風力・小水力・バイオマスで水素を作る

太陽光からバイオマスまで再生可能エネルギーが豊富にある北海道の大きな課題は、発電した電力に見合うだけの需要が近隣地域に存在しないことである。特に再生可能エネルギーが多い東部には十分な送電ネットワークが整備されてないため、発電した電力を他の地域に送る容量も限られている。その点から期待の高まる解決策が水素サプライチェーンの展開だ

再生可能エネルギーで作った電力が大量に余っても、水素に転換すれば遠隔地まで運んで燃料に利用することができるすでに道内の3つの地域で水素サプライチェーンの実証プロジェクトが始まった水素の製造から輸送・利用までの一大ネットワークを北海道内に形成していく(図1)。

suiso_supply1.jpg図1 北海道における水素サプライチェーン展開イメージ(2016~2020年、画像をクリックすると拡大)。出典:北海道環境生活部

1つ目の場所は北海道のほぼ真ん中に位置する鹿追町(しかおいちょう)である山に囲まれた高原の町では約2万頭にのぼる乳牛を飼育している。乳牛から毎日大量に発生するふん尿は町営の「環境保全センター」に集めて処理する(図2)。1日あたりの処理量は130トンにのぼる

shikaoi_biomas2.jpg
shikaoi_biomas1.jpg図2 「鹿追町環境保全センター」の遠景(上)と近景(下)。出典:鹿追町役場

このセンターの中には、ふん尿を発酵させてバイオガスを生成するプラントがある2種類の発酵槽を使って生成したバイオガスは発電機の付いた燃焼装置に送って、電力・温水・蒸気をセンター内の各施設に供給している(図3)。

shikaoi_biomas4.jpg
shikaoi_biomas3.jpg図3 ふん尿からバイオガスを生成して発電するまでの流れ(上)、発酵槽(左下)と発電機(右下)。出典:鹿追町役場

発電機の能力は200kW(キロワット)で、1日に4000kWh(キロワット時)の電力を供給することができる。一般家庭の使用量(1日あたり10kWh)に換算すると400世帯分に相当する

ただしバイオガスは1日に3900立方メートルも発生するため、発電で使い切れない余剰分は燃やして処理しているバイオガスの主成分はメタンガス(CH4)で、水素(H2)を作ることが可能だこのバイオガスプラントに水素の製造装置を導入するプロジェクトが始まっている

バイオガスの水素を燃料電池車へ

製造した水素は鹿追町内だけではなく近隣の帯広市にも輸送して、燃料電池や燃料電池車・燃料電池フォークリフトなどで利用する構想だ(図4)。環境省が推進する「地域連携・低炭素水素技術実証事業」の1つとして、2015~2019年度の5年計画で実証を進めていく。

shikaoi_suiso2.jpg図4 ふん尿由来の水素を活用した水素サプライチェーン実証事業の実施イメージ。出典:鹿島建設ほか

バイオガスプラントには水素製造装置に加えて、水素ガス貯蔵タンクや水素ステーションも併設する計画であるタンクに貯蔵した水素ガスはボンベに入れて畜産農家や競馬場まで運び、燃料電池を使って電力と温水を供給できる家畜のふん尿から作った再生可能エネルギーを水素に転換して、送配電ネットワークを使わずに農業地域の広い範囲で地産地消する試みだ

同様に乳牛のふん尿を利用した大規模なバイオガス発電プラントが東部の別海町(べつかいちょう)でも2015年7月に稼働した(図5)。別海町では11万頭の乳牛を飼育していて、ふん尿の量は鹿追町をはるかに上回る

betsukai_biogas1.jpg
betsukai_biomas2.jpg図5 別海町のバイオガス発電プラントの遠景(上)と近景(下)。出典:別海バイオガス発電

 バイオガスによる発電能力は1800kWに達して、年間に1000万kWhの電力を供給できる一般家庭の使用量(年間3600kWh)で2800世帯分に相当する規模だ別海町の総世帯数(6400世帯)の4割強に匹敵するそれでも処理できるふん尿の量は1日で4500頭分に過ぎない。さらにプラントを拡大してバイオガスの生成量を増やせば、水素の製造拠点として発展する余地は大いにある

