日本の中古住宅→活性化しない

およそ7軒に1軒――。何の数字かわかるだろうか。答えは約820万戸、住宅ストック全体の13.5%にも上る日本の空き家だ(総務省「平成25年 住宅・土地統計調査」)。1960年代後半から住宅ストック数は世帯数を上回っていたのに、空き家は増加の一途をたどっている

すでに人口減少時代にもかかわらず、住宅ローン減税をはじめとする国の新築促進策は相変わらず家やアパートが建っていれば土地の固定資産税や相続税が優遇されるという税制の問題もある

■ 中古住宅の流通シェアは欧米の6分の1

国土交通省によると日本の全住宅流通に占める中古住宅のシェアは約14.7%(2013年)近年シェアは高まりつつあるものの、欧米諸国の6分の1程度と低い水準だ高齢者が大量に保有している住宅ストックと深刻化する空き家問題を考えれば、中古住宅市場の活性化は喫緊の課題であることは間違いない

中古住宅市場を活性化するための方策はこれまでも散々、検討されてきたが、なかなか成果が出ない。ここ最近になって、メディアで報じられるなどにわかに注目が集まっているのが、中古住宅の売買仲介における物件情報の「囲い込み」問題だ売り主から物件を預かった会社がその情報を囲い込んで、同業他社の客付け(買い主紹介)を妨害する。宅地建物取引業法(宅建業法)で禁止されている不法行為である

物件囲い込み」問題が起こるのは、不動産仲介会社が売り主と買い主の双方から仲介手数料を得る「両手仲介」をもくろむためだ。これについては、自民党が5月26日に公表した中古住宅市場の活性化のための政策提言にも取り上げられ、国土交通省でも規制強化に乗り出すことになった

 国交省は今年度中に、仲介会社間で物件情報を登録・閲覧できるレインズのシステムにステータス(販売状況)管理の機能を追加。仲介会社のほかに売り主も公的システムの上で販売活動の状況を確認できるようにする

 これによって同業他社が販売状況を電話で問い合わせてきた時、まだ買い付けの申し込みがない段階でも「顧客と交渉中」と偽って物件を紹介しない行為を防止するのが狙いだ。大手仲介会社の業界団体である不動産流通経営協会(FRK)でも5月27日の定期総会でステータス管理の導入に全面的に協力すると表明した。

■ 囲い込みは「なくならない?」

とはいえ、長年続いてきた商慣習を断ち切るのは簡単ではない。不動産業界では「仲介保証などの顧客サービスが充実している大手に物件を預ける。そんな売り主が増え続けている現状を打破しない限り、囲い込みはなくならない」との声も聞こえてくる。

なぜ物件囲い込み問題が急にメディアでクローズアップされたのか。誰が仕掛けているのかもわかっている」。不動産流通業界に詳しい業界紙記者は内幕をそう明かす。

物件情報の囲い込みは宅建業法で禁じられているものの、顧客にとっての不利益が分かりにくい問題だ。確かに売り主にとって販売の“機会損失”になるが、実際にいくら不利益が生じたかは証明するのが難しい。

売り主にしても物件を預ける時に仲介会社と結ぶ媒介契約の有効期限である3カ月以内に当初に取り決めた売り出し価格で売却してくれれば不満はないはず。買い主も、ほとんどの仲介会社が仲介手数料を物件価格の3%+6万円としている現状では「どこから買っても同じ」と思っている人は少なくないだろう

一方、大手仲介会社による物件囲い込みで最も困っているのは、中小の仲介会社や新規参入事業者。営業エリアが限られる中小事業者や実績が乏しい新規事業者には売り主もなかなか物件を預けてくれない。仲介会社が売り主と専属専任媒介契約、または専任媒介契約を結んだ物件はレインズに情報登録の義務があるので、登録された売り物件に客付けして仲介手数料を稼ごうというわけだ。

そこに大きく立ちはだかるのが大手による物件囲い込みである。そんなわけで今回の騒動を「業界内の勢力争い」と冷ややかに見る関係者もいる。

 重要なのは中古市場を活性化し消費者にメリットのある市場環境をどう実現するか。その点について3つのポイントがある。

 一つめのポイントは、仲介手数料で価格競争が起きるかどうかだ

 物件囲い込みが行われている状況では、買い主は欲しい物件を買うには売り主から物件を預かっている仲介会社に依頼するしかなかったが、物件囲い込みがなくなれば、どの仲介会社を選んでも欲しい物件を買えるようになる。仲介会社もレインズのシステムを見て物件に客付けするだけなら手間もコストもかからないので、集客のために仲介手数料を下げる業者が増える可能性が高い。物件囲い込み防止を求める方も仲介手数料引き下げの可能性にはほとんど言及していないが、仲介会社の選択肢を増やすという意味で買い主にとって大きなメリットがあることを主張すべきだろう。

