財務省よ→国民の洗脳を続けるつもりか!

新聞が増税延期に反対する情けない理由

 財務省の官僚を中心とする増税派にとって、今回の消費増税の見送りは痛恨だった。その恨み節は「安倍首相が増税を明言していた。それなのに増税を見送るのは『公約違反』」という言葉で表された

また先週2日の新聞各紙の社説を見れば、新聞社の恨みの深さもわかる新聞は軽減税率を受けるので、消費増税は基本的に歓迎である。消費増税をしてもらわないと、軽減税率も受けられないから意味がない。だから、増税見送りを恨むのだ。

各紙の見出しを並べてみよう。

朝日「首相の会見 納得できぬ責任転嫁」
毎日「増税再延期表明 未来への責任はどこへ」
読売「消費増税延期 アベノミクスをどう補強する」
産経「消費増税の再延期 今度こそデフレ脱却を 社会保障への影響食い止めよ」
日経「参院選でアベノミクスに国民の審判を」

保守系は表現が穏やかであるが、いずれも増税見送りを評価しておらず財政再建や社会保障のための財源はどうするのか、という批判的なトーンである

そこまで心配するなら、新聞への軽減税率を辞退すべきだと思うが自らの新聞だけは特別待遇というわけで、舛添氏の政治資金使用みたいに自分には甘すぎる論調である

消費増税の最終的な根拠は財政赤字の問題である。借金は悪いに決まっていると言えるかといえば、そうとも限らない。状況次第である。

天下り先をなくすことには猛反発する連中

 本コラムでは、これまで日本の財政状況はそれほど悪いとはいえないことを指摘してきた。

例えば、2015年12月28日「「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか…なんと2016年、財政再建は実質完了してしまう!」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156)であるが、これはストックと合わせての分析である。

なぜ、財政赤字は悪いのか。わかりきったことのようであるが、一応財務省の見解を見よう。財務省のサイトに、財政パンフレットがある(http://www.mof.go.jp/budget/fiscal_condition/related_data/)。

その中に、「日本の財政関係資料」という項があり、そこで財政赤字の問題点が指摘されている(下図)。

①公的サービスの水準の低下、②世代間の不公平、③民間部門の経済活力の低下、④政府への信認低下による金利上昇と、4項目だ。①は支払い金利の増加、②は償還費の増加、③は金利の上昇、④も金利の上昇、と金利の上昇を問題視している。

結論から言えば、ネットベース(負債の総額から資産を引いた額)で見ればこれらは大したことではなくなる

債務のストック分析では、ネットベースの国債は200兆円もない(前述、2015年12月28日のコラムを参照)。資産の多くは金融資産なので金利収入があるものが多い。ただし、資産の中の有形固定資産は収益を生み出さないモノもある

いずれにしても、ネットベースで国債が少ないことは、①の支払い金利について、その悪影響をかなり相殺するだろう。③と④の金利上昇は、今やマイナス金利であるので、まったく気にしなくてもいい

では、②の償還費であるが、ネットベースで債務を考える立場からは、償還するなら資産を売却すればいいとなる。資産の大半は金融資産なのだから、資産売却は容易である。もっとも、金融資産の多くは、政府関連会社(特殊法人、独立行政法人等)への貸付金や出資金であるこれらを売却することは、政府関係会社を民営化することを意味する

これは官僚が猛烈に反発する政府関係会社は天下り機関なので、民営化すると天下りができなくなるからだ

天下り先は温存、国民には増税

 こうした観点から、増税派が国債を「ネットベース」ではなく「グロス」(単なる総額)で強調する理由の一つがわかるだろう。

ネットベースの話になれば、当然政府のバランスシートの資産側も注目される。資産サイドを見ると、政府関係会社への貸付金、出資金が大きいのがわかる

国債を償還するとすれば、資産売却が筋であることもすぐわかる資産売却すると天下りができなくなるので、国債償還が財政赤字の問題点といいながら、資産サイドに注目されないように、償還には増税が必要というロジックなのだ

この官僚ロジックはえげつない。自分たちの天下り先を温存しながら(資産売却せずに)、国民には増税というわけだ

政府を連結ベースで見たとき、日銀が重要な関連会社であると筆者はこれまで指摘してきた(政府と日銀を合体させた統合政府ベース)。日銀の資産で国債を350兆円も保有しているからだ。連結バランスシートでは、負債サイドの国債と相殺されるが、実際には、政府のバランスシートの負債にあり日銀のバランスシートの資産にもある

