空気を読む→親中国人のホンネ

「空気」を読むのが得意なのは日本人だけだろうか。いやいや、そんなことはない。中国人もしっかり空気を読む

2012年9月、日本政府の尖閣諸島国有化に端を発する、大規模な反日デモが中国全土に広がっていた。ちょうどその頃、タクシーに乗った私の顔をじっと見て、運転手が真剣な顔でこう言った

「あなたは日本人か? 」――正直、ぞっとした。ちょうど3日前に、居酒屋で日本人が刺されて負傷した事件があったし、そのほかにも日本人が暴行を受けたという話をいくつも聞いていたから。

■ 「日本人だ」と答えたら・・・

相手は区別が付かないから、日本人だと言わずに韓国人だと答えるようにしているという人もいた。しかし、そういう嘘をつくのはイヤだと思い、思い切って言った。

日本人だ。何か問題があるか? 」

次の瞬間、予想に反して、彼はニコッと笑い、私の肩をボン! とたたいて、「そうか、やっぱり日本人か! お前ら、大変だなぁ。でも、俺は、日本人は嫌いじゃない。俺にお金を払ってくれたら、みんな好きだよ。今、中国人にはそうは言えないけどね」と冗談ぽく言った。

実際、私の周りにいる中国人たちは「デモに参加しているのは、田舎の何も分かっていない奴ら。自分はそんなにバカじゃないよ」と主張する人が多かったし、ネット上では、デモ批判も繰り広げられていた。しかし、表だって反対する人は極めて少ない。当時は、「空気」が違ったからだ。

これは、一般大衆に限った話ではない。政府筋の中国人の知り合いは、当時こんなことを言っていた。

■ 政府も若手幹部は現実的

「政府の会議では、年寄り連中が『日本と戦争だ! 』『強気でいくぞ! 』とひどくエキサイトしていて、40代以下の若手連中が、まぁまぁと必死で止めている状況。みんな、もううんざりだよ。いい加減に現実を見て欲しいよ。

ある経営者はこんなことも言っていた。「習近平さんの奥さんも資生堂の化粧品を使っている。資生堂は中国人に人気だ。でも、今は店を壊されるから、みな店頭には置かない。今、ネット販売すれば、大儲けできる」。

つまり、日本から見ると中国人の大きな「意志」に見えた、あの「反日」の感情は、かなりの部分が表層的な「空気」だったように思う

それから2年がたち、この11月10日にAPEC開催中の北京で、日中首脳会談が実現した。これが外交上、どちらが譲歩したのか、という話はすでに議論されており旧聞に属するので割愛するが、私はこの会談から、日中関係が現実的に前に進む可能性は高いと思う

カギは「空気」だ。というのは、反日デモ以降、日中の政府間の交流やイベント、誘致活動などは明らかに少なくなったが、別に政府上層部から「日本との交流禁止」のお達しがあったという話はほとんど聞かない

先ほどの政府筋の知り合いに聞くと、「別に、禁止されている訳では無いけど、もし日本と何かをやって、上の方に睨まれたら大変だし、『触らぬ神に祟りなし』ってことだよ観光関係や地方政府の役人なんて、日本を誘致したいに決まっている。相当我慢しているよ」という答えが返ってきた。

要は、上層部の役人や経営者が、日本と公式に付き合うのを避けることが増えたのは、何かの決まりや命令があるわけではなく、「空気」を読んで、忖度しているということだ

そういう現場の状況を考えると、今回の首脳会談、仏頂面での握手だったとはいえ、トップが握手をしたこと自体、「雪解け」の第一段階としては上出来だろう

ホスト国であるから仕方なく握手をしたのだ、という言い訳をする余地を残しつつ、もしかしたら、関係改善に向かうかもしれないという期待も持たせている。どっちにもとれるようにすることで、自然と「空気」が変わろうとしている。逆に、ここで、急に笑顔で握手されたら、多くの中国人が反発してしまうだろう。空気が変わりそうなシグナルを送っただけで十分なのだ

■ 李克強首相がさらに空気を変えた

まだまだ、本格的に「空気」が変わったか読めない中で、民衆も役人も経営者も、本当に「雪解け」を信じて良いか、下手に信じて自分が損をすることがないか、ということを慎重に見ているのが、今の状況だと思う

そんな中12月4日、李克強首相が北京を訪れた新日中友好21世紀委員会のメンバーと人民大会堂で会談し、「両国関係は重要である」というメッセージを公式に発信した。これで、雪解けはさらに前に進んだ

冷静に考えれば、握手はしたし、メッセージも発信したかもしれないが、尖閣の問題も靖国の問題も、全く解決に向かっているわけではない

しかし、それらの問題は、反日デモ以前から日中間に同じようにあったものだ。そもそもの対立要因についてギチギチやるのではなく、この際、まずは「空気」を変えることが現実的だ

中国の政府首脳は、慎重にメッセージを発することにより、ゆっくりと「空気」が変わっていくことに期待しているのではないだろうかまだ不安定な状態だが、明らかにムードは変わり始めている

参考 東洋経済オンライン 2014.12.08

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