習近平の航空機爆買い→チタン業界漂う

2015年の国際チタン会議が米国フロリダ州のオーランドで10月5日から7日まで3日間にわたって開催された。毎年10月の上旬に行われる会議だが、今回は世界各国から約750人前後が参加した。今年の話題は航空機産業分野のチタン需要への期待で盛り上がった

習近平国家主席が ボーイング旅客機を「爆買い」した背景とは?

 先月9月の習近平氏の訪中時にボーイング社に対して習近平氏が300機の旅客機を発注したニュースや中東における空爆の増加から航空機と防衛産業の景気高揚への期待も会場のあちこちで話題になっていた

さて、世界のチタン市場はリーマンショック以降、一時期落ち着きを取り戻したが、昨年の2014年までの需要は3年間連続で停滞していた。しかし、今後は新型航空機の納入が本格的に始まるのでチタン需要は拡大基調に転換することは確実である

今後20年間で生産される航空機は3万9780機と推計されており、航空機需要だけでも10年間で新たに40万トン以上のチタンを消費すると見込まれるから期待が集まるのも当然である年間のチタン製品の年間の世界需要量は大体10万~12万トンくらいであるから新規の航空機需要が4万トンになるというのは3割から4割の拡大が期待できると云う話なのだ

まずは会場の活気の原因である習近平国家主席の派手なパフォーマンスから話題を分析してみたい。習近平氏は去る9月23日、米西部ワシントン州の米航空機大手ボーイングの工場を訪問し、なんと旅客機300機の発注で合意するなど中国の得意の「爆買い」をアピールした。

 ただでさえ中国の景気が減速する中で旅客機を300機も発注するなどの大盤振る舞いは常識では考えられないが、チタン業界では航空機分野の本格的回復が期待されているから盲目的に歓迎されているのだ景気が悪化すれば旅行客は減少するから普通は旅客機の注文は減って当たり前である

今回の発注は380億ドル(約4.5兆円)規模と云われているがチタンの使用量は一機当たり60トンに及ぶから300機になると何と1万8000トンとなり、2014年の米国のチタン材の需要が2万7000トンだから今回の発注量がいかに多いかが分かるだろう

ところが、こうした発表にもかかわらずボーイング社の株価は急落しており、市場の反応はみられなかったのは中国得意の白髪三千丈のブラッフだと反応したのかも知れない。

さて、今回の国際チタン会議でもう一つ気になる発表があった。アメリカの軍需産業について”Driving Market Growth Through Innovation”なるタイトルでクリーブランドのAlcoa Defense社のRoegner社長がプレゼンをした内容である。米国防衛産業における「イノベーションを通じたチタン市場の成長」という内容である。

この発表の中では我が国日本が防衛産業(特に軍用機)の重要な市場としての位置付けにされているのに驚いた。プレゼン資料に示された防衛産業の重点市場がエジプト、アフガニスタン、カタール、クエート、インド、に加えて日本が軍用機の発展市場と認識されているという発表であった

発表の内容を聞くにつけて平和産業であるチタン市場分野が一般航空機産業よりも、より軍用機の発展に注力している内容に危惧を感じたのは私だけではなかったと思う

今回の安保関連法案の成立直後に、チタン会議に参加したためにアメリカが日本の防衛産業をどのように見ているのかが気になっていた矢先のことである。日本の集団自衛権の閣議決定が何らかの形で米国の軍需産業に資することは当然だが、日本が軍需産業のお得意さんとしてアメリカのチタン業界では認識されており、このような形でチタン産業の関与を示されると長年にわたりチタン産業に関わってきた私としては複雑な気持ちである。

アメリカの景気はシェールガス・シェールオイル景気に支えられているが来年の大統領選に向けていろんなプロパガンダが繰り広げられているオバマ政権の在職中にはこれといった成果が無いだけに置かれた立場は複雑である。特に最近になって来年度の大統領選の候補者らがオバマ外交を「弱腰」と批判されるのを避けるために、南シナ海の中国との対立姿勢は強気を演出している

つい最近も米軍機と中国の戦闘機が中国領海で異常接近するなど一触即発の危険性もあったが、今後の米中関係は決定的な対立を避けるべく双方の着地点を見いだせるかが問題となるウクライナ紛争から始まったロシアへの経済制裁や、イスラム国家やベネズエラを含む産油国への原油価格の下方誘導やシリアへの空爆も何か不自然な動きに感じてならない

一方の中国当局は景気下支えのために昨年秋以降、相次ぐ利下げなどで金融を緩和しインフラ投資を加速させているが、全くその効果は表れていない失速懸念を払拭するのに躍起の習政権だが、下がりすぎた人民元相場を買い支える原資として保有する米国債を「爆売り」しているなども「やる事なす事」が矛盾しているために市場の反応は正直であり習近平政権と中国経済が市場の信頼を取り戻すのは難しそうだ

中国側の足もとの景況感は不振を極めているが習氏の訪米直後に英調査会社が公表した中国の景況感を示す9月の製造業購買担当者指数(PMI)速報値は下落している好不況の判断となる指標を7カ月連続で割り込み、6年半ぶりの最低水準に落ち込んでいるのだ国内の不平不満を逸らすために反日運動や南シナ海への軍事行動も大変に不自然な感じがしてならない中国の経済の立て直しには武器輸出が手っ取り早いと考えている節がある

さらに今回のチタン会議で会ったロシア人の友人との会話の中では、今やロシアの軍用機の生産量はアメリカを追い抜いたと聞いてこれまた驚いた

経済制裁に苦しむロシアであるが原油価格の不振を補うためにも武器輸出や軍用機輸出も必要になってきているとの話題が出ているし、民間航空機でもボーイングやエアバスを遥かに凌ぐ超大型旅客機の製造が始まるとの情報もありこと話題には事欠かない国際会議であった

日本でも、武器輸出三原則を転換し、積極的に武器輸出を行うことに方針変換している。今や日本のエレクトロニクス産業は軍需技術の塊であるからデバイスだけの輸出より、付加価値の高い武器輸出に転換する流れも避ける事はできないのかもしれない。また、日本の防衛産業からすれば、武器関連輸出に注力しないと、中国をはじめとする他国が輸出するだけ、ということだろう軍事的な緊張が起これば起こるほど、日本もこの流れに押し流されていくのかもしれない

 これまでの全ての侵略戦争は防衛の名のもとに始まっている事を人類の歴史は証明している。これまでの国際チタン会議は平和利用のチタンの用途(石油化学、電解設備、建築土木、自動車、民間航空機、医療・民生用途など)の話題が中心であったが、今回の会議は軍需関連用途の話題が聞こえてきたことに危惧を感じている

参考 wedge 2015.10.13

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