生活保護費のほぼ半分は医療扶助

生活保護にかかる費用の中で、最も大きな割合を占めるものは何でしょうか? 日常の暮らしにあてる生活扶助? それとも住宅扶助? いいえ、圧倒的に大きいのは医療扶助です医療扶助費は、生活保護費全体の半分近くを占めています

生命の維持、心身の状態の維持・改善は、生存権保障の最低ラインですから、適切な医療の提供は欠かせません。したがって生活保護の利用者は公的医療保険と同じ内容の医療を受けることができます自己負担はありません。それ自体は、当然だと思います

でもなぜ、医療扶助の支出額がそれほど多いのか。いくつか理由が挙げられます。コスト、人権の両面から、改革のメスを入れるべき部分もあります。

◇医療扶助費がかさむ四つの理由

最初に、どうして医療扶助費がかさむのか、筆者の見方をざっと説明しておきましょう。

第1に、生活保護世帯には高齢、病気、障害の人が多いことです。というか、病気、障害のために医療費がかさんだり収入を得られなかったりして、生活保護を受けているケースも少なくありませんだから当然、一般の世帯より、医療を必要とする人の比率が高く、症状も重い傾向にあるわけです

第2に、生活保護を受けた世帯は国民健康保険・後期高齢者医療の加入対象から外れるため、医療費の大部分を保護費で負担していることです。生活保護には「他法・他施策優先」というルールがあり、他の制度があれば、そちらを先に使い、足りないときに保護費で補うのが原則ですが、医療だけは扱いが違います

第3に、医療扶助費の半分以上を入院医療費が占めていること。入院すると、外来通院や在宅医療に比べて大幅に費用がかかります。ここには、本当に入院が必要なのかという問題が含まれています。

第4に、ごく一部の医療機関ではあるものの、患者が生活保護であることを利用して過剰な医療をするケースがあることです「不正」にあたるとは限りませんが、ゆゆしきことです

8割が受けている医療扶助

さて、扶助の種類別に見た保護費の支出額と、それぞれの扶助の対象者数について、データを見てみましょう。2013年度(平成25年度)の実績は、次の通りです(金額は「生活保護費負担金事業実績報告」、人数は「被保護者調査」から。構成割合や比率などは筆者算出)。

8種類の扶助のうち生活扶助、住宅扶助は、生活保護利用者の大半が対象になるので、金額が大きいのは当然でしょう。教育扶助は小中学生のいる世帯、生業扶助は高校生の就学費が中心で、対象者数・金額は多くありません。

医療扶助は生活保護利用者の8割が受けており、総額で1兆7000億円余り保護費全体(3兆6000億円余り)の47%を占めています。1970年代には60%を超えていた時期があり、しだいに割合は下がってきたのですが、それでも大きな金額と比率です。

一方、介護扶助は高齢者が多いわりには対象者数も金額も少ないことがわかります葬祭扶助、出産扶助は、そのつどの必要に応じて支出され、わずかな件数・金額です

「医療券」を発行してもらって受診する

 生活保護の医療に対して「自己負担がなくていいなあ」と、やっかむ声が聞かれます。たしかに医療扶助の場合、公的医療保険がきく範囲の医療なら、基本的に経済的負担なしで受けられるのですが、受診方法の面で、すこし制約はあります

いつでもどこでも受診できる「保険証」が、ほとんどの生活保護世帯にはないのです

どういう病気やけがで、どの医療機関にかかるのか、福祉事務所へ事前に申請して「医療券」を発行してもらい、指定された医療機関に示して受診するのが、医療扶助の原則です。医療券は、病気ごと、医療機関ごとに必要で、その月だけ有効です。歯科の診療や訪問看護も同様です

生活保護を受けている人が、一時的な病気やけがで受診するときは、すぐに医療券が発行されます。急な発症で時間的な余裕がないときは、福祉事務所に電話連絡したうえでとりあえず受診し、後から医療券の手続きをしてもらうこともできます

一方、継続的な診療が必要な病気やけがは、医療機関から「医療要否意見書」を提出してもらい、それを福祉事務所が検討したうえで、医療券を発行します。入院のときも同じです。外来、入院とも、少なくとも6か月ごとに医療機関は要否意見書を提出します。外来患者は毎月、福祉事務所へ出向いて医療券をもらわないといけません。入院中の患者の医療券は、福祉事務所が医療機関へ送ります。

いずれにせよ、福祉事務所の事前了解が原則で、自分の判断だけでは医療にかかれないわけです。

すると、夜間・休日で福祉事務所が閉まっているときの急病は、どうするのでしょうか。厚生労働省は「そのような事態に対応するため、あらかじめ地域の医師会等と協議し、適切に受診できるような措置を講じておくことが適当である」(中央法規「生活保護手帳別冊問答集2015」p483)と、あいまいな説明です。対応は自治体によってまちまちで、緊急受診用に「休日・夜間等医療依頼書」「被保護者証明書」といった書面を保護世帯に渡している自治体がある一方、何も出していない自治体もあります。実際に不都合な事態はとくに起きていないようですが、手続きを気にして受診が遅れるとまずいので、全員に証明書を発行してほしいという声もあります。

なお、ホームレス状態の人のように、お金が乏しくて保険証もなく、生活保護を受けていない人が、救急搬送などで入院したときは、急迫状態として緊急保護が適用されます。資産や扶養関係などの調査は福祉事務所が後から行い、資産があったときは返還を求めます。

