究極の手段で自動車の軽量化→開拓

世界的に環境・燃費規制が強化され、自動車の軽量化ニーズがさらに高まると予想される中、神戸製鋼所が究極の軽量化手段といわれる「マルチマテリアル化」の市場開拓に乗り出した

マルチマテリアル化は一つの部材に複数の素材を使うもので、求められる安全性などを考慮しながら「適材適所」で使い分ければ車両の重量を大幅に減らせる神鋼では鉄とアルミニウムを自社生産するほか、両者を溶接する材料も持つ強みを生かし、自動車メーカー向けに部材の提案を行っていく方針

日本は欧州に比べて対応が遅れ気味とされるが、巻き返しの先陣を切る構えだ

神鋼は提案営業の開始にあたり、技術開発本部内に2014年4月設置した「マルチマテリアル構造・接合研究室」の人員を20人規模まで増やした今後は鉄とアルミそれぞれの担当部署による従来の営業に加えて、同研究室を中心に鉄とアルミを組み合わせた部材を提案していく

売り込みに成功すれば、20年にも同社の部材を使った自動車が登場する見通しだ。川崎博也社長は「間違いなく自社で手がけるメリットがある。経営資源も投入している」と力を込める。

自動車の約7割は鉄でできている一定の強度があるうえ、コストが安く、加工やリサイクルもしやすいからだ今でも炭素などの元素を加えて強度と薄さ(軽さ)を両立した高級鋼板のハイテン(高張力鋼板)が半分以上を占めるが最近は強度をその2倍程度まで高めた超ハイテンの採用も始まるなど、軽量化技術の開発は途絶えていない

ただ、開発の限界は徐々に近づきつつある。そこで最近は、より軽いアルミや炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、マグネシウムを使う例が増え、素材の多様化が進んでいる。それでも「厳しさを増す環境・燃費規制には対応しきれない恐れがある」(自動車メーカー関係者)。マルチマテリアル化が重視されるのはそのためだ。たとえば、同じフレームで高い安全性を求められる部分だけ超ハイテンを使い、残りは軽いアルミを使うといった、「いいとこ取り」の組み合わせを実現すれば、大幅に軽くすることも不可能ではない

異なる素材を接合し、一つの部材に仕上げるには、コストを減らすだけでなく、溶接や接着の新技術が必要になる

神鋼はナイス(兵庫県尼崎市)と共同で、アルミ合金と鉄の溶接材料「溶接ワイヤー」を開発。従来の溶接と同じく、既存の生産ラインで使えることをアピールしていく考えだ

接合技術では、三井化学も昨年から、金属表面を加工して微細な穴をいくつも開け、樹脂を流し込んで接合する技術「ポリメタック」を展開ソニー傘下のソニーモバイルコミュニケーションズなどが設立したエアロセンス(東京都文京区)のドローン向けに、アルミ合金とCFRPを一体化した骨格部材を供給した。三井化学は「携帯電話でも使われており、ゆくゆくは自動車への採用も狙う」と意気込む。ほかにも経済産業省が音頭を取り、13年10月に「新構造材料技術研究組合」を設立。主だった日本の素材メーカーが参加し、接合技術などの開発を進めている

こうした技術の進歩により、最近は車重や安全性を大きく左右する主要部材でも採用が始まっている

14年発売の「メルセデス・ベンツCクラス」は、フレームの素材にアルミと鉄を併用。リベットを片側から高速で打ち込む接合技術などを多用し、塗装前の「ホワイトボディー」を先代に比べ約70キロも軽くしたほか、燃費性能も約3割向上した

ホンダが今春発売する高級スポーツカー「新型NSX」のフレームは基本的にアルミ合金を使いつつ、屋根を支えるピラー(窓柱)部分などに高剛性の超ハイテンを集中的に配した超ハイテンはアルミ以上に薄くできるため、外観デザインの自由度が高まるのも採用の理由という

マルチマテリアル化は実現に高い技術が必要になる分、海外メーカーに差をつけたい日本の素材メーカーにとって大きなチャンスだ

もっとも、現状では欧州勢が一歩リードしている鉄より高価な素材を使い、特殊な接合技術も必要なため、どうしてもコストがかかる。その点、高級車の多い欧州の自動車メーカーは有利だ。これに対し、日本の自動車メーカーはハイブリッド車(HV)などのエコカー開発でリードしているうえ、軽量化技術に秀でた日本の鉄鋼メーカーから鋼材を入手できることもあって消極的とされる。独フォルクスワーゲンの排ガス不正問題を機に、温暖化ガスの排出削減に寄与するとみられていたディーゼルエンジンへの信頼が揺らぐ中、欧州勢による対応強化の動きはますます進むとみられる

東レ経営研究所の福田佳之シニアエコノミストは、「鉄の技術も進歩はしているが、長い目で見ると(マルチマテリアル化は)避けて通れない」と述べ、対応遅れが“致命傷”になる可能性を指摘する

日本の素材メーカーは、神鋼のように自ら自動車メーカーに採用を働きかけていく必要がありそうだ。(井田通人)

参考 Sankei Biz  2016.01.01

EBTTjDcq4T2smF71445577871_1445578919

 

【関連する記事】