熊本地震倒壊家屋→台風対策の瓦「裏目に」

 熊本地震の建物倒壊で死亡した人の多くが、建築基準法の新耐震基準が作られる前の古い基準の建物で犠牲になっていた政府は耐震化率の引き上げを図るが、地域や自治体によって防災意識に差があるのが現状だ

 震度7の地震に2度襲われた熊本県益城(ましき)町を歩くと、あちらこちらで損壊した建物が姿を現す。一方、外観から見て比較的新しいと思われる住宅はあまり壊れていない

 「台風対策は入念にしていて、20年前に瓦をふき替えたが、柱や、はりは弱かった。地震が起こると思わないから、耐震工事をしようとは思わなかった」。同町平田で自宅を片付けていた農業、水本正敏さん(62)はそう言った。築62年の木造2階建て。周囲には同じような古い家屋が並んでいる。

 14日の1回目の地震では家は無事だった。だが、16日未明の本震で1階天井が落ち、水本さんは首から下をベッドと天井板にはさまれた。けがはなかったが、身をよじり、やっとの思いではい出た。

 最初の地震の翌日の15日夜、水本さんの親戚の家に集まって一緒に夕飯を食べた女性(63)は、倒壊した自宅の下敷きになって死亡した。女性の家は水本さんの家よりも古かった。この女性のように1回目の地震後も自宅にとどまり、本震で犠牲になったのは町内で12人にのぼる。1回目の地震で建物の構造や地盤などが弱くなっていた可能性がある。建物の不動産登記簿によると、死者が出た倒壊家屋のほとんどが築50年以上で、100年を超える家もあった

 犠牲者が出た倒壊家屋を見て回ると、1階が押しつぶされ、2階部分と三角形の瓦屋根が平屋のように残っている。一方、最近建てられた新築の家は窓ガラスが割れる程度で、大きな被害は見当たらない「この辺りは、農家の広くて古い家が多いから、重い瓦屋根が裏目に出てしまったんです」。近所の住民(76)はそう話した

 状況は、益城町の隣の西原村でも同様だ。同村鳥子で亡くなった女性(83)の自宅は瓦ぶき木造2階建て。母屋の横には、今は使われていない牛小屋や物置が一続きになっている。伝統的な日本の農家のつくりだ。倒壊した家屋は土壁で、崩れた土壁の中から縄で固定された細い木材や竹などの骨組みがむき出しになっていた。近くに住む男性(55)は「この家は、私が小さい頃から建て替えたことはない。この辺りの農家の家はどこでも一緒だよ」と話した。【深津誠、野呂賢治】

耐震化率 全国82%、熊本76% 建築時期、1981年以前は高リスク

 全国の住宅の耐震化率は2013年時点で82%政府はこれを20年に95%へ引き上げる目標を立てている今年3月には、耐震性が不十分な住宅を25年に「おおむね解消」するとした住生活基本計画も閣議決定した

 背景には1995年の阪神大震災で、新耐震基準が作られた81年をはさみ、建物被害に大きな差が生じたことがある発生直後の死者の8割以上が建物の下敷きになったが、81年以前の建物の3割近くが大破したのに対し、82年以降の建物の大破は1割に満たなかった政府は首都直下地震対策でも、耐震化率を100%にすれば、全壊棟数と死者数が現状よりも9割減ると予想している

 国土交通省は阪神大震災直後から、耐震化の補助制度をスタートさせた。現在、耐震診断は国と市町村が3分の1ずつ、耐震改修は国と市町村が11・5%ずつ補助している。だが「制度導入には地域差がある」(担当者)ため、目標を達成するには、13年時点で3〜4ポイント足りない

 南海トラフ巨大地震で大きな被害が懸念される静岡県。13年時点の耐震化率は82・4%で、熊本県の76%より約6ポイント高い。静岡県の全35市町で補助制度があるうえ、高齢者のみの世帯は補助を割り増ししている

 一方、熊本県の全45市町村での補助制度導入は、耐震診断が24市町耐震改修にいたっては16市町しかない家屋倒壊が多かった西原村も補助制度はなく、内田安弘副村長は「耐震補強しないと危ないという声でもあれば、議会などで議論になっていたと思うが、一切出たことがなかった」と話す

 耐震改修は柱と柱の間に木材や鉄骨を斜めに入れて壁を補強したりする。業界団体によると、工事費は平均150万円前後という

 兵庫県立大防災教育研究センターの紅谷(べにや)昇平准教授(都市防災)は「大きな自治体では、耐震改修を住民などに働きかけるための職員や予算を確保しやすいが小さな自治体では難しいという実情がある農村部で耐震化を促進するには、寝室や居間の部分改修でも支援するなど住民のライフスタイルに合わせた補助制度を整えるとともに、住民や教育機関、専門家が一体となって地域ぐるみで防災意識を高める必要がある」と提言している。【関谷俊介、福島祥】

 毎日新聞 2016.04.23
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