北海道では国が推進する水素社会をにらんで、「北海道水素社会実現戦略ビジョン」を2016年1月に策定した。各地域に分散する再生可能エネルギーを生かしながら、CO2(二酸化炭素)フリーの水素を製造して低炭素な街づくりを推進していく(図6)。

suiso_supply2.jpg図6 再生可能エネルギーによる水素製造が見込まれる主な地域。出典:北海道環境生活部

西側の沿岸部に広がる風力発電に適した地域でも、水素を製造する実証プロジェクトが始まっている。日本海に面した苫前町(とままえちょう)は「風車の町」と呼ばれていて、町内には3つの風力発電所が運転中だ合わせて42基の風車で53MW(メガワット)の発電能力がある

苫前町が運営する「苫前夕陽ヶ丘風力発電所」は3基の風車で最大2.2MWの電力を供給している。その電力を使って水素を製造する計画だ(図7)。発電した電力を集約する変圧器に水電気分解装置を接続して、水からCO2フリーの水素を作る方法である

tomamae_suiso.jpg図7 風力発電を利用した「グリーン水素製造実証プロジェクト」の概要。出典:豊田通商ほか

豊田通商など6社が参加して、2015~2017年度の3年間で実証プロジェクトを実施する。水を電気分解する装置のほかに、発生させた水素ガスを常温・常圧で液化する装置や燃料電池も併設して、水素の製造から運搬・利用まで一連の流れを実証する予定だ。それぞれのコストを検証して事業性を評価したうえで、他の地域にも展開することを目指す。

ダムで水素を作って酪農や温水プールに

 再生可能エネルギーから水素を製造する取り組みはバイオマスと風力だけにとどまらない3つ目の実証プロジェクトがダムの近くでも進んでいる東部の白糠町(しらぬかちょう)に道営の「庶路(しょろ)ダム」がある(図8)。洪水対策と工業用水を供給するために造られたダムだが、発電には使われていない

shoro_dam.jpg図8 「庶路ダム」の全景。出典:北海道釧路総合振興局

北海道庁は庶路ダムに小水力発電の事業性があると判断した地元の白糠町や釧路市、さらに東芝を加えて、2015~2019年度の5年計画で小水力発電所を建設するこの発電所には苫前町のプロジェクトと同様に水電気分解装置を併設して、水素を製造できるようにする計画だ

発電能力は220kWを想定している。1日あたり最大1000立方メートルの水素ガスを製造して、高圧の状態でトレーラーなどに積んで輸送する(図9)。輸送先は道内の水素ステーションのほか、地域の酪農家や温水プールに設置した燃料電池に供給する予定だ。寒冷地の北海道では熱の需要が多い。燃料電池で電力と温水の両方を供給して、CO2フリーのエネルギーの利用を拡大できるメリットは大きい

kushiro_suiso.jpg図9 小水力発電を利用した水素サプライチェーン実証の実施イメージ。出典:東芝

このほかに製鉄の町として知られる室蘭市でも水素と再生可能エネルギーを活用して「グリーンエネルギータウン」を展開する構想がある。市内には風力発電所が2カ所とメガソーラーが1カ所で稼働している。それに加えて室蘭市が運営する「蘭東下水処理場」で、2016年4月中にバイオガス発電設備が運転を開始する予定だ(図10)。

rantou_biogas.jpg図10 「蘭東下水処理場」で実施するバイオガス発電事業。出典:月島機械

グリーンエネルギータウン構想では再生可能エネルギーの電力を拡大するのと同時に、余剰電力を使って水素を製造する。さらに製鉄所でも鉄を作る工程で水素ガスが副生物として発生することから、両方の水素をエネルギー源として利用できるように地域内に水素の供給インフラを整備する計画だ(図11)。

greenway.jpg図11 「室蘭グリーンエネルギータウン」の構想(画像をクリックすると拡大)。出典:室蘭市経済部

室蘭市では2020年までに再生可能エネルギーと水素エネルギーの導入量を2012年度の2倍に拡大することが当面の目標になる。そのうえで電力・ガス・水素・熱のネットワークを市内に拡大して、住宅や工場、自動車やバスにもCO2フリーのグリーンなエネルギーを供給していく

