空飛ぶ万里の長城→国産旅客機に暗雲

中国が米ボーイング、欧エアバスに真っ向から勝負を挑むという国産初の中距離ジェット旅客機「C919」(最大航続距離5555キロメートル)その開発に暗雲が垂れ込めてきた年内に初飛行を予定していたが、翌年に先送りされる見通しと米メディアが相次ぎ報道。さらに大幅に遅れる可能性もあるジェット旅客機開発は、高速鉄道、有人宇宙飛行と並び、中国が国家の威信を懸ける一大国家プロジェクト特にC919は「空飛ぶ万里の長城」と呼ばれ、習近平政権の悲願だ。しかし、すでに当初計画から5年以上開発が遅れ、なお引き渡しができていない中小型機「ARJ21」のケースもありC919についても国際市場ではほとんど相手にされていない状況果たして本当に飛べるのか。万里の長城のように完成まで数百年かけるわけでもないだろうが…。

■開発遅れ「ない」と強弁も電機システムはこれから

「前方と後方の貨物ドア、そして非常口が、上海の工場に搬入された」

C919を開発する中国商用飛機有限責任公司(COMAC)が4月18日に出したプレスリリースだ。工場に届いたばかりとみられる大きな木箱を開けて、中のドアを見る作業員の写真を付してある。COMACは、昨年末から主翼、垂直尾翼、テスト装置などが工場に搬入されるなどする様子をたびたび発表している。3月には英航空専門ニュースサイトのフライトグローバルに、C919の初号機とされる機体の映像を発表。胴体から主翼、尾翼までつながった“飛行機の形”になったC919が1機映っており、開発が順調であることを世界にアピールした

しかし、映像を見る限りエンジンは搭載されておらず、同サイトがCOMACの広報担当者の話として伝えたところによると、電機システムもまったく搭載されていないということだがらんとした工場内に機体は1機だけぽつんとあり、どう見ても完成までは相当な時間がかかりそうなことは素人目にも明らかだ。だが、COMACの担当者は同サイトに、2015年後半に初飛行という目標を変えないとした。

ただ、5月に入り、米ロイター通信やブルームバーグが、相次いでC919の試験飛行が16年に延期されたことを関係者の話として報道。それでもCOMACの担当者は開発計画に「大きな調整はない」と話したという。さらに英フライトグローバルは5月15日の記事で、開発スケジュールを取材。これに対してCOMAC側は「開発作業は最大の力で進んでおり、今年の年末に最初のフライトの予定について発表する」とコメントした。なんとも微妙な言い回しだが、同サイトではこのコメントについて、「年末に予定を発表するだけということは、年内の飛行が間に合わないということを示している」と冷静に分析されている

■先行開発のARJ21、納入前にすでに「型遅れ」

C919は座席が168~190席で、ボーイングの主力機「737」とエアバスの主力機「A320」と競合する開発が始まった09年ころから、そのコストの安さなどで世界中で注目され、欧米2強も意識せざるを得ない状況だった。だが、当初の予定では14年に初飛行し、16年に就航する計画だったが、すでに初飛行のスケジュールは1年遅れ、就航も17~18年にずれこんでいた。昨年組み立てが始まる前には習近平国家主席がC919のコックピット模型に乗り込んで、開発への強い決意を示しているだけに、COMACとしてはさらなるスケジュールの遅れを表明しにくい事情もあるのだろう

 中国旅客機開発の大幅な遅れは見慣れた風景だ座席数が70席程度の近距離機(最大航続距離最大3700キロ)「ARJ21」。02年の開発開始し、最初の予定では09年に引き渡しが終わっているはずだったが、いまだ実現していない。昨年末に国内で型式証明を取得後、現在、量産過程に入っており、製造証明を受けている段階とされ、年内か16年には購入している中国の航空会社に引き渡され、商業飛行に移るとみられている。しかし、これほど納入が遅れては、新型であるにもかかわらず、業界内ではすでに「型遅れ」との評判も出ている。COMACはARJ21を278機を受注しているが、そのすべてが中国国内の航空会社世界で受注するのに必要な欧米の型式証明が取得できる見込みはたっていない

ARJ21は日本の三菱航空機が開発を進める「三菱リージョナルジェット(MRJ)」と機体サイズ的に競合し、中国側も強烈にライバル視しているMRJは若干の遅れはあるものの、17年の初号機納入を目指しており、このままいけば、ARJ21と同じころに商業飛行の運行が始まる可能性もある。しかし、世界からの関心は、先進的デザインで燃費性能などに優れるMRJが大きく勝っている

■無理やり飛ばせば…、過去の悪夢を教訓に

それだけにC919で何としても起死回生の逆転を成し遂げたい中国政府。だが、ARJ21開発の経緯をみてきた世界の航空会社は、C919についてもほとんど関心を失っている。これにCOMACが焦り、突貫で機体を完成させる可能性はある。だが、その機体が空を飛ぶとなると…。中国政府も高速鉄道の大事故で経験している通り、実現や拡大をあまりに急げば、何らかトラブルが起きる可能性は否定できない。その場合、中国航空機開発の夢は当面絶たれることになる

C919は、中国国内で400機以上と受注数ではARJ21を大きく上回る期待を集めている。今後、20年間で中国の航空会社は約6000機、金額にして約8700億ドル(約110兆円)の航空機を調達する見通しで、世界最大の市場となることは確実。中国政府としては、この国内市場だけをみて開発を急ぐことも考えられそうだ。「C919」の最初の9は「永久」の久の音を表し、19は座席数の「190席」を示しているとされる。永久に飛び続ける願いを込めたネーミングとみられるが、ぜひそれを実現してもらうためにも、さまざまな教訓を踏まえ、誠実に着実に開発を進めてもらうことが、世界の信用を勝ち取る唯一の方法であることを学ぶべきだろう

参考 産経新聞 2015.06.16

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