注目浴びる路面電車→非効率

都市の道路上に敷設されたレールの上を走る路面電車は、鉄道のなかでもひときわ注目を浴びる存在だ。その度合いは蒸気機関車や寝台列車に匹敵する。

かつては都市の交通機関として人々の移動を支えてきた路面電車も、1960年代から1970年代にかけて多くが廃止となってしまった。それでも1980年代以降、路面電車は何度か見直され、低床式の高性能車両の導入、それに一部の都市では路線の延伸が実施されている

近年になって路面電車をLRT(Light Rail Transit、低床式車両を活用した交通システム)へと転換させようとする動きも見られる。しかし、全体的な傾向としてみれば路面電車は旧態依然のままであり、21世紀の都市にふさわしい姿へと変化を遂げていない

■ 路面電車は自転車よりも遅い

路面電車が停滞気味となっている理由はいくつか挙げられる。

鉄道・軌道全体やJR旅客会社、大手民鉄はもとより、多くの都市で路面電車廃止後に整備された地下鉄、それから路面電車と同等の輸送力をもつ新交通システム(ゆりかもめなど)やモノレール、トロリーバスと比較しながら検証していこう

最初の検証項目は速達性だ。路面電車という乗り物は道路上をのんびりと進むというイメージをもつ。運転区間の距離を、停車時間を含めた所要時間で除した「表定速度」は新交通システムやモノレールと比べると著しく低い。

 表1は全国の路面電車、新交通システム、モノレールの中から「旅客人キロ」と「旅客輸送密度」(旅客人キロ÷年間の延べ営業キロ。数字が多いほど多くの旅客を運んでいることを示す)とが、それぞれ最多もしくは最少のものを取り上げて比較した。

各社とも平日の午前8時に主要路線の起点から終点へと向かう列車を取り上げて比較した。なお、法規上では路面電車は列車とは言わないが、理解しやすくするよう列車と表す。

■ 最高時速はわずか40キロ

結果を見ると路面電車の劣勢は明らかであり、新交通システムやモノレールと比べて時速にして10キロメートル分は低い。特に広島電鉄の時速8.8キロメートルなど、自転車が瞬間的に出す速度よりも遅く、渋滞に巻き込まれればさらに表定速度は下がるであろう。

そのような中、東京急行電鉄世田谷線の時速16.7キロメートルという健闘ぶりは目立つ。世田谷線は道路上ではない専用の敷地内に線路が設けられているので、当然の結果と言えるであろう。

ちなみに、東京都を営業エリアとする東京都交通局のバスの平均速度は時速11.2キロメートル。平均速度とは停車時間を含まない数値であるので、表定速度に換算すれば恐らくは時速10キロメートルを割り込むであろう

路面電車の表定速度が低い理由はいくつか考えられる。最高速度が時速40キロメートルに抑えられているという点がまず一つだ。

旅客の乗り降りに時間を要しているからと多くの人は考えるかもしれない。乗降時間短縮のため、停留場に乗車券の券売機を置くなどして、車内での運賃支払いの時間を省く「信用乗車方式」を勧める向きもある。

■ 信号待ちがかなり多い

しかし、国土交通省中国運輸局が2005年3月に発表した「路面電車のLRT化を中心とした公共交通体系の再構築の検討調査報告書」によると、広島電鉄の全路線平均運行時間のうち、走行時間は54.0パーセント、信号待ちは30.8パーセント、乗降は11.9パーセント、前を行く列車などを待つ時間は3.3パーセントであったという。特に、交差点で路面電車が左折または右折すると、表定速度を大きく落とすことが判明している。

スピードアップのためには列車が近づくと信号が青に変わるような方策が考えられるものの、他の交通との兼ね合いから完全には実施できない。結局のところ、道路上を走らないようにすれば解決するのだ

続いては安全性を見てみよう。表2は列車キロと事故件数とによって事故1件当たりの列車キロを求めたものだ。2012年度の結果はご覧のとおりで、事故1件当たりの列車キロは路面電車が33万2847キロメートルに対し、新交通システム、モノレールでは事故そのものが起きていない。さらには、JR旅客会社や大手民鉄、地下鉄と比べても事故が起きる頻度は高いと言える。

 路面電車の事故で最も多いのは、道路上の車両や歩行者と衝突または接触する道路障害事故だ。事故全体の77.7パーセントを占める56件が発生しており、解決策としてはやはり道路上を走らないようにするほかない

