長生き本当に幸せか?→高齢者の性と犯罪

80歳のストーカーから78歳のAV女優まで、ノンフィクション作家の新郷(しんごう)由起さん(47)が長寿社会の闇の部分を取材した著書「老人たちの裏社会」(宝島社)が話題を呼んでいる性の問題のほか万引や暴行なども取り上げ、「弱者で無害なお年寄り」のイメージを覆すルポルタージュだ。自らも取材相手からストーカー被害を受けた新郷さんは、「『長生き』は本当に万人にとって幸せなのだろうか」と問い掛ける。(寺田理恵)

■「JK」は熟年高齢者

取材対象には、78歳になっても「現場の雰囲気が好きなの」と意欲を示す古希熟女市場で人気のAV女優がいれば、「今のうちにやれることはやっておこう」と現役デリヘル嬢と二足のわらじを履く69歳のAV女優もいる。いずれの女性も、高齢になってからのAVデビューだった

高齢者の取材を始めた新郷さんはAV業界の「JK市場」、すなわち熟年高齢者市場が活性化しているのを知った。しかし、周りの人たちに「JK」と言っても通じず、「女子高生」と勘違いされたという。長寿社会の女性の新たな生き方だった

高齢男性から大金を巻き上げる高齢女性もいる。著書では、腰の手術で入院した際に知り合った高齢男性らから「ここ数年で3000万円は頂いたと思うわ」と話す68歳の女性が登場。脳ドックの検査費用などを名目とした“デート援助”で、「腰のせいでエッチは無理」と伝えてあるから、相手によっては手も握らせない

「女性から『ちょっと困っている』といわれると、男性は自分をよく見せようと多めに包む。『お金がほしい』とはひと言もいわれず、自主的に差し出しているので、被害がなかなか表に出てこない」と、闇の深さを指摘する。

■成功体験が忘れられず

雑誌や新聞を中心に執筆してきた新郷さんが、高齢者の取材を始めたのは平成25年、高齢者の万引の現場を初めて目撃したのがきっかけだ。店員にとがめられた高齢者が「この店は年寄りいじめをする」「俺は被害者だ」と大騒ぎする姿を見て、「ステレオタイプの哀れな老人と現実は違う。高齢者の心の闇の部分に何かある」。ノンフィクション作家の直感が働いた。

実際、警察庁のまとめによると、60代以上の高齢者が加害者となったストーカー犯罪は、25年には1919件と10年前の約4倍に上った

 男性は女性に比べて家族との死別や退職で孤立しやすく、暴走する可能性が指摘されている。著書では、ファミリーレストランのアルバイト店員の若い女性にコーヒーのおかわりなどで頻繁に声をかけていた高齢男性が、女性の自転車のかごにプレゼントの菓子やハンカチを入れておくなどして女性を恐怖に陥れるケースが紹介される。

70歳の男性が37歳のシングルマザーから子育ての苦労や仕事の愚痴を聞いているうちに「運命の相手」と一方的に思い込み、強引にキスしたり、さらにエスカレートしたりして警察沙汰になったケースもある

新郷さんは取材経験を基に、高齢者ストーカーの中には現役時代の成功体験から自分はもてると思い込んでいる男性が2割程度いるとみる。「男性は特に年下の女性から必要とされると、自分の価値が高まると感じやすいため、女性を逃そうとしない女性は人生経験豊富な人が道を踏み外してくるとは思わないので、最後は泥沼です

■留守録に「寂しいよぉ」

取材を続ける中で自身も複数の高齢者ストーカーから被害に遭い、「由起さぁん、寂しいよぉ。電話くださぁい」などと、何度も携帯電話の留守番電話に録音された。取材で話を聞くという目的も明らかにしていたうえ、「自分はいい年だ」と思っていたが、相手にとっては違った。

デイサービスに通ったり入院したりしていない健康な高齢者には、誰も積極的にかかわってくれない。久しぶりに、しかも年下の異性に受け止められたのは至上の喜び。『楽しかった』で済めばいいが、『運命の人』になってしまう」。新郷さんは取材時に相手の生い立ちから聞き、相手の話す言葉のニュアンスも理解しようと努める。それが、寂しい高齢者にはうれしかったようだ。

留守録は「伝え忘れたことがあるので、お電話ください」で始まり、次第に幼児化していく。怖がられていると気づかず、一方的に距離を縮めようとする。高齢男性のストーカーの恐ろしさは、「生い立ちから老後の寂しさまで、『全て背負え』とフルパワーで乗りかかってくる」ところだったという

生きる意義や、社会に求められている実感がないのはつらい誰も将来、ストーカーや売春をしようと思って年を重ねてはいない。明日はわが身だと思います」。人ごとではない高齢者の不安と孤独感長くなった老後をどう生きるか、考えさせられる一冊だ

参考 iZa  2015.05.13

【関連する記事】