二つめは、物件の売り惜しみが本当に防止できるのかどうかだ

物件の囲い込みが売り主にとって不利益と言われるのは、物件を売り惜しみした挙句、売却を焦った売り主から物件を安値で買い叩くという問題が指摘されているからだ。しかし、この問題は物件囲い込みを防止しただけでは解消するのは難しい。売り出し価格を市場価格より故意に高く設定して売れ残り状態にしたうえで、頃合いを見て安値で買い叩くという方法もある

「個人的な意見で業界内でも賛否は分かれるだろうが、物件の売り惜しみを防止するなら仲介会社による物件の自社買い取りを禁止するべきだ

ある仲介大手の首脳はそう指摘する。仲介会社が物件を売り惜しみして安値で買い叩くのは、その物件を高値で転売して仲介手数料+売却益を得ようとするため自社買取りが禁止されれば、仲介会社も高い仲介手数料を得ようと、物件をできるだけ高く早期に売却しようと努力するしかなくなる

■ 大手集中の現状を変えられるか

最後は、物件囲い込み防止で売り物件が大手に集中している現状を変えられるかどうかだ

 最近、中古住宅の売却を大手仲介会社に依頼する傾向が強まっている。東急リバブルが2012年10月にスタートして大手仲介会社に広まった「仲介保証」サービスが大きく影響している。中古住宅を売却する売り主にとって、物件を引き渡した後に瑕疵(かし)が見つかり、買い主から瑕疵担保責任が問われるのが心配のタネ。万一の対策として、売り主が自ら住宅検査機関に建物検査を依頼して、2010年に国交省が認可して指定保険法人が販売を開始した「既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ)」に加入するのが安心だが、ほとんど普及していない

大手仲介会社が提供する「仲介保証」は、この売買瑕疵保険とほぼ同じ保証を、売り主が建物検査の費用も保険料も負担せずに提供するサービス。国交省の担当者は「指定保険法人のように損保会社への再保険などの資力の裏付けがあるわけではなく、国が認可する瑕疵担保保険とは異なるものだ」と指摘するが、負担なしに保証してくれるので大手に物件を持ち込む売り主が増えているという

この仲介保証のミソは、売り主だけでなく買い主も仲介会社の顧客でないと保証を行わないという点だつまり「両手仲介」の時だけ保証して、同業他社が客付けした買い主からの補償請求は対象外売買瑕疵保険であればもちろん買い主が誰であっても保証されるが、仲介保証は民間企業の独自サービスなので問題はないようだ

もし、売り主が仲介保証のサービス対象となる買い主に物件を売却してほしいと依頼した場合、レインズに物件情報を登録する義務がない一般媒介契約を結ぶことになる。

これまで多くの物件を両手仲介で契約成立させてきた大手仲介会社を信用して一般媒介契約で物件を預ける売り主が今後も増えれば、いくらレインズのステータス管理を導入しても、中小業者や新規参入業者が期待するような中古市場活性化の効果は得られないかもしれない。むしろ大手への物件集中が加速して寡占化が進む懸念がある

「中小の仲介会社からは、大手に対抗できる使い勝手の良い保険商品を開発してほしいと要望されており、保険法人に開発を要請したところだ」

■ 国交省の検討委員会で大きな議論に

今年3月に国交省住宅局で1年をかけて報告書をとりまとめた「住宅瑕疵担保履行制度のあり方に関する検討委員会」では、大手が提供する仲介保証サービスが大きな議論となった。

全国に5万2000以上の加盟・利用不動産店を抱える不動産情報ネットワーク大手のアットホームでも、保険法人の住宅あんしん保証と提携して検査・保険料セットで6万円から(戸建ての場合)という特別割引価格で売買瑕疵保険の提供を3月から開始した何とか大手への物件集中を食い止めようという作戦だ。「全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)などの業界団体で大手に対抗する同様のサービスを開発してはどうか」との声も聞くが、国交省が推進する瑕疵保険制度に影響する懸念もあるだけに悩ましいところだろう

そもそも物件囲い込みが発生する原因は、両手仲介にある。09年に前の民主党政権が「両手仲介の原則禁止」を打ち出した時には業界を挙げて潰しておきながら、今になって物件囲い込み防止を求めたわけだが、果たして期待される効果は得られるのか中古市場を活性化して消費者がメリットを受けられる環境を整えるためには、まだまだ突破すべき壁は残っている

参考 東洋経済オンライン 2015.06.09

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