ただ、この350兆円の国債は事実上償還しない。この分について、財政赤字の問題点にある償還の問題は一切ない。というのは、日銀保有国債は乗り換えられるからだ

しばしば、日銀引受は禁じ手とされているが、これは制度に無知なコメンテーターの誤りだ。こうした指摘は、本コラムではかなり以前からしている(2011年9月5日付本コラム http://gendai.ismedia.jp/articles/-/18376)。

今行われている日銀引受は、日銀保有国債の範囲であれば、財政法に反することはないつまり、日銀保有国債は償還されずに、あらたに発行して日銀引き受けされた国債と乗り換えられるわけだ

以上のことからわかるように、②の償還費の増加についても、今のところ心配する必要はない。こうして、財務省の言う「財政赤字の問題点」は、現時点で見れば、それほど心配することではないことがわかる。あえていえば、財政赤字を心配しすぎて、過度な緊縮財政に陥って、必要な財政支出を抑制することのほうがよっぽど危険である

先週の本コラムで書いたように、金融緩和と積極財政で2020年度に名目GDP600兆円を達成して、財政再建も同時にやることはそれほど難しくない(「消費増税延期は断固正しい!」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48779)。

もっとも、財務省の御用ポチであるマスコミ、エコノミストや学者は従来とまったく同じ調子で、財政赤字の問題や社会保障が大変と言い続けるだろう。そして、増税や緊縮財政こそが王道と言うだろうその際のロジックとして、増税しても景気は悪くならないというだろう。そのロジックは、すでに2014年4月の消費増税で破綻しているにもかかわらずだ

「クソゲー」が横行

 実は、財務省や財政制度審議会で景気の長期予測を行う時、増税しても景気にはまったく関係のないモデルが使われている

それを使って、「このままで増税しないと、債務が大きくなって財政破綻しますよ。増税しても、景気は落ち込まないから、増税しましょうよ」というストーリーで語られる。筆者は、これまでも財務省や財政制度審議会のそうした長期試算を「クソ試算」として批判してきた

5月2日付け本コラム(「財務省よ、今度は若者を「洗脳」するつもりか!  中高生向けに作られた教材があまりにヒドすぎる」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48586)で紹介した財務省の財政「クソゲー」もその一つだ。

2014年4月の消費増税の際にも、増税派は「増税しても景気は悪くならない」と断言していた。この家元(論拠)は、「クソゲー」にもなっている財務省の長期試算である

それが、とうとう外部のシンクタンクにまで蔓延してしまった。東京財団の財政推計モデル(https://tokyofoundation.shinyapps.io/Beta61/)がそれである。これは、財務省で使っているものとそっくりである。モデルというと大げさであるが、ほとんどエクセルで計算できるようなモノだ

それは、経済成長を前提として財政収支を計算しただけで、「どれだけ増税しても経済成長には何の影響もない。増税すればするだけ財政収支がよくなる」という単純なものだ

東京財団のものは、消費税率を50%にしても、経済成長は下がらないで、たちどころに財政再建が完成する、というものだ

財務省の「クソゲー」とまったく同じである。東京財団は、それを政策担当者が使うように勧めているが、まともな担当者ならこんなものは信用しない増税指向の財務省官僚しか使わないだろう

東京財団モデルは財務省、財政審が使っているものとほぼ同じものを、誰でもわかる形で外に出したのだから、社会的には大きな意味がある。ちなみに東京財団は、理事長は財務省からの天下りで役員や研究員にも財務省関係者が多いシンクタンクである。そして、その試算結果をマスコミが無批判に取り上げている

財政状況が悪くなく、しかも、財政赤字の問題点も現時点でほとんどない。それにもかかわらず、増税は経済成長に影響を与えないというあり得ない前提で、増税しないと大変になるという試算をあらゆるレベルで流して、増税が必要との世論作りに、増税勢力は励んでいる

マスコミもそうした情報を垂れ流して、増税の雰囲気作りに励んでいる増税はとりあえずスキップされたが、まだまだ財務省の世論工作は続くだろう

高橋 洋一

現代ビジネス2016.06.06

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