欧州のバイソン→再野生化へ

オランダで4頭を野生復帰、現代に調和した新しい「野生」目指す

 2016年3月初め、ヨーロッパ最大の陸上動物であるヨーロッパバイソン(Bison bonasus)4頭が、オランダ南東部の北ブラバント州の国有森林地帯に放されたこの4頭を含め、オランダ政府は計11頭を放す計画だいちども人に飼われたことのない完全に野生のヨーロッパバイソンは1919年に絶滅したが、動物園から野生に戻された個体が今では一部の国で数千頭まで増え、森林や平原で草を食んでいる

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オランダ政府は、細心の注意を払って繁殖させた、えり抜きのオス3頭とメス8頭の子孫が増えることを期待している

この4頭のバイソンたちは約1500ヘクタールの柵で囲まれた区域で暮らし、いずれヨーロッパの他の地域で再野生化した群れと繁殖する相手になるでしょう、とオランダに拠点を置くNPO、リワイルディングヨーロッパ代表のフランス・スケパース氏は言う。動物園で飼われているヨーロッパバイソンの繁殖活動を監督しているNPOだ。

バイソンの野生復帰はオランダでは2度目だ。1度目は2007年で、場所は北ホラント州のクラーンスブラック自然保護区だった。

さまざまな動物の再野生化を目指す取り組みにおいて、ヨーロッパバイソンが選ばれた理由は、ヨーロッパの森林や平原の生態系を確立するのに大きな役割を果たすから、とスケパース氏は指摘する

再野生化というのは、動物を元の場所に戻すだけではありません」と、スケパース氏。「自然本来のプロセスを最大限に働かせることでもあります

生態系のなかで重要な位置を占める生きもの

 草を食べたり受粉させたりするのは、ヨーロッパバイソンの大事な役割だ。草はやがてシカなどさまざまな動物のエサになる。また、バイソン自体はオオカミをはじめとする捕食者の大事なエサにもなり、死んでからはハゲワシの食料源になる。このように、生物間の相互作用のなかで重要な位置を占める種を「中枢種」という

だからこそ、リワイルディングヨーロッパなどの活動団体は、数年をかけてバイソンがいない各地に少しずつヨーロッパバイソンを放してきた。ヨーロッパに生息するヨーロッパバイソン約5000頭のうち、約3500頭が現在、野生もしくは半野生の状態にある。そのうち、個体数がいちばん多いのはポーランドとルーマニアで、科学者たちはこれらの個体が他の地域への足掛かりになると期待している

ほかに再野生化がもくろまれている中枢種には湿地を作るビーバーや、森林や平原を作るアカシカとウマ、現在の家畜のウシの祖先で野生では絶滅したオーロックスがいる

スケパース氏にとって、再野生化は過去の復活ではない。「ポイントは未来を志向しているかどうかです。人はすでに自然を変えてしまっています。ですから、私たちが探しているのは、地域にかつて生息していた生きもののなかで、現在の環境において新しい自然をつくれる中枢種です

オーロックスを復活させるため、科学者たちは家畜牛の交配の歴史をひもといた。オーロックスが絶滅したのは1600年代半ばだったので、正確なスケッチと、体の一部、すなわちDNAも残っている。遺伝的にオーロックスに近いウシを使って、祖先に似るように交配させることで、科学者たちは「原種に見える」オーロックスの再現を目指している、とスケパース氏は言う

政府の保護を受けつつ、観光業や産業(オーロックスの革製品などだろうか?)で雇用をつくり出し、プロジェクトに還元してゆけば、オーロックス復活プロジェクトは持続可能になりうると氏は期待を寄せている

野生の自然を身近なものに

 とはいえ、課題は残る。再野生化されるさまざまな動物は、いちど激減してしまったせいで、遺伝的な多様性が極端に低い。多様性を最大限に高めるべく、科学者は細心の注意を払ってペアリングし、管理もしているが、病気に罹りやすかったり、近親交配の弊害が生じたりする恐れがある

また、オオカミやクマなどの捕食者が少しずつヨーロッパで戻ってくると、人間との事故も増えるだろう。同時に、田舎から都市部に移動する人たちが増加しており、再野生化の準備が整っている地方で土地利用が進むことになる。すると、まさに米国イエローストーンで起こっているような摩擦も起きる。近郊の住民はさほど反対はしないが、国立公園の近くに牧場をもつ牧場主たちが、自分の牧場にオオカミやバイソンがまよい込むと再野生化に対して時々反対の声を上げている。

バイソンなどの動物たちを再野生化するゴールは、「現代のヨーロッパにおいて、野生の自然があるということをごく当たり前にする」ことだ、とスケパース氏は語る。

今のところ、手つかずの自然はヨーロッパの土地のわずか1パーセントほどであり、リワイルディングヨーロッパをはじめとする活動団体の前途は多難だ。だが、幸い彼らは原生の自然の復活を目指しているわけではない。かつて人間が荒廃させたときと比べれば、少しでも自然な姿に近づくのはよりよいことに違いない。

文=Brian Clark Howard/訳=倉田真木

ナショナル ジオグラフィック日本版2016.03.28

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