日本の技術ベンチャーが面白くなってきた

グローバル企業は、日本をイノベーションの現場としてどう評価しているのか。例えばアップルが横浜・みなとみらいにアジア最大の研究開発拠点を設置するというニュースが昨年報じられた。こうした企業の動きは、評価の1つとなる。 本記事では、世界的なテクノロジー企業として知られるインテルの投資部門「インテルキャピタル」の活動について、最新動向をまとめた。世界最大の半導体メーカーが興味を示している分野とは何だろうか。そして投資対象としての日本の位置づけはどうなっているのだろうか。

■ インテル本体の戦略と直結する、注目の分野とは?

2014年11月にインテルキャピタルが開催したグローバルサミットで、インテルキャピタルでアジア太平洋地域のマネージングディレクターを務めるスディア・カッパム氏に話を聞いた。同氏はデータのエコシステムに注目して投資を行っていると話す。

「インテルキャピタルは基本的に、インテル本体の戦略と直結しています。そのため、注目している分野は、データセンター、ビッグデータ、ウェアラブルデバイス、セキュリティ、クラウド、そしてインテル自身の中心事業である半導体に対しての投資を行っています」

「その中でも、注目しているのはデータを創り出すデバイス、それを蓄積し安全に守る仕組み、分析する技術です。また、新しいデバイスにも着目していますが、IoT(モノのインターネット)のトレンドから考えると『家の中にあるものすべて』が対象になりつつあります」

 新しいデバイスでは、特にウェアラブルデバイスについて言及した。スマートフォンよりも小さなデバイスに対しては、そのものが持つデータのエコシステムの中での役割に加えて、工業デザインの視点でも注目に値すると語る。またIoTの可能性についても次のように指摘した。

「センサーが入っているデバイスでは、歩いたり、走ったりといった行動を検知でき、様々なアプリを作ることができます。またIoTは人とのコミュニケーションを低いコストで実現することができる可能性を秘めています。しかし人々の期待は、思ったほど高いわけではありません。何が起きるか、というイメージが不足していることも問題でしょう。またセキュリティ問題についても、関心が追いついていません。まずは省電力性と、高速でクラウドにつながるものから、市場が立ち上がっていくのではないでしょうか

インテルといえば、パソコン向けのプロセッサを思い浮かべる人がほとんどだろう。主力とも言えるコンピュータのトレンドについてもカッパム氏に聞いた。

現在注目しているのはディスプレイの画質の向上、ストレージ、そして省電力化です。とくに、2014年から2015年にかけてリリースしている新世代のIntel Coreプロセッサを搭載したコンピュータは、新しいスタイルと高画質化、省電力化をかなえるようになりました

インテルキャピタルのイベントでも、インテルの2-in?1スタイルのコンピュータのデモが行われていた。キーボードをアタッチしてノートパソコンとして使用し、取り外せばタブレット型コンピュータとしてより自由なスタイルでメディア消費が行える

■ ワイヤレスの映像技術も向上

また、ワイヤレスの映像技術も向上している。これまで、パソコンの画面を他のディスプレイやテレビに映し出す場合にはVGAやDisplay Port、HDMIといったケーブルで接続しなければならなかったが、インテルの最新プロセッサでサポートするワイヤレスディスプレイ技術を使うと、そばに置くだけで映画などのコンテンツをより大きな画面のディスプレイで楽しめるようになる

「現在、映像の世界では4Kが立ち上がりつつあります。また5K、8Kという世界も順に訪れます。加えて、表面の質感など新しい情報を伝えるディスプレイなども登場してくるでしょう」

こうした強力で豊かな体験と両立していくのが省電力化だ。2-in?1向けデバイスに搭載されるCore Mは、ファンがない設計を可能にした上で、4.5Wという通常時の電圧を実現している。同世代のプロセッサは15W以上のモデルも存在していることから、驚くほど低い電力での動作を実現しているのだ

バッテリーに対する処理能力が向上すれば、小さなバッテリーで長時間駆動ができ、本体の重さは軽くなる。それだけでなく、モバイル環境に置いても、より負荷がかかる処理をこなすパワフルな状態での駆動時間も延ばすことができる

特に映像体験にフォーカスしたとき、ノートパソコンや新しいスタイルのデバイスの、デザインの自由度も高まることになるだろう。しかしそのときに問題になるのがストレージ、すなわちデータを貯めておく技術だ。豊かな映像体験は大容量であることが常で、これをいかに持ち歩けるかが課題となる

カッパム氏は、「人々はより大きなデータストレージを持つことになる」という予測を語る。ラップトップ、タブレット、スマートフォンのそれぞれが巨大ストレージを持つ世界が訪れると話し、小さくて大容量を実現する技術にも興味を持っているという

「日本のスタートアップの質は高まった」。カッパム氏は、インテルキャピタルが注目しているその他のエリアとして、ドローン(無人飛行機)やロボット、自動運転などの分野を挙げた。これらの技術で注目している国こそ、日本だという

インテルキャピタルは2014年、自動運転技術のパッケージ化に取り組む先進企業、株式会社ZMPに対して出資を行っている。ここ数年、日本のスタートアップ企業の競争力が変わってきたと指摘する。その変化とはどんなものなのだろうか。

ZMP投資も担当したインテルキャピタルのマネージングディレクター、出川章理氏に詳しく聞いた。「例えば10年前の日本のスタートアップ企業は、ケータイやスマートフォン向けアプリ、ソーシャルメディア系などが多かったことが挙げられます。正直なところ、インテルとしての投資対象としては、魅力的ではありませんでした。しかしここ数年で、明らかな変化が見られるようになりました。基礎技術に基づいたスタートアップが増えたことで、『骨太』の企業が増え続けています」(出川氏)。

■ 有能な技術系学生がベンチャーへ

その原因について出川氏は、日本のテクノロジー系大企業の不振、競争力低下が背景にあるとみている。「技術系の学部を卒業する学生は、その多くが大手企業に入る道を選択してきました。しかし昨今はそうした企業の魅力がなくなり、日本の企業に就職したくない、という学生も増えてきました。そこで起業するパターンが出てきたのです大学発、研究所初のスタートアップは、大学や教授、研究機関と連携しながら、その技術をビジネス化しようとします。そのため、確固たる技術を持ったスタートアップが増え、投資環境としての魅力を増しています」(出川氏)。

今後2~3年後がさらに楽しみだと語る出川氏。日本の魅力を高める分野としては、工業デザインバッテリー技術だという様々なデバイスや基礎技術も、デザインとバッテリーの自由度が高まらなければ普及は難しい。「そこに日本の可能性がある」と指摘した。

日本の家電業界は依然厳しい状況に立たされているが、それを原因として人の動きが変わり、魅力的なスタートアップが増えているという現状は面白い。あるいは、日本の大企業が国内の面白いスタートアップをより生かす構造が生じることは、再生の大きなヒントと言えるかもしれない

翻って学生にとっては、技術を生かしたスタートアップという道が現実的になり、あるいは魅力的なキャリアパスになってきたことも、選択肢が広がる結果をもたらすことになるだろう

参考 東洋経済オンライン 2015.01.17

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