日本メーカーのディゼル車戦略

本当にクリーンなの?という疑いを払拭できるか

 独フォルクスワーゲン(VW)による排ガス不正を受けて、ディーゼルエンジンへの見方が再び厳しくなりつつある。今回不正の対象となった窒素酸化物(NOX)や粒子状物質(PM)といった大気汚染物質を多く含むのは、ディーゼルならでは。汚染物質を抑えた「クリーンディーゼル」が本当にクリーンなのかという疑念が強まりつつある。一方でガソリンエンジンに比べ燃費がよく、大きなトルク(回転力)を発生する長所もある。ディーゼルエンジンに未来はあるのか

「東京モーターショーで、ディーゼルモデルを新しく展開する。VWのニュースを聞いて、こんなことが本当にあるのかと思った」。独BMW日本法人のペーター・クロンシュナーブル社長はこう話す。

30日から一般公開される「第44回東京モーターショー2015」。外資系各社にとっては、日本市場にクリーンディーゼルを根付かせる大きなきっかけになるはずだった。BMW以外にも、基幹部品のコモンレールにデンソー製を採用したスウェーデンのボルボ・カーズなど、クリーンディーゼルを目玉にする会社は多い

1999年、石原慎太郎都知事(当時)が記者会見ですすの入った瓶を振り、東京の大気汚染の原因がディーゼルエンジンにあると指摘。これを象徴的な出来事とし、日本では乗用車へのディーゼルエンジン搭載はほとんどなくなったエコカーの主役の座に着いたのは、トヨタ自動車の「プリウス」などハイブリッド車だった

そこを再び切り開いたのがマツダ。12年に発売した「CX―5」に搭載したディーゼルは、ピストンの圧縮比を低く抑えた独特の設計で均質な燃焼を実現高価なNOX後処理装置なしで欧州と日本の排ガス規制に対応させた

<トヨタ動く>

ガソリン車に比べ数十万円高い価格にもかかわらず、ディーゼル搭載比率はCX―5の国内販売の約8割を占めるなど、同社の目玉技術になっている。ただ、欧州と日本に比べNOXの規制値が厳しい米国市場では、いまのところディーゼルを投入できていない

フルラインアップメーカーのトヨタ自動車も動いた。「ランドクルーザープラド」に新開発のクリーンディーゼルを搭載し6月に発売「GD型」と呼ぶこのエンジンはもともと、トラックベースの新興国向け主力車「IMVシリーズ」への搭載を主眼に開発したもの砂漠や高地といった過酷な環境下でも動く車としてIMVへの人気は新興国で根強く、そこでディーゼルは欠かせない存在だ

もともとディーゼルは大きなトルクや大型化しやすいことからトラックや船舶向けでは主力の座を占める。排ガス浄化の技術開発を怠らなければ、世の中になくてはならないエンジンだといえる。

また、マツダが開発中の次世代ガソリンエンジンはガソリンをディーゼルのように自己着火させる新しい燃焼方式を導入する未来の低燃費エンジンは、いわばディーゼルとガソリンが融合した存在になるとみられ、ここでもディーゼルの持つ技術的な重要性は大きい。VWの不正で損なわれかけているディーゼルへの信頼。復権を果たすためにも、日本の技術者の奮起が期待される。

外部調達か自社開発か

 ただ各社とも主力とする地域や商品群は千差万別。ディーゼル車そのものの信頼性や検査のあり方が揺らぐ中で、各国ディーゼル市場や規制当局の動向が各社の戦略に影響しそうだ

ハイブリッド車(HV)に注力してきたトヨタ自動車はディーゼルエンジンが弱みとされてきたが、今年おもに新興国向けの戦略車「IMV」に搭載する新型ディーゼルエンジンを発表冷却損失を低減する新たな燃焼技術を取り入れ、極寒地や高地だけでなく欧州の規制「ユーロ6」に対応した。「世界中のどんなシーンでも安心して乗ってもらえるよう開発してきた。この姿勢はこれからも変わらない」と濱村芳彦ユニットセンターエンジン開発推進部主査は話す。

一方でディーゼル車が市場の半分を占める欧州では、独BMWからディーゼルエンジンの供給を受けてディーゼル車の品ぞろえを広げている。日産自動車は提携を駆使する。新興国向けピックアップトラックのエンジンは自社生産しているが、欧州では日産ブランドは仏ルノー、高級車ブランドは独ダイムラーからディーゼルエンジンの供給を受ける。欧州ではディーゼルエンジンを外部調達するという割り切った方針が奏功し、欧州市場でシェアが増加。日系トップのトヨタに肉薄する。

