都会派でプレミアムコンパクト

 “市場ニーズの拡大”は、時として“サイズ拡大”と同義になる

それが顕著なのが、クルマの世界。例えば、BMWの3シリーズを代表とする「Dセグメント」の今の標準サイズは、10年前は5シリーズなどその1つ上のクラスである「Eセグメント」の標準的なサイズだった。快適性や利便性を求めるユーザーの声に応えていくことで、ジリジリとサイズが拡大していったのだ

【SEと6sで動画サービスを見比べる】

 スマートフォンの世界でも、同じことがいえるアプリの高度化やクラウドサービスの利用、YouTubeなど各種動画サービスの普及など、その活用範囲が拡大したことにより、より大きな画面と万能性を求められるようになった。クルマの標準サイズが拡大し、より大型で万能なSUV(スポーツユーティリティビーグル)が人気を博したように、スマートフォンもまた“大型化”の波にさらされたのだ

しかし、揺り戻しもある。なぜなら、大型化によって損なわれる「本来的な使い勝手のよさ」もあるからだクルマでいえば都市の狭い路地でもためらうことなく入り込める取り回しのよさであり、スマートフォンでいえば片手でさっと取りだしてそのまま使える気軽さだ

iPhone SEはまさにその「揺り戻し」を担う新モデルだ現行のフラグシップであるiPhone 6sと比べても遜色ない性能と高級感を持ちながら、iPhone 5sと同じサイズを維持大型化という市場全体の流れに対して、“プレミアムコンパクト”という新カテゴリーを作ろうとしている。iPhoneのラインアップ戦略の中でも、今後の市場トレンドをさぐる探査針だ

では、そのiPhone SEはどれだけ魅力的な製品に仕上がっているのか。実際の利用を元にリポートしたい。

片手で意のままに操れる心地よさ

人馬一体。これは自動車の評論において、“意のままに操れる”ことを現す最上級の褒め言葉だ。それをひもときたくなるほど、iPhone SEの使い勝手は心地よい。iPhone 6シリーズでサイズ拡大するまではそれが当たり前だったのだが、そこに立ち返ると、「ああ、これだよ、これ!!」と膝をたたきたくなる

とりわけ快適さを感じるのが、混雑した電車での移動中。吊革につかまったままでも、片手でLINEやTwitterで不自由なくメッセージの処理ができるし、ニュースアプリのチェックから各種ゲームのプレイ、「dTV」や「Netflix」で動画を見るのも楽々だ。全て片手でできる。東京や大阪など都市圏在住で、混雑した電車での移動が多い人ならば、この片手持ち・片手操作だけでも最大級の価値を感じるはずだ

そして、あらためて再認識するのが、iOSはもともと「小さい画面向け」だということ。これは優劣の話ではなく、設計思想がそうなのだ。基本のUIデザインから日本向けのフリック入力まで、iOSは当初から「小さい画面・小さい端末」に最適化して設計されていた。だからこそ、筆者が普段使っているiPhone 6sからiPhone SEにダウンサイジングをしても、使いにくくなったとはまったく感じない。

一部で「今さら小さな画面では、文字などが読みにくいのでは」という声もあるようだが、それも杞憂だ。iPhone+iOSは画面の拡大縮小が素早く、スムーズかつナチュラルに行える文字が小さいと感じたなら、画面をダブルタップかピンチアウトして拡大すればいいだけであるごく自然に4型サイズのスクリーンでも不自由なく使えるのは、ハードウェアとソフトウェアが調和しているiPhone+iOSの特権といえるだろう

また、iPhone SEを使っていて、望外にこのサイズとデザインの使いやすさを感じたのがカメラでの撮影時だ。周知の通り、iPhone 5sを踏襲したiPhone SEのデザインは直線を基調にしており、iPhone 6sより厚みがあるこれがカメラ撮影時にはホールド感の向上につながっており、写真撮影は最近の“ワイド&スリム”なスマートフォンより明らかに使いやすいと感じた

iPhone 6sと比較してもカメラの使い勝手はiPhone SEの方が上だ惜しむらくは、このカメラモードの使いやすさはセルフィー(自撮り)でも発揮されるのに、それに使うFaceTimeカメラ(インカメラ)は120万画素にとどまり、500万画素のiPhone 6sと同等レベルまで強化されなかったことだろうここも強化されていたならば、SNSとセルフィーの利用が多い女子中高生にとって、iPhone SEは最強・最適なスマートフォンになっていたはずだ。次期モデルでぜひ改善してほしいところである。

 総じていえば、iPhone SEは大型化が著しいスマートフォンの中で、群を抜いて使いやすい1台に仕上がっている。これは単純にハードウェアサイズによるものだけでなく、iOSというソフトウェアとの連携・調和による部分が大きい。AppleはiPhoneを「4型最強のスマートフォン」とし、小型化と高性能化の両立をアピールしたが、それ以上に、まさに人馬一体のような使い勝手のよさこそがiPhone SEの身上である

●ハイエンドで通用する基本機能

iPhone SEにおいて、Appleが特に注力した機能強化ポイントは2つある。1つはスマートフォンの心臓部である「CPUとメインメモリ」。そして、2つ目が一般ユーザーにとって最も重要な機能である「カメラ」だ

