武器輸出→防衛産業が冷めている

● 豪次期潜水艦で共同開発 高まる期待にメーカーは…

なかなか信じていただけないが、防衛産業というのは本当に儲からないものなのです。祖業だから――この一点がなければとうの昔に切り離しています」(潜水艦建造実績のある防衛産業大手役員)

今年5月、政府はオーストラリアの新型潜水艦の協同開発に向けた技術供与を行う方針を固めた。海上自衛隊の最新鋭潜水艦「そうりゅう型」をベースとするものである

オーストラリアがかねてから日本に要請していた、共同開発国選定の手続きへの参加も、国家安全保障会議(NSC)で決まった。日本が選定されるのは「ほぼ確実な情勢」(防衛省関係者)であり、正式に決まれば、今年中にも日本は海外に向けて兵器の技術供与に踏み込むことになる

これは昨年4月の、武器輸出三原則撤廃と、それに代わり定められた防衛装備移転三原則に基づくものだ。武器輸出解禁により、諸外国がこぞって潜水艦の建造を発注すれば、請け負うメーカー、その関連企業、協力企業が潤う。さらにそれによって、軍事産業に携わる造船業や航空産業などを軸に、産業が興隆する──との期待の声も耳にする

だが、当の防衛産業各社の反応は、意外にも歓喜とは程遠い。とりわけ、日本でただ2社の潜水艦建造能力を持つ三菱重工業と川崎重工業、通称“三川”で、その傾向が顕著だ

冷めた態度はなぜなのか。大きく三つの理由がある。

● 買える国はそうそうない 技術供与では収益性はより低い

まず第一の理由は、冒頭の防衛産業関係者の言葉通り、“儲からない”ためである

そもそも潜水艦をはじめとして、護衛艦や戦車に戦闘機などを製造する防衛(軍事)産業は、必ずしも収益性の高いものではない

 科学技術の粋である軍事兵器は、研究開発費だけでもそのコストは莫大だ一方で買い手は国しかない

現在の防衛省の調達方式では、企業が兵器製造に掛かったコストを申告し、それに規定の利益を乗せて契約価格とする仕組みで、想定以上の利益が出た場合には返納せねばならない企業努力を重ねコストダウンを図れば図るほど、その収益性は低くならざるを得ない

今回オーストラリアに技術供与する「そうりゅう型」潜水艦1隻の価格は528億円(2010年度予算)。長時間の潜航を可能とする非大気依存推進(AIP)という新システムを搭載し、通常動力型潜水艦(原子力ではない潜水艦)では世界最高と言われる性能を実現しながら、前型である「おやしお型」の価格581億円(1993年度予算)より約50億円も安くなっている

半面、もし諸外国への輸出となれば、この価格以上の金額が設定されるのは当然であるが、500億円以上もする“商品”を購入できる国が、そうあるとも思えない

今回のオーストラリアの例は共同開発となる可能性が高く、こうした諸外国に向けた技術供与ビジネスが盛んになるとの声も聞こえる。確かにその可能性はある。しかし技術供与では「潜水艦1隻よりも収益性は低い」(潜水艦建造実績のある防衛大手役員)ことは自明の理だ

● 人も設備も足りない 技術者の維持には多大なコスト

第二の理由は、キャパシティの不足だ。

 潜水艦建造では、専門の技術者が要る特に潜水艦における電装や溶接に携わる者は、ごく少数の極めて特殊な技術者で簡単に育つものではないさらに防衛省による技術者の認証資格の問題もあるこれは3ヵ月間、潜水艦建造に携わらなければ資格が取り消され、また最初から講習を受講させなければならないというものである

こうした特殊技術者を活かす目的もあって、企業側にとっては収益性の低い潜水艦分野を存続させているのだが、認証資格をはじめ制約も多く、発注の数も限られる半ば“お義理”で防衛産業に関わっているというのが、各社の現実である

現在、日本の潜水艦は、起工から進水まで約2年かけ、三菱、川崎交互で毎年1隻竣工させている。もし仮に諸外国から潜水艦建造の発注が来たとしても、その建造能力の限界を超えてしまう。これを請けるだけの設備もなければ、技術者もいないのである。昨年4月の武器輸出解禁を受けて、潜水艦建造ドックを新たに増やす、あるいは特殊技術者を数多く養成するといった予定は、現状では三川どちらにもない。