◇通院の交通費は、移送費で支給

医療扶助でかかれるのは原則として、生活保護指定の医療機関です。とはいえ、保険指定された医療機関なら、ほぼすべてが生活保護指定なので、その点で選択の幅が狭くなることはありません。

実際にどこにかかるかは、本人の希望を踏まえて福祉事務所が決めます。原則は、自宅から比較的距離の近い医療機関とされています(治療上の必要などの事情があれば別)。

医療扶助は保険のきく範囲が対象なので、差額ベッド代などは出ず、先進医療の費用も給付されません。ただし生命にかかわる、他に治療法がないといった特別な事情があれば、未承認薬など保険のきかない治療でも医療扶助が認められることもあります。

薬局用には、調剤券が発行されます。伝統的な施術(柔道整復・はり・きゅう・あん摩指圧マッサージ)、治療用装具の給付を受けるときも、医療とほぼ同様の手続きで、要否意見書にもとづく福祉事務所の決定が必要です。この場合は施術券、治療材料券が発行されます。

通院や入院に交通費がかかるときは、医療扶助の一環として「移送費」が支給されます。公的医療保険で事後給付される移送費は、自力の移動が難しい患者に限られますが、医療扶助では自分で通院するときの電車代、バス代、ほかに適当な手段がないときのタクシー代なども出ます通院の交通費は生活扶助の額に含まれていないからです。支給を受けるには、急病のときを除いて事前の申請・決定が必要です

国民健康保険・後期高齢者医療から外れる

 数は少ないのですが、生活保護の世帯でも、労働の時間・日数が多く、勤め人向けの健康保険(社会保険)や公務員・私学の共済に加入している場合は、自己負担の部分だけが医療扶助になります。保険証を持ったまま、保険併用の医療券が発行されます。

しかし、国民健康保険や後期高齢者医療の場合は、生活保護を受けると、加入対象から外れます。このため、医療費の出所が全額、医療扶助になることが多いのです。

ただし、ほかの公費負担医療を利用できるときは、そちらを優先して使います。次のような制度は、所得水準によって自己負担がありますが、生活保護世帯なら負担ゼロなので、保険から外れている場合、それらの制度の対象範囲の医療は、すべて公費負担になります。

◆障害者の自立支援医療(身体障害児の育成医療、身体障害者の更生医療、精神障害の通院)、指定難病の医療、感染症法の勧告や強制による入院(結核を含む)、小児慢性特定疾病の医療、未熟児の養育医療、結核の子どもの療育医療、精神保健福祉法による措置入院

たとえば、身体障害の認定を受けた腎不全患者の人工透析は更生医療、精神障害による継続的な通院は精神通院で全額まかなわれます。なお、感染症法のうち、結核の通院医療は一律5%の自己負担があるので、その分は医療扶助から支出されます

また、以下の制度による医療は、生活保護に限らず、もともと自己負担がありません。医療費は原則として、これらの制度で負担されます。

◆労働災害、原爆被爆者援護、戦傷病者援護、公害健康被害補償、医薬品副作用被害救済、予防接種健康被害救済、学校保健安全法で定める学校病の医療(低所得世帯の子ども)

◇介護保険は65歳以上なら保険優先

介護保険の場合は、65歳以上なら、市区町村に住所のある全員が加入します(1号被保険者)。生活保護を受けている人も介護保険料を徴収され、その額は生活扶助費を算定する際に加算されます(つまり介護保険料は生活扶助で出る)。介護サービスを受けるときは、一般の人と同様に費用の9割が介護保険でまかなわれ、1割の利用者負担分だけが介護扶助で支出されます

40~64歳は、公的医療保険の加入者しか介護保険に入れません(2号被保険者になれない)。このため、社会保険に入っていない生活保護の人が、加齢に伴う病気で介護が必要になったときは、介護保険と同じサービスが全額、介護扶助で提供されます。

生活保護費のうち、介護扶助の総額が比較的少ないのは、65歳以上について、保険を優先して使う原則が守られていることが理由の一つでしょう。

◇医療費も保険優先にすべきでは

医療の大部分が保険優先でないことによって、医療扶助の金額が大きくなり、生活保護費の総額も押し上げています。なぜ医療だけ、他法・他施策優先の原則から外れているのでしょうか。

戦後に旧生活保護法が施行されたのは1946年10月、全面改正されて新しい生活保護法が制定・施行されたのは50年5月。これらの段階から医療扶助はありました。一方、国民皆保険が実施され、職域の健康保険に入っていない人に国民健康保険への加入が義務づけられたのは、それより後の61年4月です。先に医療扶助が定着しており、ここで生活保護の医療も保険優先にすると、よちよち歩きの国保の財政負担になることが懸念されたのかもしれません。あるいは、保険料を払えない人は保険に加入させないと考えたのかもしれません。

しかし、医療扶助だけを特別な扱いにするのは、足らずを補うという生活保護制度の基本からずれています。医療機関の窓口で、保険証でなく医療券を出すのは、引け目を感じるという声もあります。介護保険のように、生活保護の人でも国保や後期高齢者医療に加入する形にし、それらを運営する自治体に国から財政的な手当てをするほうがよいのではないかと思います。

(読売新聞大阪本社編集委員 原昌平)

読売新聞(ヨミドクター)2016.04.23

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