青空に育つミドリムシ→燃料の夢

梅雨明け間もない沖縄県石垣島の青空の下、大きな円型プールで増殖を続けているのは5億年以上前に誕生した藻の一種、ミドリムシだ。2020年までに航空機のジェット燃料になる使命を果たすため、研究員の武田誠也氏(27)は「もっと早く育ってくれ」と願いながら、緑色の微生物の健康状態を日々チェックしている。

武田氏は生物機構・機能科学を学ぶ大学院時代、光合成の仕組みを使って油をつくる研究に熱心なユーグレナの存在を知り、入社した。世界的なアオサンゴ群落の石垣市白保に建つ生産技術研究所に赴任したのは3年前。現地研究員は当初1人で、不安を抱えた初の離島生活だったが、今やミドリムシとは「色で調子が分かる」ほど絆を深め、仕事帰りには自社が運営するカフェで粉末ミドリムシ入りの泡盛リキュール「石垣緑酒」を研究所の仲間と酌み交わす

ユーグレナは05年に世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功し、ビタミンやミネラルなど59種類の豊富な栄養素が注目され、食料品や化粧品などに使われてきた。自社製品のほか、コラボレーション商品への原料供給も行い、15年9月期で前期比95%増の59億2300万円を見込む売上高は100%これらヘルスケア事業が生み出す

一方、ミドリムシは二酸化炭素を吸収、成長する光合成の過程で軽質の油を作り出すため、バイオマス燃料としての研究、開発も進められてきたユーグレナの出雲充社長は4月のブルームバーグのインタビューで、「バイオジェット燃料を2020年までに商業化するという目標でやっているが、これはかなり自信がある」と発言将来的に売上高が「ヘルスケアよりバイオ燃料の方が大きくなるのは、市場の大きさからして自然」と述べた

米石油メジャーとも連携

バイオジェット燃料については5年前に全日本空輸や日本航空の開発要望を受け、JXホールディングス、日立製作所と共同研究を開始した背景には08年7月にニューヨーク原油先物価格が1バレル=147.27ドルの史上最高値を付け、燃料高が収益を圧迫したほか、環境問題の高まりで温室効果ガスの排出削減を迫られた航空会社の事情があった

ユーグレナは米カリフォルニア大学サンディエゴ校と4月から9月まで、燃料向けの遺伝子組み換えミドリムシ「スーパーユーグレナ」の屋外培養に向けた研究を実施。5月には、米石油メジャーのシェブロンの合弁会社と燃料精製の実証設備建設に必要な技術ライセンスの付与、基本設計に関する契約を結んだ

石垣産ミドリムシは現在成長度合いに応じ大小さまざまな培養槽で育てられ、2月からは最も大きい商業用の140トンプールで培養も開始収穫後は施設内の装置で粉末状に加工される。ユーグレナのホームページにはこれまでの累計生産量がリアルタイムで示され、その数は18京(けい)5800兆匹。ジェット燃料として使われた場合、ジェット機を4600キロメートルを飛ばすことができるとしているが、これは日本-バンコク間の片道距離に過ぎない

ジェット燃料として実用化するには一層の大量培養が必須条件で、出雲社長は「例えば、工場が10倍になった時にさまざまな予想していなかった問題が起きる。こういう問題に対処し、10倍、100倍のプラントをオペレーションできるように研究開発している」と言う。武田氏も、「140トンスケールの培養ができており、それをただただ増やせば良いというのが私たちの根底にある」と話した

コストの壁、「榎本藻」は当初リッター1000円

しかし、エタノールなど他のバイオ燃料と同様、原油と競争可能なレベルまでコスト削減ができるかどうかは大きな課題だ。上期決算の説明資料によると、世界初の大量培養に成功した05年当時のコスト(重量単価)を100とすると、07年と09-11年の過去2回の技術革新で大幅に低下し、14年時点では5分の1以下に減った

それでも出雲社長は原油と「『ユーグレナオイル』が戦うのはまだまだ非常に難しいイノベーションが必要」とし、大型設備での技術開発を通じ、18年までにさらなる低下を目指している。他方、今後欧州や日本では温室効果ガスの排出に課税する動きが加速するとみており、「政府のサポートは大切」とも指摘した

高増殖性の重油生産藻類を研究する神戸大学の榎本平教授は商業化は最終的にコスト問題に行き着き、自身が開発・培養する「榎本藻」のケースでは当初「どう見繕っても、1リットル当たり1000円を超えてしまう状況にあった」と振り返る

大規模化だけでは実現できず、効率的に生産し、抽出するといういずれのステップも超えていかないといけない」と榎本教授。品質の良いものをどれだけ大量に作れるかが一番大変で、「それが今乗り越えられてきている」と言う

エース経済研究所の池野智彦シニアアナリストは、ユーグレナについて「競合技術は出ているが、この会社が中心になり、後は追随するような技術ではないか。先行優位にある」とみている

離島生活への漠然とした恐怖感、不安感から入社試験では石垣島への転勤を拒否した武田氏。一転赴任を決意したのは、会社側がバイオ燃料の開発に携わることを条件としてくれたためだ。現在では「かなり良い日射条件で屋外で研究ができるのは他社にない大きなメリット」と感じ、藻のバイオ燃料研究で「最先端という自負はある」と語った

参考 BloomBerg  2015.07.08

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