熊本地震→宇土市役所立て替え

 熊本地震では災害対応の司令塔となるべき自治体庁舎そのものが、大きな被害を受けた。熊本県宇土市役所も崩壊寸前となり、市は隣接する市民体育館などで、救援物資の受け入れや罹災(りさい)証明書発行の受け付けなどの業務を続ける。耐震性の低さは以前から指摘され、紆余(うよ)曲折の末、建て替え議論がようやく動こうとした最中の被災だった。(中村雅和)

同市役所本庁舎(鉄筋コンクリート造、地上5階建て)は、高度成長期の昭和40年5月に完成した

老朽化が進み、今回の熊本地震で大きな被害が出た。4階部分が押し潰され、立ち入り不可能になった。

市庁舎の耐震性にはもともと、疑問符が付いていた

平成15年実施の耐震診断では、「震度6強程度の地震で大きな被害を受ける可能性が高い」と指摘されるほどだった。建物の構造が複雑なことから、耐震補強ではなく、改築(建て替え)を勧められた

十数年前から建て替えの議論はあったが、財源がなかった

解決のきっかけにと期待されたのが、耐震診断前の「平成の大合併」だった。政府は合併を促すため、合併特例債を用意した。この特例債は償還額の7割を国が負担することから、自治体にとっては、小さな負担で公共施設の建設を進められる

宇土市は14年、隣接する富合町と「宇土・富合合併協議会」を設立し、合併協議を進めた。市庁舎建て替えを合併特例債で進める考えもあった。

ところが15年、富合町議会が合併に関する議案を否決し、17年の住民投票でも反対が多数を占めた。

富合町は最終的に、熊本市との合併を選び、宇土市は特例債による建て替えを断念せざるを得なかった

宇土市は、基金積み立てなどで、建て替え費用を独自にためようとした。

23年3月、東日本大震災が発生した。

震災後、文部科学省が学校の耐震化を急ぐよう、各自治体に求めた。宇土市も市庁舎建て替えを後回しにして、子供が通う小・中学校の耐震工事を進めた

この間も、市庁舎の老朽化は進んだ。地震どころか、窓の隙間から雨が入り込むありさまだったという

市は27年9月、市庁舎建設検討委員会を始動させた。検討委は今年2月、市内4カ所を候補地とした基本構想案をまとめ、ようやく市庁舎の建て替え構想が動き出した

市は4月14日、建て替えに関するアンケートを市民に発送したその日夜、震度5強の揺れに襲われた。さらに、同月16日未明の本震では「震度6強」を観測した15年の耐震診断で危惧された通り、庁舎は大きく損壊した

現在、市は緊急避難的に体育館などで業務を行っている。だが、余震は依然として多発し、間もなく梅雨の季節を迎える。行政として「次の災害」に備えなければならない

市企画部長の山本桂樹氏は「いつまでも体育館で執務するわけにはいかないが、今後については全く見通せない状況だ。自治体そのものが被災した市としては、国の力強い支援を期待している」と語った。市は近くの公共施設やオフィスビルなど、仮の移転先を探しているが、めどは立たない。

同様のケースは他にもある。

熊本県人吉市の市庁舎も4月16日の本震後、はりや壁に複数のひびが見つかった。倒壊の危険性があることから市は、5月9日にも、役所機能を市庁舎別館など3カ所に分散移転させる

人吉市も平成13年の耐震診断で震度5クラスの地震によって市庁舎は倒壊する可能性があるとされた建て替えを決めたが、財源がなく、見送りを続けたという

財源が豊富といえず、庁舎整備を後回しにした全国の自治体は多い。宇土市や人吉市の現状は、決して人ごとではない。

産経新聞201605.01

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