男にも「女子力」が求められる時代に

ヒット番組を数多く手がけられたテレビプロデューサー、吉田正樹さんと、吉田さんの事務所に所属し日々活動している私、太田彩子の対談、後編です。
前回はテレビ業界で働く女性の資質などについてお聞きしました。今回はキャリア観の男女差をさらに深く掘り下げるとともに、近い将来に社会人となる若者たちの気質について、吉田さんの興味深い考察が展開されました

■ 男性にもロールモデルがない時代?

太田:1986年に男女雇用機会均等法が施行されたとき、仕事をする女性にはロールモデルがいなかったので、その世代の人たちは自らがキャリアウーマンにならざるを得なかったと想像します。その次の世代は、見習うべきロールモデルを見いだせなかったから、ロールモデルなんていないよねという結論に達しました。現在は、そもそも「ロールモデルって何ですか?」という時代だと思うんですよ。

吉田:男も、若い世代はそうなりつつありますよ。「あんな頂(いただき)に登りたい」という目標はあるかもしれないけど、出世した先人が通った道を同じように歩いても、その人のところには行けないとわかってしまったから。

太田:吉田さんの事務所にいらっしゃる大学生のお弟子さんには、そのあたり、なんて言ってるんですか?

吉田:「俺と戦え」です。僕の後ろには道はないから、後ろをついてきたってしょうがない。正面に回って「いざ尋常に勝負」と言いなさいと。

太田:従来から言われてきた「俺の背中を見ろ」とは真逆なんですね。

 吉田:僕が講義中のつぶやきを推奨したTwitterが、まさにそうです。年齢や立場の区別なく、誰でも僕の正面に回って直接言葉を浴びせられる。たくさん飛んでくるわけですよ。ちっちゃな矢とか、矢ですらない割り箸みたいなものが、力なくパスパスと(笑)

太田:私の講義は女子力がテーマだったのですが、受講者の3分の1が男子学生でした。その男子学生の半分くらいが「自分よりパートナーの稼ぎが上でもいい」と言い、ほとんどの男子学生が、「結婚したら育児も積極的にやる」と言っていました。ここまで男女の役割がボーダレスになっているのは、びっくりしましたね。

吉田:イクメンが増えているのは、男が「育児をやらないで足るような外の仕事」をしてないからだと思うんですよ

太田:どういう意味ですか?

吉田:彼らに、「育児をまったくやらなくても、補ってあまりあるものを俺は家庭にもたらしているんだ」という自負心がないということです。そういう闘争を放棄してうずくまっているのが、今の男たちです

太田:正面に回らずに、手をつなぐ感じですかね。

■ 夫婦円満の秘訣は友人をシェアすること

吉田:家庭の話で言うと、宇野常寛さんが講義で怖いことを言っていました。マイホームパパというのはもはや存在しない。家へ帰ってほっとするとか、家族の幸せがいちばんという生き方も存在しないと。なぜなら、宇野さんの言葉を借りると、今は「常時接続」の社会だから

FacebookをはじめとするSNSで、パートナーの友人も、元カレも元カノも、全部わかっちゃう。従来のように「夫と妻」「仕事と家」を分けることができない。したがって、「家に帰ってほっとする」もない

太田:へえ。そのときの学生さんたちの反応は?

吉田:ゾッとしてましたよ(笑)。でも、結婚にいい印象がないのは、考えてみれば当たり前のこと。結婚に逃避するなんておかしいじゃんということを、若い世代は男女ともに感じていますから

太田:世界各国の幸福度調査を見ても、結婚している人のほうが幸福度は高いのですが……。それも意味付けが変わってきてるのでしょうかね。

吉田:ところで太田さん、夫の友達と仲良くできますか?

太田:一瞬、考えてしまいます(笑)。

吉田:これからの時代は、夫婦がお互いの友達をシェアできるほうが、家庭が幸せになると思います。昔は職場と地域が完全にセパレートされていましたから、妻が夫の知り合いに会うと、「課長さんですか。うちの旦那がお世話になっております」なんて他人行儀に挨拶していました。でも今は、なんなら相手の知り合いにSNSで直接触れ合えてしまえます

太田:すごい世界ですよね。

吉田:夫の知り合いが単独で存在するなんてありえないわけです。つねに自分が相手をわかる状態であり、かつわかられている状態なので、いろいろなことを隠せない。だから、夫婦それぞれの友達をシェアできたほうが自然だし、関係は円滑になります

