東京五輪→宴の終わりを告げる最後の祭り

1964年の東京五輪は首都、そして日本の黄金時代の幕開けだった2020年に迎える2度目の五輪は逆に衰退を告げる序曲になるかもしれない

都の人口はちょうど20年ごろまで横ばいを維持するもののその後1343万人あたりから減少に転じるというのが都の推計だ。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、東京五輪は「最後のお祭り」と話す

東京は5年後に迫った五輪に向けて変貌を遂げようとしている。前回五輪の開会式が行われた旧国立競技場はすでに壊され新競技場が建つ。地下鉄、道路などインフラと併せ、高層ビルやマンションの建設も進む。みずほ総合研究所の試算によると、首都圏の交通インフラ整備事業費は約2.7兆円にのぼり、五輪関連で20万9000人の雇用が誘発されるという

しかし、五輪後の未来が明るいとは言い切れない。国連の世界大都市ランキングによると、14年からの30年までに人口減が見込まれるのは、東京などいずれも日本の4都市のみ東京と横浜などを含む首都圏の人口は1.7%減って3719万人になる

東京の人口は昨年、2位のインドのデリーを50%上回る世界一だったが、30年までにはその差は大幅に縮まり、デリーと肩を並べる程度になる見通しだ

聖火ランナー

北区在住の佐藤民子さん(93)の夫は、半世紀前の五輪で聖火ランナーを務めた。東京は世界のスポットライトを浴び、その誇りや幸福感が今も胸に刻まれている。夫が他界した後も聖火ランナーのユニフォームは大切に仕舞ってある

その佐藤さんが肌で感じるのが新旧五輪の違いだ。例えば、新国立競技場の建設費用をめぐる国と都の対立。佐藤さんは「どうかと思う。一生懸命やっている人には悪いけど。お金ないんでしょ。それなのにいろいろ作ろうとして」と話す

首都圏の国内総生産は日本全体の38%を占めるものの、都の少子化は深刻で、衰退する地方からの流入が人口を支えている。それでも、五輪に向け工事は着々と進む。昨年は港区にオフィス、住宅などを備えた超高層の虎ノ門ヒルズが完成。足元には五輪主要会場と選手村を結ぶ道路が整備され、高級カフェなどが並ぶパリのシャンゼリゼ通りのように変貌する期待が膨らむ

この通りを「オリンピックロード」と呼ぶ青木雅文さん(84)は沿道のマンションの12階に住む。生まれも育ちも新橋だ。かつては銭湯や家具店など並ぶ典型的な下町だった。開発が進むにつれて高層ビルが増え地価が上がり、昔からの住民が減り若者には手が出ない街になった

時代の流れ

青木さんは「新しい道路ができた、大きな犠牲の上に。その道路によってもっと人が住める街になるかと思ったけど、そうじゃないんだよね。さびしいですよ。でもこれも時代の流れ」と語った。青木さんのマンションの裏手は風情を残す新橋の一角。夕方になると焼き鳥の匂いが誘う。

その界隈で居酒屋を37年間営んできた北之園雅章さんは、「オリンピックでやめようと思っている。もう70になるんで、立ち仕事がつらくなる」と話す。後継者も不在で、「もう自分の代でやめようと思う。やっぱり大変で食べていくだけだから」と、おでんの出汁を具にかけながら言った

空き家問題

都内ではすでに人口減が目前に迫っているところもある。北区は人口の25%以上が65歳以上で、23区内で最も急速に高齢化が進んでいる。中国マネーによる不動産の爆買いの恩恵もあまり及ばず、空き家問題が顕在化している

ある二階屋の前には配管用ダクトと空のゴルフバッグが放置されていた。汚れた白壁には亀裂が見える。玄関や窓に「無断入室禁止。危険です。絶対に入らないでください」との警告が貼られていた。

隣に住む山口広明さん(51)は「迷惑というよりある意味運命共同体ですよね。これが倒れてきたらうちも倒れちゃうかもしれないです」。「更地にしてもらおうにも、どこにいっていいか分からない」と語った

年金生活者

北区まちづくり部の長部洋一建築課長によると、この家は1962年築。空き家になって10年以上経過し、所有者は死亡、その娘は年金生活者で補修する余裕はないようだという。

同区赤羽で不動産業を17年間営む山田正明さんは、都心の建設ブームや海外からの不動産投資の余波もあり、人口減の影響はまだ感じていないという。しかしアベノミクスの恩恵がいつまで持つは分からず、「浮かれていられないと思っている」と話す。「本当に景気がいいのかと思う」とも漏らした

山田さんは前回五輪の時には5歳で、聖火ランナーを沿道で日の丸の旗を振って応援したことがある。当時は経済成長で生活が目に見える形で変わったと振り返る。白黒テレビがカラーテレビに代わり、扇風機がエアコンに取って代わった

それが今回は違う。「オリンピックの景気の良さはあまり感じてない。都心だけだという感じはする」と山田さんは語った

昼間のカラオケ

山田さんの事務所から通りを隔てたスナックからは平日の昼間からカラオケの歌声が漏れてくる。照明を落とした店内では、年配の女性2人が交代で歌謡曲を歌っていた。

スナックを夫と共同経営する岡崎節子さん(74)は「経営者が高齢だとお客さんも高齢者が多い」と笑う。「若い人が来ると違和感がある。曲も違うのでどこで拍手をしていいか分からない」と言った夜の客が減ったため、日中カラオケで収入を補っているのだという。1人1000円で午前11時30分から午後5時まで歌い放題だ

昨年、「地方消滅」(中公新書)を出版、人口減少で896の地方自治体が消滅する可能性があると警告を発した増田寛也・元総務相は、人口の上で東京が「ナンバー1でいることが難しくなってきている」とインタビューで語った

政府は地方創生の名の下、東京への一極集中を止め衰退する地方を活性化して人口減少に歯止めをかけようとしている都で女性が一生に産む子供の平均数を表す合計特殊出生率は1.13で全国最低。高齢化は今後さらに進む見通しだ。1965年は2.0だった。

みずほ証券の上野氏は、東京一極集中は「地方の落ち込みがきつくなるということにもなる」と指摘し、日本全体の底上げができない場合には「その先の成長の絵が描けない」と言う。

取り残される団地

夫が聖火ランナーだった佐藤さんは、北区の桐ヶ丘デイホームで本多せんさん(86)と知り合い友人になった。今は共に編み物を楽しむ。2人とも地域で高齢化が進んでいるのははっきり分かるという

1年間連れ添った夫を昨年亡くした本多さんは、週に1度バスで通っている。今は二階屋に独り暮らしだ。隣は空き家で「私のところも私がいなくなったら子供たちも来ないと思うし、多分空き家になる」と話した

桐ヶ丘デイホームの周りにはかつて若い家族や子供たちでにぎわった団地が多いが、今は当時の活気はない。アパートの1階にあるスーパーマーケットはシャッターが下り落書きだらけ。郵便ボックスの多くはガムテープでふさがれている

佐藤さんは、若い人は「結婚しないし子供はいないし、子供は見かけない」とつぶやいた

参考 Bloming Berg 2015.07.07

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