隠れたマルチプレーヤー「火力発電」

日本でも今後、大量導入されると予測されている再生可能エネルギー。その中でも、太陽光や風力といった変動電源を電力システムにどう統合させていくべきなのかが議論されています“再生エネ時代”の電源の最適化を図る鍵の1つは、「火力」の新たな価値にあります

■“再生エネ時代”は系統の柔軟性高く

太陽光や風力の導入が増加し、天候により大きく出力変動した場合、周波数が大幅に変動するなど電力系統が不安定になり、需給バランスを維持できなくなることが懸念されています太陽光や風力は変動電源であることから、電力システムにおいて、瞬時から年間などさまざまな時間レンジでの需給調整が課題になっています

出力変動が大きい電源を受け入れて需給をバランスさせるには、どのような方策が有効なのでしょうか。一般社団法人・火力原子力発電技術協会専務理事の船橋信之氏にうかがいました。

「変動電源を受け入れるには、系統が高い柔軟性を持つことが重要です。そのためには常に十分な予備力が必要になります。必要な予備力量と変化速度を確保するための対策は、(1)系統電源(火力と水力)のさらなる活用(2)再生エネの調整力(3)需要の能動化(デマンドレスポンス)(4)蓄電池などの新しいエネルギー貯蔵技術の導入(5)送電網の拡充と連系線の活用-です瞬時の電力需給バランスを確保するには、気象条件に左右されずに負荷追従が可能な火力発電が重要な役割を果たします

日本の事業用火力プラントは、効率を下げてでも需給調整機能に対応しています再生エネの大量導入を支えているのは、火力なのです。そういう意味では、火力のライバルは蓄電池でもあります互いに競い合うことで、需給調整機能の技術も進歩していくでしょう

化石燃料を使う火力発電は二酸化炭素(CO2)排出問題のほか、設備費は安価であっても燃料費が総費用の大きな割合を占め、大半を輸入に依存していることから安定供給や経済性などの課題があります

しかし一方で、利点もいろいろあります急激な需要変動に対応可能で、立ち上げ時間が短く、出力変化速度(キロワット/分)が速く、最低負荷の小さな電源(下げ代が大きい)です。また、低出力運転時でも効率が高く、十分なガバナフリー(発電機出力や周波数の増減に応じた回転数変化を検出して制御弁を開閉し、回転数を一定に制御させる)容量が確保でき、多様な燃料種への対応が可能です。火力は瞬時、短期、長期にわたる需給変動に対応できるマルチプレーヤーです

欧州では火力の事業環境が悪化

日本は来年4月に電力小売り全面自由化の見通しですが、先行する欧州では、再生エネ市場が急拡大する一方、火力の事業環境が悪化していています。ドイツの大手電力会社エーオンは、原子力や火力などの系統電源は収益が悪化し、昨年12月に原子力・火力・ガス部門を切り離して別会社化しました。新生エーオンは収益性が高い再生エネ、配電、顧客サービスに特化することを発表し、話題になりました。今年3月には、インシング発電所の最新鋭ガスコンバインド発電2ユニットの廃止を申請しています。

欧州では、再生エネの優先給電により、既設火力の稼働率は大きく減少し、市場決定価格も大きく落ち込んでいます需給調整能力に優れるガスタービンコンバインドサイクル発電(GTCC)でさえも、市場から押し出され高い機能を発揮する機会さえ失いつつあります

さらに、2001年に採択された大型火力発電に関するEU指令(LargeCombustion Plant Directive)により、低効率の火力発電所の廃止が進められています。また、火力発電所から排出される二酸化硫黄(SO2)や窒素酸化物(NOx)などの大気汚染物質の排出基準強化により、石炭火力発電所の閉鎖が今後加速する見通しで、火力発電の存続、新設が困難な状況になっています

しかし、再生エネの導入量の増加に伴い、電力システム全体の需給調整の問題が発生する理由として、再生エネの発電量が変動する問題もありますが、従来系統の需給調整を担ってきた火力などの運用量の減少があることを指摘する声もあります

火力の新たな価値と役割

欧州では、頻繁な起動停止や過酷な太陽光の出力変化により、火力プラントの疲労劣化が進行しています修繕費や燃料費が増加し、プラント改造や技術開発費が増加しています身を削って需給調整しても、現状においては対価が得られないため、火力による需給調整を誰もやろうとしない状況になっています」と船橋氏は解説してくれました。

では、日本の電力システムで大量導入される再生エネと火力が調和していくにはどうすればよいのでしょうか?

電力システムの需給調整に経済的価値を与える技術開発や、設備改造に対する投資回収を可能にし、対価が得られる仕組みを作ることが重要です再生エネ時代では、需給調整機能の強化が不可欠です。火力はその柔軟性に新たな価値があります

火力の需給調整機能の高度化を図るには、(1)最低出力の低下(2)出力変化速度の向上(3)起動時間の短縮(4)熱疲労劣化対策(5)部分出力を含む効率改善(6)起動工程合理化および運用の高度化-を行う必要があります

日本のプラントメーカーはすでに、火力の需給調整機能向上の技術開発に着手しており今後火力の高い柔軟性は、世界の標準となる可能性があります」(船橋氏)

電力系統内の火力発電の数が減少したとしても、負荷調整能力のさらなる向上にむけた技術開発を進めることで、最大の調整力を発揮できるかもしれません再生エネ時代の電力需給調整で、火力の柔軟性に期待しています

参考 産経新聞 2015.07.19

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