日本らしさを売り込めば→無限に広がる

「二次需要」とは、爆買いが生み出す経済波及効果のことです。たとえば、ホテルは波及効果がとても大きい。最近、出張をする人は「ビジネスホテルが取れない」と嘆いています。私の周りでは、京都や大阪市内が取れなくなっていると聞きます。大阪の場合、今までなら新大阪まで行けば空きがあったのに、最近では埋まっている。京都なら、滋賀の大津あたりまで離れないと宿泊できないこともある。そして、なおかつ宿泊費も高い。

ホテルにとっては、単に宿泊客が増えて稼働率が上がるだけではなく、既存客の単価アップにつながります仮に外国人のお客さんのお蔭で宿泊客が2割増えたら、その2割分が儲かったというだけではなくて、そのために全体の稼働率が上がり、需要が逼迫すれば既存客の料金も値上げすることができます仮に既存客の料金を5割アップすることができたら、膨大な利益アップになります。もちろん、それをやることが良いかどうかは別の問題ですが。

コストのほうでお話ししたインフラ整備による設備投資は、当然GDPの押し上げになり、景気高揚につながりますし、一時的かもしれませんが不動産価格も上昇しています

また、前回「爆買いのコスト」で挙げた治安についても、今後セキュリティビジネスや損害保険が伸びることも容易に想像できます

 セコムなどのセキュリティシステムを契約しようとする人も出てくるでしょうし、商店なら万引きのための損害保険に入ったり、物を壊されたり、汚されたりしたときの保険に入ったりするなど、別の需要が生まれてくるわけです。直接的な需要ではないですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」という需要はあります。こうした二次需要の部分は、今後ますます増えていくでしょう

ホテルの例でわかるように、今までのビジネスに対してプラスの影響が大きい。それから、付帯需要として、たとえば連載第9回でお話しした南部鉄器や、和紙を使った伝統工芸品といったものは、価値が大きく見直されることでしょう日本人は「外国で流行っている」ということに、ことさら弱いですから

ちなみに、高級アイスクリームのハーゲンダッツは、オリジナルはどこか知っていますか?  名前だけ見るとドイツや北欧のイメージですが、実は生まれはニューヨークなんですアメリカ人もヨーロッパに対する憧れがあり、ヨーロッパ風の名前を付けたということです。そのように、日本の和紙や工芸品、民芸品、工業製品などにも、可能性があるのではないでしょうか

連載第9回でコストについてお話ししましたが、インフラ整備についても大変な需要があります。たとえば、京浜急行電鉄が2016年3月期決算予想で過去最高益を更新すると発表しましたこれは外国人観光客の間で、羽田から利用する電車では京浜急行が料金のみならず、乗り換えや時間も含めて最も便利だという話が広まっているからであるとも言われています。海外のLCCが日本でホテル展開するという話もありましたが、今後需要があるのではないでしょうか。

リーバイスがなぜ世界的なジーンズメーカーになったか、という有名な小咄があります。ゴールドラッシュのとき、一番儲けたのは砂金を取りに行った人ではなくて、リーバイスだった。川や岩で擦れても破れない立派な作業着をつくっていたので、砂金を掘り当てる人も掘り当てない人も全員リーバイスを購入したので、大企業になったということです。裏方のビジネスを独占できたとき、事業としては面白くなる

たとえば旅行代理店は、今は当然訪日客に力を入れています。そのため色々な言語を話せるガイドさんが必要ですが、旅行代理店が自社で抱えると大変です。だったら、どこの代理店でも使えるガイドを用意できると、旅行代理店ツアーの当たり外れにかかわらず、その会社はどの代理店にもガイドさんを提供できる。そういうやり方は二次需要では十分考えられます。少し知恵を絞って裏方に回ると、「そこは全部押さえています」というようなビジネスがあるのではないでしょうか。

それから、日本的な生活が海外の人から見ると「いいね」と思われる点がある。日本的な生活というのは、日本人からすれば当たり前ですが、海外の人からは“合理的”と見えています。たとえば食生活で、「日本食はヘルシーだ」とか。そうしたことが、今後色々出てくるのではないかと思います

