民進党勝利→中台首脳会談模索

蔡氏は民進党内の「台湾独立」の声を抑え込めるか

 台湾の指導者を選ぶ総統直接選挙が1月16日に投開票される。直近の各種世論調査によると、民主進歩党候補の蔡英文主席が中国国民党候補の朱立倫主席、親民党候補の宋楚瑜主席に圧勝し、8年ぶりに政権を奪還する見通しだ蔡氏は台湾初の女性総統となる中国共産党政権は民進党を「台湾独立派」と見なしてきたが、台湾統一を夢みる中国のトップ、習近平氏は少なくとも2020年5月まで「民進党政権」と向き合わなければならない

 蔡英文氏は2015年4月に民進党公認候補となって以降、対中関係については「現状維持」を強調中国共産党が主張する「1つの中国原則」については曖昧な立場を採ってきた。しかし、12月25日のテレビ政見放送では、「1つの中国」を巡って1992年に中台間(共産党政権と国民党政権の間)で口頭合意されたという「九二コンセンサス(九二共識)」に対して譲歩を示し、「民進党は1992年の両岸(中台)会談の歴史的事実を否定せず、当時の協議・意思疎通の経過と事実も受け入れる」との見解を発表した

また、2015年11月にシンガポールで実現した習近平氏と馬英九氏による中台首脳会談を受けて、蔡氏は総統に当選した場合、習近平氏との会談の可能性を排除しない、との考えを明らかにしている

 11月の中台首脳会談は、習近平氏側の「譲歩」によって実現したものでシンガポールという中台以外の「第3地点」を選び、大陸と台湾それぞれの「指導者」として、互いに「肩書き」なしの「先生(ミスター)」と呼び合う、というルールの下で対面した台湾側は中台が別々の政権によって統治されていることを習近平氏が事実上認めたと解釈しており蔡英文氏もこの枠組みなら、中台首脳会談は可能、と判断しているようだ

 来るべき民進党政権が打ち出す具体的な対中政策の中身と中国側の反応にもよるが、「習近平・蔡英文会談」の実現が最大の政治テーマの1つとなることは間違いない

民進党内にある「台湾独立志向」に対しては、中国だけでなく、台湾にとって最大の後ろ盾である米国も「米国の国益に関わる」として神経をとがらせてきた台湾の自由と民主主義は擁護する一方で、米国は「安定した中台関係が米国の国益に合致する」と考えているためだ

こうした国際環境を背景に、蔡氏は中国や米国の神経を逆なでする言動は封印し、台湾住民に対しては「台湾の権益擁護」を前面に打ち出す戦術を採ってきた急激な対中融和路線を進めてきた馬英九総統について蔡氏は対中接近が台湾住民に不利益と不安を与えてきた、と批判し民進党政権になれば、国民党の親中国路線を見直す考えを示している

2015年5~6月に訪米した蔡英文氏の「現状維持」の考え方に対して米国側は、概ね高い評価を与えた後見人である米国からのお墨付きは、台湾の有権者にも安心感を与えている

蔡氏が当選すれば、中国側は「1つの中国原則」や「台湾独立」に対する考え方を改めて問い質すため、矢を次々に放ってくるだろう蔡政権の対応によっては中国に進出した台湾企業への圧力や貿易・投資政策の見直し、各種官民交流の中断、最後は「武力統一」の選択肢もちらつかせる可能性がある。ただし、中国側も「大国」として、米国や日本など関係国の反応も見極めながら、慎重に、真綿で首を絞めるような方法で、台湾に圧力をかけるはずだ

これまでの選挙戦を振り返ると、蔡氏は各種世論調査で常に高い支持を集め、戦いを有利に進めてきた高支持率の背景には、馬英九政権に対する住民の不満と不信がある

2008年5月に登場した馬政権は、対中関係改善に力を入れ、中台間の直航便を拡大、大陸住民の個人観光旅行を解禁するなど官民交流を推進し共産党政権との「蜜月」を演じた

中国本土に大きな権益を持つ台湾経済界は歓迎したが庶民が手にした「分け前」は少なかった大陸からの資金流入で台湾の住宅価格は高騰、産業の空洞化で就業機会を奪われるなど不満が募り、増える大陸観光客の姿に「このままでは中国共産党に飲み込まれ、いずれ統一されてしまう」という不安と恐怖が広がっていた

