資源価格下落は未曽有のボーナス

世界経済が大きく動揺しているこの変化を利用して、日本の実体経済を成長させることができる

【図表はこちら】

それは、資源価格が下落しているからだ。これは、日本経済に対する未曽有のボーナスである物価の引き下げを通じて、これを実質消費の増加につなげることこそ、新しい時代の成長パターンでなければならない

● 資源価格下落は経済にマイナスではない 日本は最も大きな利益を受ける

現在、金融市場で生じている様々な動向は、経済活動にマイナスの影響を与えると考えられることが多い。

しかし、日本の立場、とくに消費者の立場から見れば、まったく異なる評価が可能だ。

株価の下落が、株式保有者にとって大きなマイナスであることは間違いない。しかし、実体経済の立場から見れば、さして重要なこととは思えない

これまで、日本の株価は、実体経済の動きとは乖離して上昇していた。だから、下落局面になっても、実体経済には大きな影響を与えない

原油価格をはじめとする資源価格の下落も、マイナスであるという意見も多い。しかし、資源価格下落が経済に与える影響は、国や産業によって異なる

産油国にとっては間違いなくマイナスであるし、新興国は資源輸出に依存している度合いが大きいから、大きなマイナスの影響を受ける。経済は減速し、これまで投資されていた資金が流出するため、株価が下落し、通貨は弱くなる

アメリカの場合は、やや複雑であるアメリカは産油国であり、石油の輸出国である。とりわけシェールオイルについては大変大きなマイナスの影響だ。他方で、アメリカはガソリンの大量消費国であるから、ガソリン価格の低下はアメリカの国民にとっては望ましい

日本は資源輸入国なので、ほとんどの企業活動や消費者の立場から見て、プラスの効果がある

とくに通勤を自動車に依存している日本の地方都市にとっては、大変大きな利益であるガソリン価格が低下すれば、その分を他の商品に回すことができるだろう

日本は資源価格の下落によって利益を受ける典型的な国だ。

● 消費税の税収総額に匹敵する利益 国民生活に反映させることが重要

資源価格の下落が産油国や新興国の経済に悪影響を及ぼし、それが日本の輸出を減らすという意味でマイナスの影響があるとの意見もある

中国への輸出が減少することは事実である。しかし、それによる輸出の減少よりも、資源価格の下落によって輸入が減少する効果のほうがずっと大きい。だから、日本の貿易収支についてはプラスに働く

具体的な数字を見れば、つぎのとおりだ(図表1、図表2参照)。

◆図表1:輸出入額の推移

◆図表2:貿易収支の推移

2015年11月の輸入額は、前年同月比で15.5%減少した。額では1.1兆円だ。年率に換算すれば13.2兆円になる

この間に、実質輸入量は減少していない(GDP統計における実質輸入の季節調整値は、14年7~9月期の79.8兆円から15年同期の81.1兆円に増加している)。したがって、上で見た輸入額の減少のほとんどは、輸入価格の低下によるものである

輸出も減少したために収支差の減少は輸入減より小さかったが、それでもかなりの大きさだ。貿易収支は、季節調整値で見ると14年11月には6681億円の赤字であったが、その後ほぼゼロになり、15年11月には1032億円の黒字になった

今後も、原油価格低下の影響で、季節調整値の貿易収支はプラスになる可能性が高い

 これは、かつてなかったほどの大きなボーナスが、日本経済に与えられたことを意味するこれまで資源国に移転されていた富が、日本に戻ってくることを意味するわけだ

上で見た13.2兆円という額は、消費税の税収総額にも匹敵する。3%の税率アップによる増税額よりは、ずっと大きい。

消費税の増税や存在そのものが、日本経済にマイナスの影響を与えると言っている人々が、なぜ輸入価格下落を重視しないのか、まったく不思議である。

これを企業の利益の段階にとどめるか、あるいは国民生活に反映させることができるかどうかが重要な問題だ。

● 輸入物価下落は消費者物価に 十分反映されていない

図表3は、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、消費税の影響除く)の対前年比と、6ヵ月前の輸入物価指数(円ベース、総平均)の対前年比(%)の10分の1を示したものである(例えば、2015年7月には、15年1月の輸入物価の対前年比の10分の1が示してある)。