● 公文はなぜ世界に広まったのか?  経済波及効果の先にあるもの

それでは、二次需要である経済波及効果のその先にある、「三次需要」についてもお話ししましょう。

これはあまり指摘している人がいないかもしれませんが、最初にお話しした、日本のビジネス習慣を見直したり、チャンスやモノを使ったりすることによって、今後日本のサービスやビジネスモデルにどう仕立てて、どのようにグローバル展開にしていくかということが、「爆買い」から考えられる1つの示唆になるのではないでしょうか

爆買いというのは、別に日本が何かに絶対的に優れているというよりは、「本物が買える」「品質がいい」「日本に憧れがある」「安心安全」「盗難に遭わない」など、複合的な理由です

一方で、「言葉が通じない」「標識がわからない」「よそ者を拒絶する」ということも言われています。そういう中で、日本オリジナルや日本の良さを持ったものを、どうしたら海外に行ってお金にできるのかということを、もっと考えるためのヒントを、「爆買い」が与えてくれているのではないでしょうか

 いくつか事例を挙げていきましょう。

公文教育研究会の学習塾(以下、公文)が世界中で成功しています公文は海外48ヵ国に進出し、今では日本より海外の生徒の方が多いほどです主婦が自宅で近所の子どもに勉強を教えるという変わったビジネスモデルが、なぜ外国でも流行ったのか

同社の社長に聞いたら、「世界中どこでも、わが子の成長を思わない母親はいない」というのです母親の子どもに対する愛情は、「自分の生活を少し犠牲にしても自分の子どもには良い教育をさせたい」というものその気持ちに公文は応えたいという。海外展開でも、その点を非常に重要視しているそうです

でも、それだけでうまくいくかはわからない。そこでローカルのスタッフでもマネジメントできるビジネスモデルで、教室の仕組みやどの生徒にどのレベルの教材を提供すれば良いかのステップの進め方といったコーチング、ティーチングのメソッドも日本と同じにしているから、非常にうまくいっている。もちろん日本語は読めないので、現地語にローカライズしています

ただ、たとえばインドでは「日本の九九では簡単すぎる」ということなので、数学はきめ細かい計算方法で教えている。全部を同じにしているわけではありません

● 「日本のよさ」を海外で生かせ 味千ラーメンが中国で成功した理由

 MUJI(無印良品)も海外で成功した一例です日本的なところを押し出し白が基調になっていることも、イタリアのように原色の文化の人々には支持されているし、アジアの人たちから見ても格好よく見えるのだとか

一方で、ユニクロは最初から規模を追っているので、ZARAやH&Mと全面戦争をしている。どちらがいいとか悪いではなくて、MUJIのような考え方で寿司屋をやっていくとか、日本食をやるとか、食品を売るとか、そういうことがあってもいいんじゃないでしょうか

こんな事例もあります。

味千ラーメンは、日本には80店くらいしかありませんが、中国には600店以上あります。現在の経営者に話を聞いたところ、創業者が台湾出身だったということで、一度台湾に逆上陸して見事に失敗したと聞きます。その後、捲土重来して香港資本と組み、中国で成功しました

 最初台湾に進出したときには、ラーメンにとって大事なスープと麺を現地に合わせて全部変えたそうですローカリゼーションを進めたわけです。ところがうまく行かなかった。次に中国大陸に行ったときは、自分たちの強みはスープの味とサービスの質にあると信じ、そこは変えないことにしたそうです。そして、後はパートナーに任せた

たとえば、「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった従業員のしつけにはこだわって、あとは現地流にさせたのだとか。そのように、スタンダード化するところとローカリゼーションするところをうまく使い分けたので、あそこまで伸びたのでしょう

また、キットカットの抹茶味は、ネスレ日本がつくりましたが、今では日本のみならず、アジア中で人気です。そういうものを見ていると、まだまだ様々な可能性があるのではないかと思えます。

そういう「三次需要」というのは、日本の良さを海外で生かしていくということで、そうしたことを考えるきっかけをくれているのが爆買いではないかと思います。そう考えると、爆買いというのは相当面白い