馬政権が締結を急いだ「中国本土とのサービス貿易協定」に反発した学生らは立法院を占拠し、「太陽花(ヒマワリ)運動」として海外メディアも注目した

 2014年11月の統一地方選で、国民党は歴史的な惨敗を喫した

地方選の大敗は国民党の総統選候補者選びにも影響。朱立倫主席(新北市長)、王金平・立法院長、ご敦義・副総統といった有力者がいずれも出馬を固辞。民進党の蔡氏の独走を許すことになった

混乱の中で、国民党公認候補は一旦、対外的にはほぼ無名の洪秀柱氏に決まった。しかし、洪氏の度重なる「失言」によって勝算がほぼなくなり、危機感を抱いた国民党は2015年10月に急きょ臨時党大会を召集。洪氏を候補から引き摺り下ろし、代わりに朱立倫主席を立てるという「失態」を演じた

 朱主席は2014年12月に新北市長(2期目)に就任したばかり。総統選出馬の可能性を記者たちに質問されるたびに、いつも「市長の任期(4年)をきちんと全うする」と否定していた朱氏は国民党のエースと目されていたが総統選出馬に絡むこの「前言撤回」は、多くの有権者の「笑い種(ぐさ)」となり、国民党のイメージを大きく損ねてしまった

 国民党は中国との緊密な関係」とそれによる「中国経済カード」で住民の支持を集めようとしたが、「利益を得たのは大企業ばかり」と逆に多くの反発を招いてしまった国民党を後押ししたい習近平政権は「民進党の総統になれば、中台関係は不安定になる」と危機感と不安を煽ったが、これも裏目に出て共産党が国民党を操って台湾を飲み込もうとしている、と受け取られてしまった

親中国路線」という政治カードは当初、馬英九政権の「武器」だったが、すでに多くの台湾住民にとって国民党は「共産党の代理人」という印象が強くなっている

 国民党は若手の人材が不足していることから、このままでは影響力を失っていくかもしれない

一方、蔡英文氏のアキレス腱は民進党内の台湾独立派」だ「現状維持路線」が台湾の内外から支持を集めていることを頼りに台湾独立派の動きを制し、民進党のカラーを改めることができるかどうか、が重要となる

台湾の作家、龍應台氏(前文化部長)によると、台湾は1987年の戒厳令解除・民主化後、自由と民主の価値観が浸透している西洋型の民主主義が完全に否定されている中国大陸とは別の社会が築かれ、すでに住民には「現状を維持する」というコンセンサスができている

今議論されている「中台統一」は台湾にある自由と民主主義を中国本土に持ち込む形での統一ではなく、中国共産党による「一国二制度」による統一を意味する一国二制度は1997年の香港返還に適用された仕組みだが、中国共産党が香港に対して2047年まで約束した「高度な自治」がすでに揺らいでいる

龍應台氏によると、台湾内にある「統一」あるいは「独立」の掛け声は、すでに政治的スローガンとして唱えられているにすぎない台湾内に中国共産党による統一を望むような「統一派」は事実上存在せず「独立」を宣言しなくても、「現状維持」を表明するだけで、実質的な「独立」状態が守られるからだ

馬英九総統が掲げるスローガンも「統一を推進しない。独立を宣言しない。中台戦争はしない」(不統、不独、不武)というものであり現状維持そのもの

 蔡英文氏も「独立宣言」をするつもりはない

極端にいえば、もし中国共産党が中国本土の政治的な民主化を実現する前に「中台統一」を推進しようとするなら、話し合いによる「平和統一」はかなり難しい台湾住民に自由と民主を捨てる考えはないためで、中国共産党に残された選択肢は、「武力統一」をちらつかせて、台湾を追い込む強引な「併合」でしかありえない

蔡氏は民進党内にくすぶる「台湾独立」の声を抑え込むことができるかどうか。それができれば、中国共産党に隙を見せることなく、台湾政治における「統一」「独立」論争にも実質的に終止符を打てる可能性がある政治的に安定した台湾社会の基礎を築くことができれば、蔡氏は、歴史に名を残せるかもしれない

 ただ、その前に、習近平政権が黙っていないかもしれない
参考 ニュースソクラ 2016.01.15

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