聞く耳を持たないプーチン

欧州との対話に興味失ったロシア

 アクション映画にあるように、気違いが卑劣な計画を実行に及ばないようにする最善の方法は彼に喋らせ続けることである。時間を稼いで、人質を助け、暴力は為にならないと説得する。これが、欧州諸国がロシアに対して行っている方法である。ところが、プーチンは西側との和解に興味を失ったらしいウクライナの東部では今なお銃弾が飛び交う。しかし、孤立したロシアは一層予測不能で危険となり得る。従って、話し続ける他はない

問題は話の材料を探すことにある。今週、ロシアのクリミア併合とウクライナ侵攻のために中断していたNATO・ロシア理事会が開かれたが、両者の隔たりは大きく、会合は予想通り空疎なものとなった

先週、バルト海では米海軍駆逐艦および米空軍偵察機に対するロシアの戦闘機の嫌がらせがあった。ケリー国務長官は駆逐艦が発砲しても許される異常接近だったと述べた。昨年11月にはトルコがロシア軍機を撃墜した。不測の事態を避けるためには軍事的な透明性と情報交換が必要であるが、ロシアは殆ど関心を示さない。ロシアは予測不能の行動に出ることに価値を見出しているという見方もある

苦境にあるのはロシア側

 それでは欧州はどうするか。外交官は空白を嫌うので、サイバーテロや気候変動など、あれやこれやロシアとの「関与」という提案が出て来る。しかし、大したことにはならない。何故なら、一つにはEUの内部が割れているからであるNATO・ロシア理事会は、昔の東方政策を引きずるドイツの社会民主党をなだめるためだったともいう。ウクライナとシリアの後、ロシア軍はどこに出て来るかと欧州は思い悩む。ロシアはNATOとEUを軽蔑し、軍事問題は米国と、政治問題はドイツと取引きすることを好む。というわけで、欧州の対ロシア政策は制裁の定期的な更新を巡る議論に尽きることになる。イタリアその他の「制裁疲れ」にも拘わらず、6月のEU首脳会議で制裁は継続されることとなろう

ロシアの挑発が原因で、NATOはバルト諸国、ポーランド、ブルガリア、ルーマニアにさらに5000の兵を駐留させることを計画する。7月にワルシャワの首脳会議で正式決定されよう。従って、緊張を和らげようという欧州の政治的試みは兵力配備の強化によって相殺される。ロシアはこれを挑発と受け取り、ワルシャワ首脳会議に向けてさらなる危機とカリーニングラードへの兵力増強があるかも知れない。このことは東方の加盟国を狼狽させる

しかし、苦境にあるのはプーチンである経済はきしんでいる。海外の冒険主義の賞味期限は短い。アクション映画では悪党は力ずくで葬られ、あるいは尊大ぶりがたたって自滅するが、大きなリスクは、悪党はその陰謀が失敗しても、誰もかもを道連れにすることである

出 典:Economist ‘Quantum of silence’(April 23, 2016)

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これは欧州とロシアの関係を風刺の筆致で描いた解説記事です。現状はここに描かれたようなことかと思います。

対話は宥和策に堕する危険と隣り合わせ

 4月20日、NATO・ロシア理事会(大使級)が2年振りに開かれましたが、何の成果もなく終わりました。会合の後、ストルテンベルグNATO事務総長は「NATOとロシアには重大な意見の不一致がある。本日の会合がこれを変えることはなかった」、「ロシアが国際法の遵守に立ち戻るまでは、実質的な協力に立ち戻ることはあり得ないことをNATO加盟国は確認した」と述べました。

ウクライナ情勢は当然のこととして、先週、バルト海で発生した米海軍の駆逐艦USS Donald Cookおよび米空軍の偵察機RC-135に対するロシア戦闘機の危険で悪質な行動との関連で、軍事面での透明性の向上とリスクの抑制のための方策が会合の注目点でしたが、なんら進展はなかったようです

この記事は、NATOとロシアとの間に対話が成立しないこと、対話の材料を探すことが難しいことを指摘して、これは危険だと言っています。しかし、この状況を作ったのはロシアです。対話が行われることは結構ですし、対話自体はロシアに報賞を与えるものではないという議論は可能ですが、気を付けないとロシアにつけ込まれます。その危うさはシリア情勢に関するロシアとのやりとりに看取されます。無理をして対話を形作ることは宥和策に堕する危険と隣り合わせです

なお、この記事の題名「Quantum of silence」は007のアクション映画「Quantum of solace」をもじったものかと思われます。

岡崎研究所

Wedge2016.05.31

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