老化細胞を退治できれば若返り可能

ヒトの細胞に分裂限界があるのを最初に発見したのは、カイフォルニア大学のヘイフリック博士だったヘイフリック博士は皮下に存在する線維芽細胞を試験管内で培養する実験を繰り返していたが、その分裂の数には限界があることやその限界に達すると細胞は巨大化して動きが少なくなり試験管の底に敷石のようにへばり付いて生き続けることを見出した分裂に限界があることを「ヘイフリックの限界」、これ以上分裂できない細胞の状態を「細胞老化」と定義した

 ヘイフリック博士がヒトの胎児から採取した細胞は50回程度分裂できたが成人から採取した細胞は分裂回数が減少していた高齢者から採取した細胞はさらに分裂回数が減少していて、高齢者の皮膚には老化細胞が増えていることを見出した。しかも、シワやたるみといった皮膚の老化症状と老化細胞の出現には関連性があることがその後の研究で明らかとなっていった

1980年代になり、染色体の末端にあるテロメアが分裂の度に短くなり、このテロメアの短縮が限界に達すると細胞が老化状態に移行することが分かったつまり、テロメア短縮の限界がヘイフリックの限界であったのだ現時点ではテロメアを延長することは技術的に不可能で、細胞から若返るためにはテロメアの短縮を抑制するしか方法がないと考えられている

しかし、米国メイヨークリニックのダレン・ベイカー博士は老化細胞を取り除くことで若返りが可能なのではないかと考えた。ベイカー博士らの研究チームは細胞が老化すると発現が増強する「p16」という老化バイオマーカーに注目した

「p16」は脳、脂肪細胞、筋肉、目などが老化すると発現してくる遺伝子で老化した細胞がガン化しないようにするガン抑制遺伝子であることがこれまでの研究でわかっている。研究チームは細胞が老化して「p16」遺伝子が発現すると細胞が薬剤で自滅できるようにネズミに遺伝子操作を加えた

驚くべきことに、研究チームが老化がすでに進んだネズミに薬剤を投与すると目の白内障や皮膚のシワなどの老化症状や加齢に伴う運動能力低下などが改善したのだ。ベイカー博士は老化した細胞が身体や組織の機能を低下させる物質を分泌して老化を促進させていることを強調する

現在、美容外科の現場で行われている医療は老化した組織を外科的に取り除くことだが、ベイカー博士は内科的に老化細胞を取り除くことにより若返りが可能であることを示唆した

ヒトには遺伝子操作はできないので他の方法でアプローチする必要があるが、老化細胞が分泌する老化因子を阻害することは有効な若返り療法になるかも知れない

 若い頃から細胞が老化しないように老化そのものを制御できればよいが、既に老化が進んでしまった高齢期のステージでも若返りの可能性が示唆されただけでも夢を与えてくれる研究成果であり大変興味深い

■白澤卓二(しらさわ・たくじ) 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1990年より2007年まで東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダー。2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など300冊を超える。

産経新聞2016.06.01

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