍政権がもくろんだ「円安・株高」を背景とした景気浮揚は頓挫しつつある。5月のサミット、7月の参院選を前に政策期待が高まっているが、状況は簡単ではない。

■ 一株当たり利益の急低下が目立つ

とにかく、企業業績への不安が根強い今回の株価急落のきっかけになったのが「日銀短観」である。短観で示されたのは、企業の将来に対する不安である。また、想定為替レートは117.46円にまで大幅に引き下げられている。企業側もようやく円安期待を捨て、実態を見始めたといえる

今後の日本株にとっての最大のポイントは、筆者が本欄で繰り返す「円高リスク」である日本株は構造上、円高にはきわめて弱い。特に日経平均株価を構成する企業の多くが輸出を収益源としている。そのため、円高は直接的に収益減につながる円高を止めないことには、日本株の上昇は困難である安倍政権が手を尽くして、表面上の株価を押し上げたところで、結局は企業業績の回復がない限り、それは投機筋のカラ売りの格好の機会を提供するだけにとどまるだろう

日経平均採用銘柄の一株当たり利益(EPS)の急低下も止まらない。EPSは1120円を割り込むところまで低下している。大手商社の減損などが背景にあるのだろうが、それにしても急激に低下した印象はぬぐえない。こうなると、「今後はさらに低下するのではないか」との懸念が浮上することになる市場心理の悪化から、積極的な買いが手控えられることになることも、株価の反発を鈍らせることになる

ここまでEPSが低下すると、株価収益率(PER)は世界の投資家が基準とする15倍で計算しても、日経平均株価の適正レベルは1万6750円程度になる。筆者が底値メドの第一段階としている14倍まで売り込まれた場合には、日経平均株価は1万5650円程度まで下落することになる

6日の市場では、まさにこの水準で下げ止まっているしたがって、今の水準をさらに売り込むには、更なる円高やEPSの低下が必要である。このように考えると、目先の底値をつけている可能性はある。EPSの継続的な低下が止まれば、自律反発的な戻りも想定されるとの見方もできる。しかし、一方で円高が止まる気配はない。むしろ、円高はこれから本格化しそうな勢いである

繰り返すように、ドル円相場は日本サイドに水準の決定権はない。G20でも明確に示されたように、通貨安競争は避けなければならず、通貨安を目的とした為替介入もできないことで暗黙の合意がなされているその上、最も力を持っている米国がドル安にしたいのだから、日本サイドとしては円高を受け入れざるを得ない

イエレンFRB議長が明確に示したように、米国は利上げを先送りすることでドル安を演出しているのだから、これに対抗することはもはやできないのである。一方、日銀短観で示された117.46円という、企業の想定為替レートも、筆者にはかなり楽観的にみえる。むしろ、「希望想定レート」と言ってもよいだろう

筆者が企業経営者であれば、昨年末の123円台まで回復した時点で、少なくとも想定されるドル建て収入の3年分の為替ヘッジをしていたであろう。それだけ、昨年12月のドル円の戻り高値は「歴史的転換点」だった

■ 低迷する株価は何を意味しているのか

前回の本欄でも示したように、3年以内に87円から83円程度までドル円は下げる可能性があり、下落期間が5年程度延びるようであれば、65円まで下げるリスクがある4年後の2020年には東京五輪が開催されるが、そのころにドル円が60円台に下げていてもおかしくない、というのが、過去データが示す「可能性」としての将来のドル円の底値メドである。 日銀による緩和策はいまや円安にはつながらないことが明白である。マイナス金利の影響もいまだ不明である。市場では、4月の金融政策決定会合での追加緩和への期待が高まっているが、それこそが「意味のない期待」である。安倍政権は、サミット前に財政出動を伴う景気対策を講じ、さらに消費増税の先送りと衆院ダブル選挙のパッケージで株価を押し上げようとするだろう。しかし、すでにこの材料も織り込み済みである。

ドル円相場を、米国が納得する形で円安に移行させ、市場に相当のサプライズを与えることができれば、もしかすると株価は反転するかもしれない。安倍首相は「リーマンショック級のことが起きない限り、消費税引き上げは予定通りに実行する」といまだ強調している。しかし、それでも選挙の直前で前言撤回をするのか。景気低迷・デフレ継続・株式市場の混乱への安倍政権の結果責任が問われる中、低迷する株価が安倍政権の退陣を求めているようにみえるというのは言い過ぎだろうか

江守 哲

東洋経済オンライン2016.04.07

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