12年後半以降、15年前半までの期間においては、両者の間にきわめて強い相関が見られる。

つまり、「対前年比で見て輸入物価変動の10分の1が半年後の消費者物価変動に現われる」と考えると、消費者物価の動きをよく説明できるわけだ。

◆図表3:消費者物価指数と輸入価格物価指数の関係

ところが、この関係は、15年後半以降、成立しなくなっている。つまり、上の法則から言えば、消費者物価指数の対前年比がマイナス1%程度になるべきところ、実際には0%の近辺にとどまっている。

これは、輸入価格下落の効果が消費者物価に十分反映されていないことと解釈できる。

なお、11年後半から12年前半にも両者の乖離が見られる。このときには、輸入物価が上昇したにもかかわらず、消費者物価はほぼ0%の伸びにとどまった

上の相関関係が成立すれば、16年5、6月頃の消費者物価指数の対前年比はマイナス2%程度になるはずであるが、実際にはそうならない可能性が高い。

15年においては、すでに見たように、輸入価格の下落によるきわめて大きなボーナスを日本経済は得た。それにもかかわらず、実質成長率ははかばかしくなかった

年率換算の対前期比は、1~3月期には4.4%になったものの、4~6月期にはマイナス0.5%とマイナス成長に陥り、7~9月期も1.0%でしかない。これは日本の経済が資源価格下落という絶好のボーナスをうまく利用できなかったことを意味する

その原因は、いま見たように、原材料価格の下落が、企業利益の増大と内部留保の拡大にとどまってしまって、消費者物価を下落させていないことである

● 資源価格は今後も低位にとどまる 経済成長に活用できるか

図表3の輸入物価は、12月までのデータしか示していない。

したがって、原油価格の1バレル30ドル台への下落と、円高を反映していない。これらが反映されれば、輸入物価は、さらに下落する

しかも、資源価格の下落は投機の終了によってもたらされているものであるから、簡単に反転してしまうというようなものではない。

図表4には、アメリカエネルギー情報庁による原油価格の予測を示す。これによると、2016年中は、1バレルあたり40ドル程度の値が続くことになっている。

なお、この予測は12月時点のものであるため、1月の状況を考えれば、さらに価格が下がる可能性がある。

◆図表4:原油価格の推移

 円高が進行すれば、輸入物価はさらに下落する

つまり15年に起きたような変化は今後もさらに続くわけである

したがって、以上のような資源価格の下落を経済成長に活用できるかどうかが、日本経済にとって大変大きな意味がある

そのためには、日本銀行が掲げているインフレ目標は、撤廃する必要がある

● インフレ目標は撤廃すべき すでに非現実的になっている

2%というインフレ目標は、すでに非現実的なものとなっている。

輸入物価がこれだけ下がって、なおかつ消費者物価が2%も上昇するなどということはありえない。為替レートが円高になれば、なおさらそうである。

日銀は、「生鮮食品とエネルギーを除く指数(日銀版コアコアCPI)」を見れば上昇していると言う。しかし、それは、これまでは食料品価格が上昇していたからである

ところが輸入物価指数を見ると、食料品も下落している(2015年12月の食料品・飼料の輸入物価指数の対前年比は、マイナス7.0%)。したがって一定のタイムラグを伴って、消費者物価でも食料品が下落するはずである

物価引き上げを目標とする日銀の立場から見れば、確かに望ましくないことだが国民の立場から見れば、明らかに望ましい変化が進行しているのだ。 野口悠紀雄

 参考 ダイヤモンド オンライン  2016.01.21

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