格安デリヘルに流ついた25歳女性の現実

リーマンショックで打撃を受けたのはビジネスマンだけではない。性風俗のデフレ化が進み、ほとんどの風俗店は価格競争に巻き込まれて単価を下げながら、さらに集客を減らしている需要と供給のバランスが崩れ、約半分の女性は風俗嬢になりたくても店側に断られている現状だ
東洋経済オンラインでは、風俗業界やアダルトビデオ業界で働く女性を取材し続けてきた中村淳彦氏のルポを「貧困女性の現場」として連載していく。そのスタートに先がけた第2弾として、4月27日発刊の中村氏の著書『図解 日本の性風俗』から、格安デリヘルに流れ着いた20代女性が直面した貧困の実態をお伝えする。■ 「風俗嬢は超高収入」は過去の幻想

1980年代、1990年代の性風俗の全盛期を知る中高年の男性を中心に、この数年間の風俗業界の深刻な不況と、風俗嬢の収入の下落を理解していない方が多いですたとえば「風俗嬢は超高収入で、ラクして稼いでいる。消費と遊びが大好きな女ども」みたいな意識は、過去の栄光に基づいた時代錯誤な認識です

風俗業界に大打撃を与えたリーマンショック以降、その傾向は特に顕著となって、現在風俗嬢の大半は中小企業のサラリーマンと同程度か、それ以下の賃金でカラダを売っています。カラダを売って中小企業のサラリーマン以下の賃金とは夢も希望もないですが、本当のことです。

風俗嬢たちがそのような厳しい状況なので当然、経営者たちも儲かっていません風俗嬢への誤解と同じく、たまに「風俗経営者は女性たちから搾取して暴利を貪っている!」みたいな批難をする人がいますが、大きな間違いです。この10年間ほど、風俗業界から景気のいい話はまったく聞こえてきません。

そのような現状でも、風俗嬢と聞いて多くの人がイメージするのは、派手な化粧して複数のブランド物で派手に着飾り、ホスト遊びするみたいな華やかな若い女性でしょうか。そのような風俗嬢は、当然減っています。

歌舞伎町などの繁華街の活気が失われた原因のひとつは、堅実になった風俗嬢たちがお金を使わなくなったからです。理由は単純で、風俗嬢の可処分所得が減ったからです性風俗の単価が下がり、さらに男性客数は減ってしまいましたこの数年の性風俗店は志願者の半数を断っている状態です。もう、人並みの女性では裸になっても稼げないのです

では実際に性風俗から弾かれた女性たちが、いかに厳しい状況になっているかを見てみましょう。

薬物関係の施設に3年半いた。私がやっちゃったのはシャブ。クスリを抜いて立ち直る施設ですね。そこを出たのが半年くらい前、それからずっとここに住んでいるよ

あきれ顔でそう語るのは、都内の格安デリヘル嬢である西村麗美さん(仮名25歳)。きれいな顔立ちで25歳と年齢は若いが、体型に難があり、かなり太っていました。西村さんには助けてくれる家族も知り合いもいなく、デリヘルの待機所に半年間以上も住んでいる状態でした。所持金は常に3000円~2万円程度で「貯金して部屋を借りるなんて無理、夢みたいな話」と溜息をつきます

■ 2000円渡されて「じゃあ、さようなら」

薬物関係の施設はタバコも吸えないし、酒も飲めないし、嫌になって自分から出たいって出所した。施設の人に車で新宿まで送ってもらって、2000円だけ持たされて『じゃあ、さようなら』みたいな。自主退所者はとりあえず県外に出すって決まりがあるみたいで、私の場合は新宿のバスターミナルに置いて行かれた。それから行政が運営する女性用のシェルターに2週間くらいお世話になって、担当者に『お金もないし、家族もいない』って言ったら施設に戻れって言われた

規則だらけの施設に戻るのは絶対に嫌だったので、仕方ないので風俗の仕事を探した。昔はすごく痩せていたけど、太っちゃったでしょ。風俗はいろいろ面接に行ったけど、何軒も断られて、やっと見つかったのがココ。家がないのは、マジでツライ。絨毯の上で眠るから、カラダが疲れる。疲れが全然とれない。布団が薄いのしかないから床が硬くて、腰が痛い。布団は欲しいけど、買うお金もないし。このままでは不味いと思うけど、疲れてカラダがダルいし、あまりやる気が起こらなくて、ダラダラと風俗しながらここにいる」