日本に駐在した外国人が、本国へ持って帰りたいもののアンケートをテレビで見たことがありますが、一番が「ウォシュレット」でした。お尻を清潔にすると気持ちがいい、快適だ、病気になりにくいという、日本人が思っている清潔感や衛生観念をどうビジネスにするか単に「便器から水が出る機械を売る」のではなく、日本の文化として持っていくということを考えると、広がりがあるでしょう。

 日本で買えば100%本物だから安心 「確実な製品」を中国で売ることの強み

ではもう1つ、もっと大きな需要、あるいは消えてしまいそうな需要についてお話しします。

なぜ、中国人が日本製品を買っていくのかというと、日本製品とかメイド・イン・ジャパンと書いてあるものは中国でも売っていますが、それが本物かどうかの保証がないためです日本に来れば100%本物だから買いに来るということです。では、中国で間違いなく本物の日本製品を売ったらどうなるか、と考えるのが三次需要です

日本に来ている中国人は年間500万人にも上りますが、海外に行く人全体では1億人います。といっても半分は香港かマカオですが、それにしても大変な数で日本に来る人の20倍にもなります。ましてや中国人の所得が上がり、今日本に来る人の100倍くらいの人が「日本製品を買いたい」という潜在需要があったとするなら、今の中国には100倍のマーケットがあることになる。だったら、「確実な日本製品」で、日本流の売り方、日本流の付帯サービスで中国で販売したら、爆買いの比ではない巨大マーケットが中国に生まれると考えるのが、次の発想ではないでしょうか

そうした戦略を考えるとき、ルイ・ヴィトンがなぜ売れるようになったのかがヒントになります。ルイ・ヴィトンが世界中でこれほど売れるようになったのは、日本のおかげだと言われています

 1970年代、日本にルイ・ヴィトンの直営店がなかったため、輸入業者が「フランスで流行っているバッグだ」と言うことで5万円のバッグを15万円から20万円で売っていました。よほどの金持ちやファッションにこだわりのある人だけが買っていたのですが、日本の航空自由化と共にジャンボジェットが就航し、多くの日本人がヨーロッパ旅行に行くようになりましたそうした旅行者の中で数多くの日本人女性がパリのルイ・ヴィトンに押しかけて店が大混乱になりましたパリでは「あれは金持ちの店」ということで、一般人は誰も行かなかったのに、日本人のOLや女子大生が大挙して来たものだから、ルイ・ヴィトンは迷惑がって入店規制をしたほどです

● ルイ・ヴィトンと日本人に見る教訓 「爆買い」はやはり奥が深い

ここでルイ・ヴィトンの経営者が偉かったのは、わざわざパリまで買いに来てくれるくらいだから「日本で直営店を出せば儲かるに違いない」と考えたことです。そして、ちゃんとした売り方をすれば売れると、日本でも日本橋高島屋の1階の一番いい場所などに出店し、価格もパリの価格の1.4倍で売ったことです

さらに、ハワイやグアム、香港では1.3倍程度で売ったパリで買うよりは高いけど、日本で買うよりちょっと安い見事なプライシング(価格政策)を行って、一切値引きしないビジネスモデルをつくり、それが大当たりして現在に至っている

実はこれら一連の戦略を立案し、実行したのが、当時日本ルイ・ヴィトンのトップだった秦郷次郎氏だったのです

このルイ・ヴィトンが日本でやったことを日本企業の中国戦略に置き換えると、日本のメーカーが中国人の琴線を捉えて、かつ日本クオリティで展開したら、相当うまくいく可能性があるのではないかということです。そう考えると、「爆買い」は結構奥が深いのではないか。

最終的にそうなるかはわかりませんが、中国で日本製品が買えるようになったら、わざわざ日本まで買いに来ることはなくなるでしょう。となると、爆買いの需要は消えてしまいますしかし、日本の文化を見に来る人は出てくるでしょうね

ことほどさように、爆買いの奥にはさらなるビジネスチャンスがあるのです。 (構成/西川留美)  内田和成

参考 ダイヤモンド オンライン  2016.01.22

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