 表3は営業収支だ。極論ではあるが、いかに遅く、事故が多かろうと、儲かっている限り、路面電車は安泰に違いない。そうした観点で見ていくと、意外な結果が得られた。

路面電車全体の2012年度の営業収支は、営業収益240億4777万7000円、営業費用267億2903万2000円であったため、26億8125万5000円の営業損失を計上している。全国18の軌道経営者中、営業利益を計上したところは富山地方鉄道(軌道整備事業者である富山市の営業収支を含まない)、京福電気鉄道岡山電気軌道広島電鉄とさでん交通の5つしか存在しない

営業費の増加を招いている要因の一つは運転費の比率の高さにある。主に運転士の人件費から構成される運転費の割合は、路面電車のように輸送力が小さいと上昇しがちだ。路面電車のなかで運転費の比率が最も高い鹿児島市交通局の場合、運転士の人件費は8億1567万6000円であり、運転費全体の90.7パーセント、営業費全体の49.9パーセントにも達する

■ 輸送力を高められない理由

輸送力を上げるには複数の車両を連結して運転すればよい。しかし、路面電車の場合、連結した車両の全長を30メートル以内としなければならないという決まりがあるし、停留場その他の設備上の理由からなかなか困難だ。

運転費を下げるには新交通システムのような無人運転の導入も考えられる。しかし、自動車の自動運転もまだ実用化されていない現時点では無理であろう。輸送力を上げるにしろ、無人運転を実施するにしろ、路面電車の営業収支を向上させるには、道路上での走行をあきらめるほかない

いま輸送力という言葉が登場したので、路面電車の輸送力についても検証してみよう。輸送力を比較する際に役立つ指針は表1でも用いた旅客輸送密度だ。

路面電車全体の旅客輸送密度は8230人であり、新交通システムの2万3533人、モノレールの3万1769人よりも少ない。新交通システムやモノレールでは営業利益を得られないとか、建設費を償却できないと見込まれたところが路面電車として存続を許されたのだと言える。

 トロリーバスは3336人、首都圏・中京圏・京阪神圏の乗合バスは1232人という旅客輸送密度をそれぞれ記録した。一見、トロリーバスの輸送力はバスよりも高いように思えるが、1台当たりの定員はどちらも70人前後であるから、同等の輸送力を備えた交通機関だ。以上を勘案すると、路面電車の旅客輸送密度が3000人を割り込むようであれば、バスに置き換えてもよいという厳しい局面を迎える

最後に路面電車の運転用電力の消費率について検証してみたい。表5は電力1キロワット時につき車両が何キロメートル走行できるかという「電費」を示したものだ。

■ 路面電車が抱えるジレンマ

鉄道・軌道全体とモノレールとが0.46キロメートル、新交通システムが0.60キロメートルというなか、路面電車の0.39キロメートルはそう悪い数値には見えない。とはいえ、表定速度の低さを考えれば速度が遅い割に電力消費量がかさんでいるとも言える

1旅客人キロ当たり、つまり旅客1人を1キロメートル乗せたときの電力消費量を求めると路面電車の欠点が際立つ。表5のとおり、路面電車全体では135.5キロワット時となり、新交通システムの102.3キロワット時、モノレールの78.0キロワット時、トロリーバスの77・9キロワット時と比べてもよくない。いま比較した3形態の鉄道は、いずれも鉄の車輪に比べれば摩擦の大きなゴムタイヤで走行するので「電費」は悪くなりがちだ。

にもかかわらず、路面電車はさらによくないのだから深刻な状況とも言える。全線が新設軌道の東京急行電鉄世田谷線では41・2キロワット時と好調であるため、繰り返しとなって恐縮ながら、このような状況を打破するには道路上を走らないようにするほかないのであろう

軌道経営者を訪ねて取材してみると、LRTへの転換など夢のまた夢で、いまある設備を維持していくので精いっぱいというところばかりである。巨額の投資を行うには輸送需要の増加が欠かせないものの、そうなってしまうと今度は路面電車では今回検証した速達性、安全性、営業収支、運転用電力の消費率の各面での不利な面が如実に示されるというジレンマが存在するからだ。

路面電車は新交通システムとバスとの間に収まる輸送規模に適した交通機関であるというと聞こえはよいものの、バスの輸送力が向上したり、少量の輸送人員でも採算ラインに乗る新交通システムが開発されたりすると、路面電車の存続は難しい。新たなLRTがなかなか現れない事情もどうやらこのあたりにあるようだ

参考 東洋経済オンライン 2015.10.16

【関連する記事】