淡泊な夫婦生活→我慢すれば済むのか?

宋美玄さんインタビュー

 妻に長年セックスを拒否され、インターネットで知り合った女性の住む海外に出かけた男性は、訪ねていった女性の自宅で、初めて結ばれました

これまで様々な体験談をご紹介してきましたが、今回から、専門家へのインタビューシリーズをしばらく続けます。ぜひ、参考にして頂ければと思います。

最初にご登場頂くのは、ヨミドクターの人気執筆陣のお一人である産婦人科医の宋美玄さん(39)です。宋さんは、性科学者という顔もお持ちで、セックスカウンセリングも専門にし、これまでセックスの問題に悩む人たちの相談に乗ってきた経験が豊富です。「性とパートナーシップ」もよく読んで下さっているようですので、色々聞いてきました。

――まず、「性とパートナーシップ」について、率直なご感想をお願いします。

「パートナーが望めば応じるのが夫婦だと思っている人がやはり多いのだなと思いました。でも、それは絶対ではありません。法律上も、理由なく1年ぐらい拒否すれば離婚を認めるとなっているようですし、海外でもセックスレスが離婚の理由として認められていることがありますので、『拒否してもいい』とは一概に言いにくいのですけれども、単に『夫婦なんだから応じろよ』というのも、相手の気持ちを無視しています

――コメント欄でも、「夫婦は必ずセックスしなくてはいけないのですか?」と、セックスが夫婦関係の前提であることに納得いかないという内容がよく見られます。

2人ともセックスを求めていないなら、それはもちろん、それでいいのですけれども、片方が求めているのに、片方が全くしたくないというのは、やはり問題でしょうね夫婦でどちらかが一方的に我慢しなくてはならないというのはフェアじゃないです。もし、パートナーシップを維持したいのならばお互いに多少の歩み寄りをするべきで、私もこうしますから、あなたもできることないですか、というすり合わせをする努力を怠らない方がいいでしょうね

――「お互いに」というのが大事ですね。どちらも譲歩し、どちらも妥協しなくてはならないわけですよね。

「求める側も、したくない相手に対して、毎日したいという希望を通すのは無理。それなら話し合って、月1回ぐらいはそういう時間を持とうよとか、できることを探っていくことが必要ですよね。どちらかだけが一方的に我慢というのは、パートナーではないと思います

――拒否されている側も、拒否している側も、どちらの意見も極端になってしまって、話し合いさえできない状態になっているような印象がありますね。

「そうですね。最近は、結婚後も数回しかしていないという夫婦によく会います。患者さんとして相談に来たり、プライベートで相談してきたり色々ですが、若い人でも、全然していない夫婦って多いのだなと感じます。2人がそれで了解しているならいいのですが、片方がしたいと思っていたり、片方が子供がほしいと思っていたりするならば、話し合うべきでしょうね。そういう夫婦に限って、どちらかが自然妊娠にこだわったりして、余計問題がこじれますね

「話は少しずれますが、先日、高校の保健体育の副教材で使っていた、妊娠しやすさの年齢グラフが間違っていたという話題がありましたね(参照:ピークは22歳?「妊娠しやすい年齢」グラフに誤り)。グラフ自体も元の論文と違っていたのですが、元論文も、年齢を重ねると共に性交頻度が減っていく影響を排除していないグラフを使っていたんです。つまり、純粋に女性の体の能力としては、あのグラフよりもう少し緩やかに妊娠しやすさが落ちていくのですね。そういうことをきちんと見ていないグラフだったので、女性だけが若いうちから妊娠能力が下がるという印象を与え、問題があったなと思います

年齢とともに、セックスの頻度は落ちるのが自然です。若いうちに結婚しても、年を取ったらしなくなりますよね。そういう意味でも晩婚化とセックスレスは直結していると感じます。大多数は減っていくのですが、私が色々な人を診た印象では、10年、20年ずっとセックスし続けている夫婦はまず間違いなく夫の性欲が強いんです。高校生のような旺盛な性欲を持ち続ける。普通なら、同じ人とし続けたら飽きてしまうということがありますよね。育児で疲れているとか、妻を女として見られなくなるとか、お互いに体形が変わってしまうとか色々な理由で減っていきます。でも本当に一部、たとえ相手が誰であっても、とにかく毎日したいという男性がどうもいるようなんです

産後にセックスしたくなくなる女性が多い理由

 ――それに妻がついていけなくなると、悲劇になりますね。「性とパートナーシップ」の取材やコメントでは、産後にセックスレスになったという人がものすごく多いようです。産婦人科医として、なぜ産後にセックスしたくなくなるのか、解説していただけますか?