<マツダ、技術を牽引>

ディーゼルを強みとする欧米メーカーの肩を借りるのはスズキも同様。欧州に次ぐディーゼル市場規模でありスズキの主力市場でもあるインド。スズキは欧米フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)からライセンスを受けて自社生産したり、フィアットが生産したりしたディーゼルエンジンを採用している一方で今年から初の自社開発となる小排気量のディーゼルエンジンをインドで販売する乗用車に搭載。搭載車種を拡大してインド首位の座を堅持する構えだ。

自社開発と言えばマツダ独自に構築した新世代技術群「スカイアクティブ」のディーゼル技術は「欧州メーカーにもけを取らない」(競合幹部)との高評価で、急拡大する日本のディーゼル市場を牽引(けんいん)する。人見光夫常務執行役員は、同社が不正をしていないことを強調した上で、「マツダらしい走りと環境性能の両立を目指し、米国へのディーゼル車投入に向け開発を進めている」と話す。日欧より排ガス規制が厳しい米国ディーゼル市場に挑む考えだ

各社は自社の開発資源や競合との提携を巧みに活用し、ディーゼル戦略を描く。だが日米欧などの規制当局は不正問題を受け排ガス検査を厳しくする方針を示しており、メーカーのコスト負担がかさむ懸念がある。さらに、ディーゼル不信が市場に広がれば、環境技術を巡る提携関係に影響が出て、戦略の見直しを迫られる可能性もある。

進化支える日系部品メーカー

 欧州完成車メーカーを中心に技術開発が進んだディーゼル技術だが部品レベルでは日系サプライヤーも技術の進化に寄与してきたディーゼルエンジンを劇的に進化させた技術にコモンレールシステムがある高圧の燃料をレール(蓄圧室)内に蓄え、電子制御によりインジェクターからエンジンの各気筒に噴射するタイミング良く高精度に噴射することで、窒素酸化物(NOX)低減など環境性能を改善できる

デンソーは1995年に世界で初めてコモンレールシステムを実用化その後も技術革新を進めたその一つが噴射する燃料を微粒にするための高圧化だ。当初は最大120メガパスカルだったが、13年には250メガパスカルのシステムを開発従来の200メガパスカルに比べ燃費を最大3%以上低減NOXは同8%削減し、粒子状物質(PM)は半減した

高圧化とは別に、同社が開発を進めてきたのが「i―ART」コモンレールシステムをいわば「賢く」する技術で、各インジェクターに圧力センサーを内蔵し、噴射量やタイミングを高精度に制御する理想とする噴射との差異をフィードバックし、10万分の1秒単位で制御できる。12年に実用化し、乗用車向けではスウェーデンのボルボ・カーズの新型ディーゼルエンジンに初めて採用された

コモンレールシステムの燃料噴射管を生産しているのが臼井国際産業(静岡県清水町)。商用車を含む完成車メーカーからの評価が高く、世界シェア約5割を握る独自の塑性加工、熱処理、内面平滑化技術を駆使し、世界最高水準の耐圧性能を実現250メガパスカルを超えるシステムに対応した噴射管の開発も完了するなど業界をけん引する

日本ガイシは独フォルクスワーゲン(VW)を含む世界各社に、PM除去フィルター(DPF)や触媒担体、NOXセンサーなどを納入。ポーランドにDPFの第2工場を建設し、17年1月に稼働させる方針だ

自動車エンジン用すべり軸受大手の大同メタル工業は、欧州大手自動車メーカーを中心にディーゼル車向けの軸受を供給している

VWのディーゼル不正問題を受け、各社は販売影響など情報収集を急ぐ。日本ガイシはポーランドのDPF第2工場について「現時点で建設計画に変更はない」(広報室)とする。大同メタル工業は「取引先は幅広く、ディーゼル車の販売が振るわなくてもガソリン車が伸びて相殺する可能性がある」と必要以上に懸念はしていないものの、欧州の販売代理店を通じて情報収集を進める。

ディーゼル技術は日本の部品メーカーが大きな役割を担っている。仮にディーゼル不信が世界で広がれば、部品メーカーや部材を供給する日系の中小メーカーにも影響する可能性がある。VW不正問題の余波がどこまで及ぶのか、ディーゼル車の行方を注視しなければならない。

参考 ニュースイッチ 2015.10.08

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