朝食しっかり、持ち物スッキリ

大家が1階。2階に2室の木造アパート。貸借人は共有玄関で靴を脱いで階段を上がり、共有廊下から個室へ入る。築約40年だが、大家が建築家とガーデンデザイナーの夫婦で、こまめにリフォームを加えており、ドアノブなど細部も凝っている。廊下の壁にはフランスの壁紙が貼られていた。

個室の扉を開けると3面の窓から明るい陽射しが入る。そこはすぐ台所になっていて、窓の向こうは線路だ洋服縫製のプロを目指し、今は縫製会社で技術を学んでいる住人は、この明るさに魅了されて入居した

台所は東向きなので朝とっても明るいんです。朝は5時に目覚ましなしで起きて5キロほどランニングしてから、30分かけてボリュームたっぷりの朝食を作ります

ワンプレートに野菜、チーズ、卵料理、フルーツを山盛り。おにぎりやハニートースト、サンドイッチと主菜も多彩だ。そのかわり、夕食はほとんど食べない。お腹が空いたらチーズや枝豆を軽くつまむ程度。ビールも飲むが、炭酸水のペリエを代用することも多い。

朝はしっかり。夜は食べると胃が重くて翌朝走れないので、少しお腹が空いたくらいの状態で寝ちゃいます」とのこと。

朝食に凝るようになったのは、5年前からだ。

職人として食べていこうと決めたのです。そのためには体や生活の軸をしっかりしておくことが大事だと。食生活をきちんと、とくに朝はしっかり食べるようになってからは毎日献立をノートに記録しています。何を食べたら体がどう変化するかを探求したくて」

翌年、ランニングを始めた。ますます食事に気を使うようになり、玄米に切り替えた。ところが、まとめて炊いた玄米を冷凍し、レンジで温め直すとぱさぱさしてまずい

「前の家も古くて15アンペアだったので、レンジを他の電源と同時に使うだけでブレーカーが落ちたんです。それで土鍋で炊くようになり、レンジは使わなくなりました」

それを機に電子レンジを処分した。ついでにオーブントースターやテレビも。

玄米やブレーカーという理由とともに、大きなきっかけがもう一つある。震災だ

「私は福島県いわき市出身で、祖母の家は津波で流され何もなくなりました。祖母は無事でしたが、ものを持つことの無意味さを痛烈に実感しました。私の東京のアパートの器もいくつも割れました。ものはいつか壊れます。だったらもうたくさん持つのはやめよう、少しずつ減らして、手狭な住まいでスッキリ暮らしたいなって

それらを手放した今、唯一、パンを捏ねて焼けなくなったのは淋しいが、お気に入りのパン屋で買い置きして、毎朝魚グリルで焼くのが楽しみになったグリルの魚臭さは重曹で洗うときれいに消えるらしい。それ以外に不便なことは何もない。

器も生活道具も、全部自分で管理できる量だけを持っている、というのがとても気持ちいいんです」

酒も飲むし、疲れたときは商店街でコロッケも買う。ムリせず、自分に厳しくしすぎず。

玄米菜食はイライラしないって言うけど、何を食べたってイライラするときはするんですよネ(笑)。お肉も食べたいときは食べないと

ぶれない価値観と、この柔軟性。両方持ち合わせている人は強い。そして人生で何を大事にすべきか、守るものがしっかり見えている人は暮らしのリズムが整いやすいのだと知った。<文・写真 大平一枝>

参考 朝日新聞デジタル 2016.01.03

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