荒れるブラジル政界

ブラジルで汚職に絡む捜査を受けているルラ前大統領が、3月17日に官房長官としてルセフ政権に入閣した。このポストはブラジルでは首相に匹敵する任務だ

しかし、彼の入閣に異議を唱えるかのようにブラジリアの連邦裁判所のイダジバ・カタ・プレタ・ネト判事は、“ルラ氏が入閣すれば政治、検事職務、司法権において不当で嫌悪の干渉ができる権力をもつことになる”としてルラ氏の閣僚任命を無効とする野党からの仮処分申し立てを認めた

当然ながら、政府は早速その判決に異議を申し立てたものの、ルラ氏は僅かの時間に不逮捕特権を利用できる立場からペトロブラスの汚職事件を指揮しているセルジオ・モロ判事の捜査対象人物にまた戻ったのだ。(参照「HispanTV」)

不正追及のためには元大統領の大臣であろうと手を緩めない姿勢は、どこかの国の司法に爪の垢でも煎じて飲ませたい

さらに、その前日の16日。ルセフ大統領がルラ氏に電話をした内容が警察によって盗聴され、セルジオ・モロ判事の許可で17日に公開された。テレビでもそれが報道されて、その内容に怒りを覚えた市民がブラジル全土で抗議をしたほど大騒ぎになった。(参照「BBC」)

盗聴された会話は以下の様なものだったという。

◆「汚職追及の手が及べば使えばいい」

捜査当局によって盗聴されたルラ前大統領とルセフ大統領の間で交わされた会話は以下の通りだ。

ルセフ:「ルラ、ひとつ伝えたいとことがあるの」

ルラ: 「言ってくれ」

ルセフ:「ベシアに書類を託したんだけど。持っておいて、必要になったら使えば良いわ閣僚に任命する文書よ

ルラ: 「それは良いことだ」

ルセフ: 「それだけよ。そこで待っておいてね。彼女がそっちに向かっているから

ルラ: 「ここに居る。待っている」

この会話の中で注目せねばならないのは、「必要になったら使えば良い」とルセフ大統領が伝えていることだ。即ち、汚職事件で逮捕されそうなったら使えという意味なのだと報じられている

ルセフ大統領はこの会話が公開されたことに激しく非難し、盗聴は違法行為であるとしてこの調査に乗り出すと述べた。そして会話の内容の説明として”ルラ氏の夫人が病気でブラジリアでの入閣儀式に出席できない場合を考慮しての内容だ”と弁明した。(参照「BBC」)

捜査当局はこれは大統領を標的にした盗聴ではないとしている。〈ルラ氏の電話の盗聴に偶々ルセフ大統領が登場した〉ということをモロ判事はメディアに説明した。しかも、偶然は重なり〈ルラ氏がルセフ大統領との会話で使った電話はバルミル・モラエス氏の電話で、彼の電話にもまた盗聴許可が下りていた〉のだという。そしてモロ判事は汚職事件に絡むこの盗聴の公開に踏み切った正当性をメディアに伝えた。(参照「Infobae」)。

◆延命のための奇策が逆効果になったルセフ大統領

 そもそも、ルセフ大統領がルラ氏を入閣させようとした狙いはルラ氏の逮捕を避ける為であるが、それ以外に、彼女自身の議会での弾劾請求から罷免に至ることを避ける為に彼にそれを委任する意向もあった

しかし、結果的にはルセフ大統領がルラ氏を逮捕から逃れさせようとして取った行動にも批判が集まることになった権利の乱用だとして政治裁判にかけるべきだという動きが再燃している。即ち、彼女を議会で罷免させようとする動きである3月17日に罷免を求める弾劾請求が議会で受理されたそしてそれを審議する65人の議員も選出されたルセフ大統領が最後の頼りにしていたルラ氏の入閣がご破算になった今、彼女の政治生命は末期症状を迎えている

 1988年にルラ氏が言った言葉がある。「ブラジルでは貧乏人が盗みをやれば刑務所に送られる。金持ちが盗みをやれば大臣になる」そして2016年には、社会で次の言葉が生まれた。「モロ(判事の追跡)を避けるためにルラは大臣になる」(参照「El Pais」)

今、この二つ言葉がブラジル全土を駆けめぐっているという。

<文/白石和幸  photo by Valter Campanato/ABr(CC BY 3.0 BR)>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

HARBOR BUSINESS Online 2016.03.19

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