「まず、妊娠中は、女性ホルモンが通常の150倍から200倍分泌されているんです。特に妊娠末期の分泌量が最高に達しますそれが、産後ガクンとなくなって、膣ちつが乾燥してカピカピになったり、感度も減ったりします。また、授乳中には、脳の下垂体から、プロラクチンという通称『愛情ホルモン』が分泌されて、性欲も減るのです。それだけではなく、出産で性器も傷つきます。会陰切開をして純粋に痛いこともあるし、骨盤底筋も伸び伸びになってしまい、とても男性を受け入れる体の状態ではなくなっています。それを夫も理解しないといけないし、女性も説明してあげないといけないですよね」

――産後、どれぐらいの期間で、体の変化は戻るのでしょうか?

「外国の文献では、9割ぐらいは3か月ぐらいで、性的活動が戻ると書いてありますでも日本は違いますね。私が400人ぐらいの産婦を対象にして行った調査では、産後6か月の時点で、6割がセックスレスの状態です

――日本と海外のこの差は、何が原因と考えられているのでしょうか。

「何でしょうね。日本人は産後に限らず、セックスの頻度自体が、海外より低いですよね。ただ、日本人は江戸時代まではフリーセックスの文化があったぐらいですから、民族的な体や性欲の差はないと思うのです

――コメント欄を読んでいますと、産後、大変な時に、夫が育児をまったく手伝わず、いたわりの言葉もかけなかったという心情的な恨みがある人が多いようですホルモンバランスなど体の変化に、そういう恨みが重なって、体が戻った後も、恨みが残り続けて受け入れられなくなるというパターンがとても多い気がします

「私も、何回もカウンセリングでそういうカップルを経験しました。基本的に、夫の方は50歳ぐらいでも『妻はなんでずっと応じてくれないんだ』という気持ちを抱えているんですが妻の方に聞くと、産後の一番大変な時に、一切手伝わなかったうえに、『もうやってもいいだろう?』と体だけ求めてきて、絶対に許せない、というケースがとても多いんですよ。今でこそ、イクメンという言葉がありますが、昔は男が仕事にかまけて全然育児に関わらないし、かといって、核家族なのでほかに誰も手伝ってくれないと、出産後の女性は孤立していたんですよね。今のように、妻が拒否してもいいという関係も昔はあまりありませんでしたし昔の女性ってろくなことがありませんでしたよね

セックスレスについても話し合うアメリカの夫婦

 ――今はある程度、夫婦間で妻側の発言力が増してきていますね。

「まあ、そういう夫婦も増えてきたという程度ですかね。いまだに全然そうではない夫婦もいっぱいいると思います。それから、女性向けの雑誌を読むと、『男はデリケートだから、傷つけちゃいけません』ということがよく書いてありませんか?

――昔からありますよね。女性側が強い態度で臨むと萎えちゃうから、女性から求めちゃいけませんとか、体形を維持し、きれいな下着でさりげなく誘われるのを待ちましょうとか(笑)。

「なんで、女性がそこまで気にしないとあかんねん、と思いますよね。男性って『男って繊細なんだよ』の一言で許されると思っている。甘やかされていますよね」

――でも実際はどうなんでしょう。今後、男性医学の先生にもインタビューする予定ですが、男性の性欲や性的な能力は、精神的なダメージですぐにぺしゃんと落ちこんでしまうものなんですか。

「そういうことはあるようですが、産後の話に限れば、女性の方がお断りというパターンが多いですね。荒木乳根子先生たちの中高年のセックス調査では、40代から70代まで、どの年代でも男性の方が性欲が上なんです女性はついていけないですよね。そうすると、日本の男性は外で済ませてきたりします

――風俗やらなんやら、そういうセックスの外部発注装置が日本には多いですね

「先日、『セックス・センス~「挿入しない」という快楽』というセックスカウンセリングについての本を書いた米国のセックスセラピスト、マーティ・クレインさんの講演を聴きに行ったのですが、日本とは相談のレベルが違うんですよ。アメリカでは、2人であれもこれも試して、散々コミュニケーションを取った上で、それでもうまくいかないというカップルが来る日本だと、相手に言いたいことも言えずに、意思疎通の時点でうまくいかないというケースがほとんどです。それで困り果てて相談にくるわけで、相談の出発点がかなり違います

――誰か第三者を挟んだら、話し合いができるんじゃないかと期待するわけですか?

「挟んでくれたらまだいいのですけれども、パートナーは来なくて、1人で来ることがほとんどです。以前、フランスのジャーナリストに、『フランスではセックスレスはないんですか』と聞いたら、『フランス人ももちろん同じ人とずっとしていたら飽きてくるし、年齢とともに性欲は減ってくる。でも、自分たちの体が変化したり、マンネリ化してきたりしたら、2人でどういうことをしたら、もう一回刺激的なセックスができるかということを徹底的に話し合うんです』と言われました。話し合いさえできない日本とは、大きく違いますよね」

参考 読売新聞 2015.09.15

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