米、ベトナム首脳会談→対中国、利害一致

オバマ米大統領は23日、訪問先のベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席との共同記者会見で、「両国の新たな関係」を強調した。泥沼化したベトナム戦争の経験を乗り越え、両国を安全保障と経済の両分野での連携強化に導いたのは、南シナ海で影響力を拡大する中国の存在だ。【ハノイ西田進一郎、北京・石原聖、バンコク岩佐淳士】

【中国軍事パレード 最新兵器次々】

□米 国

「両国は重要な前進を遂げてきたが、引き続き両国政府が同意できない領域もある」。オバマ氏は共同会見で、政治体制や人権問題などで相いれない部分があることを認めた。それでもこの日、対ベトナムの武器禁輸の完全解除に踏み切る方針を伝えた

両国の国交回復はクリントン政権時代の1995年。だが、急速に関係改善が進んだのは、オバマ政権になってからだ2013年には、互いの政治体制や独立、領土保全などを尊重するとの原則に基づいた「包括的パートナーシップ」の確立を宣言翌年には「海洋安全」に関わるものに限って武器禁輸を緩和した

背景には中国の急激な圧力増加がある米国防総省によると、中国が13年末に始めた南沙(英語名スプラトリー)諸島での埋め立ては、15年末までに約13平方キロに及ぶ。ベトナムと領有権を争う西沙(同パラセル)諸島の永興(同ウッディー)島には戦闘機や地対空ミサイルを配備。米国の度重なる軍事化中止の要求も無視し続けている

米国は、中国の人工島周辺への「航行の自由」作戦を通じて軍事的なプレゼンスを示すと同時に、周辺の同盟国・フィリピンや友好国のベトナム、マレーシアなどの警戒・監視能力を高めることで中国に対抗しようとしている。対ベトナムの武器禁輸の全面解除は、南シナ海を遠望する同国の軍事要衝カムラン湾へのさらなる寄港を求めるための布石にするのでは、との見方もある

オバマ氏は会見で「我々は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)のできるだけ早い批准、履行のために協力することで合意した」とも発表。中国が参加していないTPPを進めることで、中国がベトナムを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して経済的にも影響力を行使しにくくすることを狙う

□中 国

米・ベトナム間の正常な協力関係の発展を歓迎し、地域の平和安定にプラスとなるよう望む」。中国外務省の華春瑩副報道局長は23日の定例会見で、こう述べるにとどめた。

ただ、中国が神経をとがらせていたことは間違いない。今月19日、中国の駐ベトナム大使がベトナム国防相と会談。国営新華社通信によれば軍事協力強化で合意したという。合意内容は明らかになっていないが、米・ベトナム接近にくぎを刺す思惑があったことは明らかだ

今年に入り、中国は南沙諸島のファイアリクロス(中国名・永暑)礁に軍用機を着陸させた。ウッディー島を軍事拠点化し、フィリピン西方のスカボロー礁(中国名・黄岩島)では人工島造成の動きもある。「三つの島礁を押さえて南シナ海の中央を制圧し、米軍排除につなげたい」(北京の外交関係者)という狙いがあるためで、米・ベトナムに譲歩する意思はない

さらに「ベトナムは米国が南シナ海で存在感を発揮することは望んでも、人権や体制といった政治問題に介入されるつもりはない」(鄭州大ベトナム研究所の于向東・院長)と共産党体制同士ゆえの読みからくる「安心感」もあるようだ

□ベトナム

南シナ海で実効支配を拡大する中国に対し、ベトナムはASEAN関連会議でフィリピンと共に批判を展開。米国の後ろ盾を必要としているのは明らかだ。米国と協調して南シナ海に関与を強める日本とも防衛協力を本格化させており、4月中旬にはカムラン湾に海自艦船が初寄港した。

ただ、国境を接した中国とは歴史、文化的にも緊密だ。共産党支配の両国の政権指導部は互いに関係が深いとされ、ベトナム共産党に近い関係者は「国民の反中感情などを考慮し強硬姿勢は示しても、中国との関係を完全に断ち切ることは考えにくい」と指摘する

ベトナムは冷戦崩壊後に一時疎遠となったロシアとも軍事協力を強化している。09年に「キロ型」潜水艦6隻を購入し、既に5隻が配備されたほか、最近もカムラン湾にロシア海軍艦船を寄港させている。中国をけん制するだけでなく、米国への「依存」を避け、したたかな「バランス外交」を展開している。

毎日新聞2016.05.24

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