米国にとって中国は本当に手強い相手?

近年、中国脅威論や中国崩壊論があふれかえっている。しかし、それは、事実を踏まえた確かな根拠に基づくものなのだろうか。システム分析の専門家で未来予測のプロであり、『データで読み解く中国の未来』を著した筆者が、現実を直視した中国論を展開する。

■ 2025年、GDPで米国に並ぶ

報道によると、米国は中国が埋め立てを行っている南沙諸島の周辺12カイリ以内に軍艦を派遣することを決めたという。この原稿を書いている時点で、本当に派遣したかどうかは明らかになっていないが、米国は派遣によって、中国に対して南沙諸島の領有を認めないというメッセージを送ろうとしている

国防省や太平洋艦隊は12カイリ以内に軍艦を入れて中国を牽制することを主張しているが、ホワイトハウスが待ったをかけていたようだ。それによって中国との間に深刻な対立が起きることを懸念したためである。だた、この9月に習近平がワシントンを訪れた際にも、南沙諸島の埋め立てについて中国側から誠意ある回答を得ることができなかった。そのために、オバマ大統領が決断したと伝えられる

現在、中国はその決定に強く反発しており、米国が12カイリ以内に軍艦を入れた場合にどのような事態が生じるか、予断を許さない

南沙諸島をめぐる中国と米国の対立は現在進行形である。ただ、中国による南沙諸島の埋め立ては、今年の秋になって突然始まった問題ではない。フィリピン政府は2014年5月に、中国がジョンソン南礁を埋め立てていることを示す時系列写真を公開したもう1年半も前から問題になっていたのだ。それなのに、これまで世界の警察官を任じる米国は手をこまぬいてきた。

日本の保守派は、それをオバマ政権が弱腰だからと批判している。だが、筆者はオバマが弱腰だからではないと考える。共和党政権であっても、中国との真正面からの対立は躊躇するはずだ

それは、現在、中国のGDPが米国の6割程度になっており、2025年ごろには米国と肩を並べるとされるからである。簡単に打ち破ることができる相手ではない。その事実がワシントンを慎重にさせている。

米国が世界の覇権を確立して以来、中国は最も手ごわい相手である。国と国の対立において、最終的に勝敗を決めるのは経済力。軍事力は経済力の上に築かれる無理して軍事力を強化しても経済がついていかなければ、その維持はおぼつかない

それは、北朝鮮を見ればよくわかる。北朝鮮は“強盛大国”をスローガンに軍備の増強に邁進しているが、それでも韓国や日本にとって真の脅威ではない。北朝鮮が韓国に侵攻しても、韓国軍や米軍が本気で反撃に転じれば、北朝鮮軍は1週間程度で崩壊する経済力の裏付けのない北朝鮮は“なにをしでかすかわからない”という意味においては脅威ではあるが、それ以上のものではない

■ 軍事力で雌雄を決してきた米国

軍事力は経済力の背景があって、初めて深刻な脅威になる。そう考えれば、経済力が劣る相手に軍事面で対決を迫り、雌雄を決することは有効な手段である。今になって思えば、太平洋戦争に突入する際の日本は、米国の術中にはまり込んでいた

国際的に高い評価を得た歴史経済学者のアンガス・マジソン氏の統計によると、太平洋戦争が始まった1941年において、日本のGDPは米国の19%でしかなかった日本は三国同盟を結んだドイツを頼みにしていたのだが、そのドイツのGDPも米国の24%ほどだった。相手が数分の1の国力しか有していないのならば、外交交渉を続けるより戦いによって雌雄を決したほうが、話が早い。

中国からの撤兵をめぐって日米は交渉を続けたが、その最終段階で強硬な内容を記したハルノートを突き付けられて、日本は開戦を決断した。だが、それは米国のわなにはまったと言ってもよい

米国はドイツとの間に戦端を開きたかったドイツを破ってヨーロッパを支配下に置く。それは、その当時、世界を手中に収めることと同義語であった。ルーズベルトは、ヒットラーがいくら大声で叫んだところで、ドイツの国力が米国の4分の1程度でしかないことを冷徹に押さえていた。戦えば勝てる。だから、ヨーロッパの戦争に加わりたい。しかし、戦う口実が見つからない

