韓流の街→寒すぎる年の瀬

東京随一のコリアンタウンとして知られる新宿区の新大久保近辺が、近年になく静かな年末を迎えようとしている街では今年、ランドマーク的存在だった商店が経営破綻したのをはじめ、飲食店やアイドルショップの閉店が相次いでいる。これまでなら宴会や年越しイベントでにぎわった師走だが、一帯に数年前の勢いはもうない。地元関係者は、韓流ブームの収束と前後して日韓関係が悪化したことなどが原因とみているが、果たして再起の道はあるのだろうか。(加藤園子)

■韓流ショップは経営破綻、路地は閑散と

12月のある日曜日。日韓の国旗の看板が目印の「韓流百貨店」では、数組の女性客らがのんびりと商品を眺めていた。大半は20歳代くらいで、韓流ブームを牽引(けんいん)した高齢層はたまに入店する程度。並ぶのはポスター、ステッカー、カレンダーなど韓国人アイドルのグッズや、化粧品など。「冬のソナタ」に出演したペ・ヨンジュンさんのグッズもほかの俳優に紛れてわずかにあった。

同店は、最大規模の韓流ショップとして街の象徴的な商店だった。しかし、売り上げの大幅ダウンで昨年4月に東京地裁に民事再生法の適用を申請。現在も営業を続けるが、従業員数は大幅に縮小した

確かに、ブーム当時のごった返す店内と比べると、かなり落ち着いた印象で、客の出入りの割にレジが暇そうだった。同店のチョン・チャンウ店長(36)は、「韓流ブームは2年前まで。もうバブルが消えて、これが平常だと思っている」と割り切る

とはいえ、店の売り上げは最盛期の半分以上に減った。さらに日韓関係の悪化や、一帯であった「ヘイトスピーチ」のデモが影を落とした時期もあったといい、「政治の問題が営業に影響するのは苦しい。それだけに今でも来店してくれる人には本当に心から感謝している」と切実な思いをにじませる。

店を出て、一帯で最もにぎわう路地、通称「イケメン通り」へ。大型化粧品店では、多くの女性客が体をよじらせながらすれ違うほどの込み具合だったが、飲食店やカフェは昼時にもかかわらずがらんとしていた

通り沿いにあるサムギョプサル専門店の男性店長(28)に聞くと、「客が減り、営業時間より早めに閉店してしまうことも多い。周りの店も、12月の予約が昨年より3分の1減ったと聞く」と説明。「観光客の減少は売り上げに影響する。これでは年末の雰囲気が出ない」と嘆いた。

さらに静かだったのは、イケメン通りと同じく大久保通りと南の職安通りをつなぐ別の数本の路地。飲食店や雑貨店があり、以前はこちらも観光客がいたはずだが、犬の散歩をしている近隣住民らしい女性しかいない路地もあった。飲食店の前に立った店員の「ランチいかがですか」と呼ぶ声がやけに響いていた

韓流男性アイドルのファンで、4年前から新大久保に通っているという文京区の女性(60)は、街の変化に敏感だ。「以前なら日曜日は歩道いっぱいに人がいて、なかなか歩けなかった。店もどんどん変わって、最終的には空き店舗。メーンの通りはまだしも、脇道はだいぶ寂しくなってしまった」と、しみじみと話した。

韓国の李明博前大統領の竹島上陸が転機に

新大久保は、「冬ソナ」ブームのころに急激に韓国の飲食店などが出店。中高年でにぎわっていたが、その後はK-POPブームで若い層も訪れるようになった。

この急速に発展した街が急速に勢いを落としていることについて、コリアンタウンの経営者でつくる新宿韓国商人連合会の関係者などは、韓国の李明博前大統領が平成24年に竹島に上陸したことがひとつのきっかけとなったとみている

さらに上陸後も日韓関係の悪化は続く。韓流ドラマやK-POPのメディア露出も減り、一方で新大久保でヘイトスピーチのデモ活動が繰り返された。現在街に来るのは、大半がリピーター。ブーム時からのファンには「政治的な問題があってもファンであることに変わりない」=熊本県宇土市、女性銀行員(26)=との声も多いが、新規ファンは取り込みにくくなっている。

コリアンタウンの店の売り上げは半分から3分の1に落ち、400~500軒あった店舗のうち1割が別の店も入らず空き店舗になっている。また韓国メディアは、日本のテレビなどにかかる韓国音楽の原作使用料が、昨年1年間で40%減ったと報じている。

この状況に焦りを募らせた経営者や店主らが、今年11月に連合会を発足。街の活性化策を検討していくことにしている。連合会事務局では「誰が見ても客が減った。まずは地域密着を目指し、町内会と清掃活動に参加したり地元の子供を招いたイベントをしていきたい」としている。

■新大久保駅前にいた“韓流スター”、実は…

韓国人経営者らが挽回を目指す一方で、街にはじわりと変化も出始めている。韓国料理店が撤退した場所に、中国やタイ、ネパール料理店が進出し始めているのだ。特に新大久保駅と大久保駅の間の地域に増えているという。

さらにはこんな光景も。一通り街を歩き新大久保駅に戻ると、駅前に小さな人だかりができていた。中心にいるのは、金髪や赤髪に重ための前髪、シャープなアイメイクで、ピタッとした白色パンツをはいた、韓流の4人組男性アイドルのようだった。

近くの女性スタッフに聞くと、半年ほど前にできたばかりの「ADDICTION」というグループという。しばらく見ていると、「あ、彼らは日本人なんですよ!」とスタッフ。「彼らがK-POPが好きで、韓流の格好で活動しているんです。どうですか、韓国人じゃないとだめですか」

スタッフは冗談交じりで矢継ぎ早に話し、「検索してくださーい!」と言いながら彼らと走り去っていった。これはこれで新鮮か。「韓流の聖地」の立役者に、韓国以外の人たちが名乗りを上げ始めている

参考 産経新聞 2014.12.22

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