汽船沼ホルモン→漁師たちのこだわり

東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県気仙沼市日本各地からの遠洋漁船が集まるこの漁師町で、昔から愛されている料理がある。「気仙沼ホルモン」だ。新鮮な海産物が集まる地域で、なぜホルモンなのか? 現地を訪ねた。

JR一ノ関駅(岩手県一関市)から、2両編成のワンマン列車に揺られ約1時間半。JR気仙沼駅に着いた。自動改札機はなく、駅員さんが乗客に声をかけながら切符を回収する。駅から東へ緩やかな坂道を港の方へ下る。乾物屋や電器屋が並ぶ夕暮れの町は、人通りも少なく静かだ。港の近くは土地のかさ上げ工事が進む

気仙沼ホルモンは、小腸や大腸、ハツやレバーなど、数種類の豚の生ホルモンを、みそとニンニクのたれに漬け込んで七輪で焼いた料理ウスターソースを垂らした千切りキャベツと一緒に食べるのが定番という市民でつくる「気仙沼ホルモン同好会」の小野寺克弘副会長(41)は、「漁から帰ってきた漁師たちが『魚ではなく肉を食べたい』と、安価なホルモンを好んで食べていたことから、この地域に根付いたと言われています」と説明する

気仙沼港の2014年の水揚げ量は7万9011トン。中でも生鮮カツオの水揚げは1万9150トンで全国1位を誇るスタミナがつき、キャベツでビタミンも摂取できる気仙沼ホルモンは、ハードな仕事を終えた海の男たちが集まる漁師町ならではの料理なのだ

飲食店や仮設商店街がある気仙沼市南町のビルの2階から、にぎやかな笑い声が聞こえる。狭い階段を上った先の扉を開けると、煙に混じって香ばしい匂いが漂ってきた。昭和30年代から続く老舗「ホルモン道場」(0226・22・0830)だ。

仙台みそとすり下ろした生ニンニクのたれに漬け込んだホルモンを、表面が少し焦げるくらいにカリカリに焼き、キャベツの千切りと一緒に口に運ぶ。甘辛いみそのうまみと香ばしさが口の中に広がる。千切りキャベツが付いて1人前450円(税抜き)

鼻につんとくるのはニンニクの辛みだという。気仙沼ホルモンを提供する店の中でも、同店のニンニクの強さは有名だ。店長の白幡正弘さん(52)に使用量を尋ねたが、「内緒」とにやり。小野寺副会長は「みそとニンニクの配合を変えたり酒を加えたりして、それぞれの店が独自のたれを作っている。だから一人一人にお気に入りの店ができる」と話す。精肉店によっても味つけは違う。家で調理する人も多く、好みの店があるという。

自宅を兼ねていた同店は震災で津波に流され、11年11月に現在の場所で再開した。

家族でホルモンをつついていた同市の会社経営、藤田秀一郎さん(52)は、子供のころから、この店のホルモンを食べて育った。「店がなかった11年夏は夏バテした」と笑う。「ここのホルモンは日常の味。みんなが再開を待ち望んでいたよ」と話した。

同店から車で大川を越え、県道26号沿いの「焼肉ハウスジャンジャン」(0226・23・3038)へ向かった。同店の気仙沼ホルモンは、白みそとニンニクを9対1で合わせたたれに新鮮な県産ホルモンを漬け込んだもの。専務の佐藤哲也さん(43)は「子供からお年寄りまで食べやすいオーソドックスな味を目指している」という。焦げたみその香ばしさとこりこりとした食感が食欲をそそる。ビールも良いが白飯が何杯でもお代わりできそうだ。こちらも1皿400円(税込み)と低価格

同店も震災で1階が浸水。11年6月に店を再開した。佐藤さんは同じ頃、小野寺副会長に誘われ、同好会に参加。仮設住宅の住民に振る舞ったり、全国のイベントに参加したりしてPR活動を続けている。「震災前からこの地域にあったものを守っていきたい。そうして一歩ずつでも、町が復興できればいい」。気仙沼ホルモンにかける思いを、そう語った

参考 毎日新聞 2015.05.31

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