日本は口実を作るために利用された。交渉を長引かせて、最後にハルノートを突き付けて最初の1発を打たせた。ルーズベルトが真珠湾攻撃を事前に知っていたかどうかは大きな問題ではない。米国は太平洋のどこかで日本に最初の1発を打たせたかっただけだ。そして、それに成功した

■ ソ連ですらGDPは米国の4割程度

米国は、経済力において圧倒的な差がある場合に、軍事力によって雌雄を決したがる。それは冷戦についても言える。冷戦が顕在化した1948年に、ソ連のGDPは米国の31%であったドイツや日本より強い。そして1958年には41%になった。戦後復興期に計画経済はよく機能した。1950年代のソ連経済には目覚ましいものがあったソ連が初の人工衛星(スプートニック)の打ち上げに成功したのは、1957年のことである

米国は緊張した。この時代にはマッカーシー旋風が巻き起こり、ローゼンバーグ事件なども起こっている。しかし、戦後復興が終わると、硬直した社会主義経済の欠点があらわになったソ連の成長はしだいに鈍化し、1980年代に入ると米国との経済格差は決定的になった。その時代に、レーガン大統領(在位1981~1989年)はソ連に大規模な軍拡競争を迫った。そして、それに対抗できなかったソ連は自壊した

このような過去を振り返るとき、中国は米国にとって途方もない強敵である。それは、現在でも中国のGDPは米国の6割程度であり、今後も増加すると考えられているからだ中国はドイツ、日本、ソ連よりも確実に強い。だから、米国は軍事力を使って真正面から対立することに躊躇している

今回、南沙諸島の12カイリ以内に軍艦を派遣したとしても、それを契機に米国が真正面から中国と対決することはない軽くジャブを打って、相手の出方を見る。そんな動きをするはずだ。また、中国にしても、現在、米国と対決して勝てないことを十分に承知している。だから、口では強硬に抗議しても、軍事力をもって反撃に出ることはない

東南アジア諸国は、それをかたずをのんで見守っている。もし、米国が1回ジャブを打つ程度で引き下がるのであれば、南シナ海の制海権は中国に落ちる東南アジア諸国は独力で中国に立ち向かうことはできないから、中国の影響下で生きる道を模索することになる

中国がASEANと共通経済圏を作りたいと言った場合、ASEANはそれをのまざるをえないアジア版EU、日本抜きの中国版大東亜共栄圏と言ってもよい。それは、日本にとって悪夢以外のなにものでもない

中国の脅威を軍事面に限定することは正しくない本当の脅威は、中国が中国を中心とした経済体制をアジアに樹立したいと考えているところにある。そして、中国に対抗できる力は米国にしかない。もし、米国が中国をライバルとして認めてアジアの覇権を中国に譲り渡すことになれば日本はアジアで孤立する

■ 中国の未来は経済成長にかかっている

日本の未来を考えるうえでも、中国から目を離すことができない。もし、中国が過去20年のような奇跡の成長を続けることができれば、中国は確実にアジアの盟主になる。その一方で、バブルの崩壊によって中国が「失われた20年」に突入するのであれば、アジアの覇者になることはない

「失われた20年」に突入すれば、中国社会はバブル崩壊以降の日本以上に混乱することになろう中国は国が大きいために、中央政府の力が弱まると必ず内乱が発生するからだそれは歴史が証明している

1989年の天安門事件以来、30年近くにわたって深刻な対立が起きなかったのは、経済が順調に成長していたからにほかならないもし、バブル崩壊によって中国が「失われた20年」に突入すれば、それは共産党内に深刻な内部対立を引き起こすことになろう。それによって、共産党の支配が自壊してもおかしくない。今後、中国が日本や東南アジア諸国にとって深刻な脅威になるかどうかは経済成長が持続するかどうかにかかっている

中国経済が曲がり角を迎えたことは確かである。しかし、曲がり角を迎えたと言っても、それが本格的な停滞の始まりなのか、それとも一時的な調整に終わるのか、現時点で断じることはできない中国が日本にとって真の脅威になるかどうかは、ここ数年の中国の経済動向にかかっている日本の未来を考える意味でも、われわれは中国経済から目が離せない時代を生きている

参考 東洋経済オンライン 2015.10.24

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