● ニーズ激減、中古の流通 縮小し続ける兵器市場

第三に、これは潜水艦に限った話ではないが、軍事産業の市場そのものの縮小である。

そもそも各国の軍事費は、先進諸国でもGDPの数%に満たない。しかも、あまり知られていないがその中でも人件費が過半を占める。“正面”と呼ばれる兵器本体に割かれる額は、せいぜい3分の1から半分といったところだ。日本でも、2014年の防衛費約4.8兆円のうち、兵器購入に関わる防衛装備品は約1兆円にすぎない(※1)
。 世界の証券業界の市場規模は175兆米ドル(※2)
、医薬品市場は約9800億米ドルである。一概に比較はできないが、4020億米ドルという軍事産業が、いかに小さな市場であるかが分かる。日本で言えば、製造業全体の1%に満たない。 そして、その市場規模は縮小の一途を辿っている

東西冷戦以降、その縮小ぶりは著しい。ニーズそのものが減り、さらに東西問わず各国の良質な中古兵器が出回り新しい装備への支出が減っているためである

防衛省関係者によると、「冷戦末期、世界全体の兵器への支出総額は約3000億米ドル規模と言われていた。それが2000年代に入ると約1500億米ドルにまで落ち込み、その後も年々減り続けている」という

その傾向は今も続いている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所が発表した「2013年世界武器取引規模上位100社」によれば、ランキング100社の武器取引額は4020億米ドル、2012年度比で2%の減少だ。この数字には兵器に付随する電子機器や技術供与ビジネスでの収益も含まれており、潜水艦や護衛艦といった兵器本体に限るともっとその額は低くなるはずだ。ちなみにこの上位100社のうち、日本からは三菱重工業(27位)、三菱電機(68位)、川崎重工業(75位)、NEC(93位)の4社が、防衛関連企業としてランキング入りしている。

こうした状況を見れば、斜陽産業といった観すらある

● 「技術供与は負のスパイラル」 “お国のため”に困惑する防衛関連企業

軍事産業といえば、ともすれば巨額の資金が動く“ぼろ儲けビジネス”と思われがちだが、その実情はかくの如きものなのだ。ビジネスとして考えると、とうてい発展性があるとは言い難い

にもかかわらず、各社はなぜ防衛産業に関わるのか。

一つには、収益性は低くとも安定した収益源であることには間違いないからだ。国が相手で取りはぐれのない、“公共事業”とも言える

しかし潜水艦に限って見ると、“三川”の2社にとっては、その研究や特殊技術者の雇用・教育コストが莫大で、必ずしも元を取れているわけではない。それでもこれに携わるのは、冒頭の関係者の言葉にあったように「祖業だから」という一点に尽きる。

こうした状況を知ってか知らずか、防衛省・自衛隊の調達部門の担当者たちは、国内大手が防衛産業に携わるのは、ひとえに「お国のためという意識だと心得ている」と口を揃える

「オーストラリアへの技術供与は、民間造船会社による防衛参加と言ってもいい。日本が技術協力する各国は日・米・英を主軸とする安全保障の傘下にある。それを諸外国に示すことは、対峙する各国への牽制の効果も大きい」(調達畑の元海将補)

だが、防衛産業大手の役員らは、防衛省・自衛隊幹部らが言う「お国のためという意識」に困惑の様子を隠さない。

防衛省・自衛隊関係者のなかには、「技術供与ビジネスが盛んになれば、収益性が低い防衛関連の仕事も各社は積極的に請けてくれるだろう」(前出の元海将補)との見方もあるが、防衛産業側はこれが、自らの首を絞めることになりかねないと懸念する

潜水艦に限らず、技術供与の形で諸外国に日本の技術を供与するのなら、そのうち諸外国経由で国内外の軍事産業各社にもこれら技術が流出する可能性もある。その結果、もし世界のどこででも、安価で高い技術の兵器の作成が可能となれば、防衛産業はますます収益性が低くなる。負のスパイラルだ」(防衛産業大手役員)

防衛省・自衛隊の思惑と防衛産業とのそれには大きな隔たりがあるようだ。安全保障という目的を達成する上でも、「産業」「ビジネス」としての現実を、もっと考える必要があるのではないか。

参考 ダイヤモンド・オンライン 2015.06.22

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