太田:うーん……。

吉田:夫婦だけじゃありません。今までは、自分だけの世界に浸ってほっとしたり、他者に対して「ここから先は入らないで」って言えました。でもこれからは、大通りに裸で暮らしているようなもの。常に誰かから監視され、われわれも周りの人も全部見えてしまう

太田:なんだか息苦しいような気がします。

■ 「女子力」の大いなる可能性

吉田:そこを解決するのがコミュニケーションですよ。そして、コミュニケーションは女性のほうがうまい共同体をちゃんと作れますから男って、会社を辞めたら遊ぶ人がいなくなっちゃうでしょう。だから世の中におけるコミュニケーションの価値が上がれば上がるほど、女性は生きていきやすくなる人間と人間との距離感をうまくコントロールするのも、女子力ですからね

太田:これからは微妙な人間関係を作れるとか、うまくバランスをとるとかいったスキルがますます求められると。

吉田:ええ。ひとつ象徴的な話として、女性は友達同士でも仕事ができますが、男性は必ず上司と部下を作る。猿のマウンティングみたいなものです。同輩の友達同士では仕事ができないんです

太田:そういえば、男性の経営者同士がたもとを分かつことがよくありますね

吉田:ただ若い世代だと、男性でもわりに女子力を取り入れていますけどね肩書はたまたまお前が社長で俺が副社長だけど、上も下もない――って状態を作れる。ただし、ある発展の段階を超えると、「でも俺の持ち株の方が多い」と言い出す(笑)。そういう意味で、男のほうが滅びやすいというか、正面に回ってチャンバラして、友達を敵に回しやすいのです

太田:私の思う女子力は、女子だけじゃ開花しないものなんです。10代の女子力って男性にモテたいとか、おしゃれしたいとか、必ず異性を意識してるじゃないですか。働く女性も同じ。「私はこういうホスピタリティで顧客から契約を取っていく」というマインドは女子力ですが、これは世界が女性だけだったら成立し得ないスキルだからこそ、男女がお互いの強みを掛け算しながら共生していくことが大事です

吉田:そうは言っても、会社も社会もまだまだ男性の論理で動いています。だから女子力を考えるというのは、今のメインストリームじゃないもの、現状のやり方にそぐわない価値観をちゃんと認めることと同義だと思いますね。セクシャルマイノリティのことを考えるのと同じ

太田:前回、女性のキャリア観は「横展開」という話をされていましたよねとにかく「階段を上がりたい」男性と違って

吉田:横展開とはつまり多様性です対して男性はなにごとも重層的に積み重ねていく。今までつきあってきた女の話をするのも、たいてい男です(笑)

太田:確かに女性は、あまり覚えてないですね、過去は

■ 男は「すぐに曲がれない」

吉田:太田さんを見ていると、転身しても「積み上げてきたキャリア」に執着している感じがしないですよ。ご自分の中での筋は通っているんでしょうが、周りからしたら「え、今日からそういう仕事なの?」って驚く

太田:よく言われます(笑)。

吉田:男は編集者だったら編集しかできない。明日からカフェ勤務なんて到底受け入れられない。突然の部署異動にも対応できないものです。

太田:へえ、そうなんですか。

吉田:男は「すぐに曲がれない」のですよ。あとですね、昔『話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く』というベストセラーがあったけど、そもそも女性は地図なんか必要としない。地図なしでいけることのほうが強い。地図を頭に入れて、決めてから動くってことが通用しない時代になっちゃいましたから。

太田:なるほど。

吉田:立教の学生が講義で「じゃあ、どうすればいいですか」とよく聞いてきたけど、その問い自体がダメですよ。それって地図を求める行為でしょう。たとえて言うなら、東洋経済オンラインを読むだけじゃダメなんです。東洋経済オンラインに「何が書かれていないか」を見つけて、かつ、それを自分で書けるような人にならないと。

太田:東洋経済オンラインに物申す感じになりましたが(笑)。

吉田:ただ、自分以外の誰かが何をやっているかを知るために、東洋経済オンラインは?日読んだほうがいいかな

太田:ちょっと上げましたね。

吉田:はい、上げました(笑)。

(構成:稲田豊史)

営業部女子課とは、主宰の太田彩子が2009年に立ち上げた、営業女子を応援するためのコミュニティです。女性営業職の活躍の場を広げることで、結果男女ともに輝きながら働ける社会創造を目指しています。詳しくはこちらをご覧ください。講演・セミナーのお問い合わせはこちら→kouen@yoshidamsaki.com

参考 東洋経済オンライン 2015.06.05

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