ホームレスで現金2000円しかなかったら、生存するためにはすぐ日銭を稼げる仕事に就くしかありません。毎月月収が支払われる一般的な仕事では明日、明後日が乗り切れないので、必然的に風俗に流れることになります。デリヘルは積極的にホームレスの女性を囲っているわけではなく、お金も家もない風俗嬢に対して、仕方なく待機所に宿泊することを許可していました店側は行政や警察に事情を話して「宿泊させることは仕方ない」と、口頭で許可をもらっているようでした

店側は待機所を提供するだけであり、布団もなければ食事もありません男性客をとって自分で稼ぎ、自分で買わなければなりません。待機所で生活をする西村さんは、とりあえず毎朝デリヘルには出勤します

朝起きて10時には事務所に顔を出し、待機所で男性客を待ちます指名やフリー客が入れば、徒歩圏にある指定された近くのラブホテルへ行ってサービスを提供します。待機所に誰もいなくなって、自分の時間が持てるのは深夜23時ごろです。気が休まる時間はありません。

 西村さんは埼玉県出身。子供の頃に両親から虐待を受けて、中学生になってグレました。物心がついた頃から、父親に毎日ように殴られていたようです。14歳でシンナーに手を染めて、15歳で覚醒剤を覚えて薬物中毒になってしまいました。21歳のとき、見かねた親に通報されて矯正施設に入所します。現在、両親には勘当されています。

10代の頃はスレンダーでモデルのような風貌でしたが、覚醒剤を止めて施設で暮らすうちに30キロ以上も太ってしまったようです体型は風俗嬢の生命線です。いくら風俗店をまわっても断られて、現在勤務している激安店でようやく採用されました

■ 毎日カラダを売って月収15万円

「10代のときにキャバクラで働いていた頃、月80万円くらい稼いでいた。あの頃は簡単に稼げたから、すぐに使っちゃた。クスリにもお金がかかったしね。今は太ったから、どうにもならない。稼ぎは、毎日働いても月15万円くらい。貯金なんてしようがない、食べ物を買ったらなくなっちゃうから

 西村さんが働く格安デリヘルは、60分7000円という価格でした。1人お客がついて4000円にしかなりません。朝から深夜まで待機所にいても、1日つくお客は1人か2人。日給は4000円か8000円しかありません。西村さんは3食コンビニ弁当を食べて、タバコも吸う。膨大な待機時間があり、タバコは1日2箱をあけてしまう。現在の収入では、この生活から抜け出すのは現実的に不可能といえます。

「太っているので、激安店以外は無理。どこの店に行っても収入は変わらないかな。普通の仕事に就こうにも、そんな経験ないから、どうすればいいのかわからないし。こんな収入では部屋を借りるために必要なお金なんて貯まりようがないでしょ。マジ、絶望的だよね。覚醒剤はやめられても、なにもない。これからの人生どうしていいかわからない」

格安デリヘルは容姿も学歴もキャリアも、なにも持たない女性の最後の砦となっています。昔から西村さんのような「なにも持たない」女性はたくさんいました。1990年代の店舗型の時代は、風俗で働く覚悟をして店舗に住み込めば、フリー客などがついて月収30万~50万円にはなっていました。2カ月間も住み込みで風俗嬢をすれば、お金は貯まり、部屋を借りて新しい再出発ができたのです

しかし、現在は風俗店に住み込みで働いても、今日明日は生きていくことができるだけ。なんの解決にもなりません。性風俗のデフレ化は、風俗嬢を直撃しているのです。

■ 国や社会が「保護」するべきは誰なのか

日本には売春女性を「保護」するための売春防止法があります1957年制定と戦後の混乱期に作られた古い法律が、改正をされずにそのまま残っています。現状を考えると「保護」することは現実的ではありません

 現在、国や社会が「保護」するべきは、性風俗で働いたり売春する女性ではなく、最終手段であるカラダを売っても最低限の生活も叶わない女性たちと言えるでしょう対象は性風俗に志願をしても半数が門前払いとなっている女性や、デフレ化で価格が徹底的に安くなった格安店でも男性客がつかない女性たちです

そのような女性は未婚で家族もなく、友達もなく、知識もなく、生活保護制度を知らなかったりします福祉関係者や行政は性風俗から目を背けるのではなく、そのような性風俗や売春から弾かれた女性たちに目を向けることが急務でしょう

中村 淳彦

東洋経済オンライン2016.05.27

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