まず、CPUとメモリだが、こちらはApple製のA9チップを軸にiPhone 6sとまったく同じ仕様を搭載これは現行のハイエンドスマートフォンの中でも最高クラスの処理能力を持っており、アプリの利用から動画サービスの利用、さらには4K動画の撮影までそつなくこなす今後2~3年、最新のiOSにバージョンアップしながら、何の不満もなく利用できるだろうiPhone SEの投入にあたり、AppleがCPU性能に一切の妥協をしなかったことは高く評価できる

 カメラについてはiSisghtカメラ(アウトカメラ)がiPhone 6sと同等の1200万画素になった。Live PhotosやTrue Toneフラッシュ、4Kビデオ撮影まで、iPhone 6sで実装された最新のカメラ機能は全て対応している。詳しくは作例を参照してもらいたいが、iPhone 5sとの差は歴然である先述の“カメラ利用時の持ちやすさ”もあわさって、最新スマートフォンの中でも、iPhone SEは特にカメラ性能がいいモデルとなっている。なお、蛇足であるが、iPhone 6sと同等のカメラ性能ながら、iPhone SEはカメラ部が出っ張っていないこともうれしいところだ

また、iPhone SEにおける明確な機能強化ポイントではないが、実際に利用して感じた同機のメリットが「バッテリーが長持ちすること」である。今回、比較対象としてiPhone 6sとiPhone SEをあわせて持ち歩いていたが、iPhone SEの方が明らかにバッテリー消費量が少なかったこの違いはディスプレイのサイズや性能の違いによるところが大きそうだが、「バッテリーが長持ちするiPhoneが欲しい」という人にとって、iPhone SEは魅力的な選択肢になりそうだ

●画面サイズと通信性能の違いをどう評価するか

一方、iPhone 6sとiPhone SEで、明確に違うのは「ディスプレイ」と「通信性能」である。

まずディスプレイのサイズが違うのは、両者の差別化ポイントなので当たり前。iPhone SEは4型のRetinaディスプレイで、iPhone 6sは4.7型のRetinaディスプレイになる。

前述の通り、日常的な使い勝手ではiOSのUIデザインのよさもあり、iPhone SEの画面サイズの小ささを不利に感じることはない。また今回、dTVなど最近人気の動画配信サービスや、ナビタイムジャパンのカーナビタイムなど、大画面ディスプレイの恩恵を感じやすいアプリやサービスも使ってみたが、iPhone SEだと画面の小ささを不利に感じるということはなかった。ただし、カーナビアプリでは、運転中の視認性ではやはり4.7型ディスプレイのiPhone 6sの方が使いやすいのも確かだ。筆者の個人的な印象では、動画配信サービスよりもカーナビアプリの方が、大画面の恩恵を感じやすい。カーナビアプリを多用するというならば、iPhone 6sやiPhone 6s Plusなど大画面モデルの方がお勧めである

次に通信性能だが、iPhone 6s/6s Plusは最大300Mbps(国内では262.5Mbps)のLTE通信に対応するのに対して、iPhone SEは最大150Mbps。Wi-Fi性能も前者は最大866Mbpsだが、後者は最大433Mbpsである。ここはCPU性能と違い、コンパクト化で妥協された部分といえる

iPhone SEと5sどちらにもドコモのSIMカードを挿し、実際に都内で簡単にベンチマークを取ってみると、iPhone SEの実効通信速度は、ダウンロード(下り)だとiPhone 6sのおおよそ半分くらいだった。これはiPhoneをテザリングモードで使い、MacBookなどをつないでいる人には少し気になる部分だろう。しかしその一方で、LINEやSNSなど“スマホ的”な使い方で重要になるアップロード(上り)速度は、iPhone SEとiPhone 6sでの差はほとんどない。これはiPhone 6s/iPhone 6s Plusで採用した高速化技術が、主にダウンロード速度の向上のためのものだからだ。実際の使い勝手で見ても、ノートPCのテザリング利用でもしなければ、iPhone SEだからといって通信速度を遅いと感じることはなかった

●iPhone SEのあらがいがたい価値

筆者は2014年のiPhone 6、2015年のiPhone 6sともに発売日に購入し、メインのスマートフォンとして日常的に使ってきた。また同じく日常的に使っているAndroidスマートフォンも、画面サイズが5.2型のXperiaである。スマートフォンの大型化を、「市場ニーズの変化」であり、「時代の潮流」だと受け入れて積極的に使ってきた。

しかし、iPhone SEを使った時の“しっくりとくる”感じはなんだろう? いかに理屈で抑えつけようとしても、あらがいがたい魅力として押し寄せてくる。これはすなわち、身体性の問題なのだ。まったくもって理性の問題ではない

無論、iPhone SEによるダウンサイジングが、今後の市場トレンドだとは思わない。やみくもなスマートフォンの大型化に一定のブレーキをかけるかもしれないが、Apple自らが範を示したように、iPhone 6sやiPhone 6s Plusのサイズにもそれぞれ市場があるからだ。

とはいえ、私にはiPhone SEのサイズ感が合うようだ。試用し始めて3日で、理性ではなく身体的欲求として、筆者はiPhone 6sからiPhone SEに機種変更することを決めた。

もし読者諸兄が、今のスマートフォンのサイズに違和感を覚えているのなら、店頭で新しいiPhone SEを手に取ってほしい。掌に包み込んだ時に“しっくりくる”と感じたのなら、恐らくそれがあなたにとってのベストサイズということだ。

ITmedia Mobile2016.03.29

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