111MWの巨大メガソーラーが運転開始

北海道の再生可能エネルギーは太陽光からバイオマスまで豊富だ。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の規模を見ても、5種類すべてが全国のトップ10に入る(図12)。特に太陽光発電は広大で平坦な土地が多い利点を生かして、沿岸部を中心に巨大なメガソーラーの建設計画が拡大中だ。

ranking2016_hokkaido.jpg図12 固定価格買取制度の認定設備(2015年11月末時点)

すでに運転を開始したメガソーラーでは「ソフトバンク苫東安平(とまとうあびら)ソーラーパーク」が圧倒的な大きさを見せる国内でも有数の日射量になる北海道の太平洋沿岸に広がる166万平方メートルの土地を利用した(図13)。

tomatou_abira.jpg図13 「ソフトバンク苫東安平ソーラーパーク」の全景。出典:SBエナジー、三井物産

2015年12月に運転を開始して、発電能力は111MWに達する。現在のところ青森県の「ユーラス六ヶ所ソーラーパーク」(発電能力115MW)に次いで、日本で2番目に大きいメガソーラーである

年間の発電量は1億800万kWhを見込んでいる。一般家庭の使用量に換算して3万世帯分に相当する。このメガソーラーが立地する安平町の総世帯数(4200世帯)をはるかに超えて、隣接する苫小牧市の総世帯数(8万7000世帯)の3分の1をカバーできる電力量になる

苫小牧市内で2016年1月に運転を開始した「シャープ苫東の森太陽光発電所」の規模も大きい。140万平方メートルの土地を利用して、発電能力は46MWある(図14)。年間の発電量は5100万kWhになる想定で、1万4000世帯分の電力を供給できる

tomatou.jpg図14 「シャープ苫東の森太陽光発電所」の全景。出典:オリックス、シャープ

北海道には地熱の資源量が豊富な場所も数多く分布している。これまでにNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が道内の14地域で地熱開発の調査を実施した。そのうちの半数以上は南西部に集中していて、札幌市から30キロメートルほどの距離にある阿女鱒岳(あめますだけ)の周辺地域も含まれている

この一帯で出光興産など3社が2011年から地熱発電の事業化に向けた調査を進めて、2015年10月には仮噴気試験を開始した(図15)。仮噴気試験は発電所の建設に先がけて実施する掘削調査の後半にあたる。地下2000メートルから噴出する蒸気の量や温度を測定して地熱の資源量を評価するプロセスだ

amemasu.jpg図15 阿女鱒岳地域で実施中の地熱発電に向けた仮噴気試験の様子。出典:出光興産ほか

2017年3月まで仮噴気試験を続けた後に、環境調査などを実施して発電事業の可否を決定する。実際に発電所を建設して運転を開始できる時期は2020年代になる見込みだ。開発期間は長くかかるが、いったん稼働すれば長期にわたって安定した電力を供給できる

地熱で発電した電力もCO2フリーの水素を製造するエネルギー源になる(図16)。2020年代には北海道の再生可能エネルギーで作った水素が全国各地で広く使われている可能性は大きい。国が推進する地球温暖化対策の面でも、「北海道産の水素」が重要な役割を果たすことになる

suiso_supply3.jpg図16 水素サプライチェーンの広域展開イメージ。出典:北海道環境生活部

2015年版(1)北海道:「北の大地が生み出す水力と水素、日本の新たなエネルギー供給基地に」

2014年版(1)北海道:「太陽光発電で全国1位に躍進、日射量が豊富な地域に日本最大のメガソーラー」

2013年版(1)北海道:「再生可能エネルギー200%へ、風力を筆頭に太陽光や地熱も」

【関連する記事】