新興国経済は「二極化」が加速!

2016年の新興国は、“勝ち組”と“負け組”の「二極化」が進むことになろう。明暗を分けるのは財政状況の健全性であり、背景となるのは米国の金融正常化である

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● 米国の金融正常化で高まる資金流出圧力 景気の下支え策を打ち出せるかで明暗

リーマンショックをきっかけにした未曾有の世界金融危機後、米国をはじめとする多くの国々が金融緩和を実施し、世界的な「カネ余り」が顕著となった。また、中国は大規模景気対策を実施して急速な景気回復を実現し、これに伴い、中国依存度の高い新興国や資源国もいち早く景気底入れを果たした世界の投資家は経済成長率が高く高収益が期待されるそれらの国々に資金を投入し、その成長を一段と押し上げた

周知の通り、中国はその後構造改革を通じて持続可能な経済成長を実現する姿勢を強め、景気減速があらわとなったこれが足かせとなり、新興国・資源国は一時的に資金流出圧力に見舞われたが、それら各国の成長率は鈍化したとはいえ相対的にまだ高く、資金流入の動きはなおも続いた

その結果、外貨建てによる債務拡大の動きが強まった民間企業を中心に、割高な自国ではなく、金利水準が低い先進国での資金調達を活発化させる動きが広がったのである海外資金の流入などを背景に多くの新興国・資源国通貨が上昇したことは、低金利と相まって資金繰りを容易にした

主要新興国や資源国の企業債務残高は世界金融危機後、株式時価総額を上回るペースで拡大しており、これに伴ってレバレッジ比率は拡大している企業部門のレバレッジ拡大は企業業績の大幅改善のほか、各国景気にとってもプラスに寄与したと考えられる

しかしながら、米国が金融政策の正常化に一歩踏み出したことでこうした状況に変化が生じる可能性は否定できない

新興国企業は米ドルを中心として外貨建て債務を拡大してきたが、足下においては米国のみが率先して利上げという展開となっており、これは米ドル高圧力となる多くの新興国通貨や資源国通貨はすでに米国の利上げ前からこれを織り込む形で下落しており、一部で過去最安値を更新する動きも見られるが、さらなる下落圧力となることが避けられない外貨建て債務を抱える企業にとっては利払いや元本返済に伴う債務負担の増大が重石になると懸念される

また、このような動きが国内金融市場全体に広がれば当局が資金供給策を行っても市場での信用収縮の動きが収まらず、景気の足を急速に引っ張ることも予想される景気減速は海外投資家にとって相対的な投資妙味の低下に繋がるためそうした国々では海外資金の流出が一段と加速し、国内金融市場の信用収縮が止まらなくなるリスクもある

通常、そうした場面では金融緩和を通じて金融市場の安定を図るが、新興国にとって金融緩和の実施はさらなる通貨安を誘発しかねない過度な通貨安は輸入インフレを通じて物価高を加速させる可能性があり、そのハードルは高まっている。こうしたことから、景気への懸念が強まるなかでも、金融緩和による下支えが図りにくくなり、減速が一層深刻化する恐れもある

残るは、財政出動を通じた景気下支えである財政状況が比較的健全な国は、財政出動による景気下支え余地は大きいしかし、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の脆弱な国では、この余地が小さくなることは避けられないここ数年、多くの新興国や資源国が、景気減速を理由に財政状況を悪化させてきた米国の利上げに伴う国際金融環境の変化を前に財政健全化の必要性が強調されてきたことを見れば、そうした国が景気を優先してさらなる財政悪化を招くことは必ずしも得策ではない

実際、2013年のいわゆる“Taper Tantrum”(バーナンキ前FRB議長による量的金融緩和縮小の検討発言をきっかけにした金融市場の動揺)の際には、ブラジル、インド、インドネシア、南アフリカ、トルコの5ヵ国、通称「フラジャイル・ファイブ」で海外資金の流出圧力が強まったこれらは経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」を抱えるという、ファンダメンタルズの脆弱さを共通点としていた

したがって、今年の新興国や資源国を取り巻く環境は景気下支え策を比較的容易に打ち出すことが可能な国と、そうでない国との間で「二極化」しやすい状況にあると判断できる

 とりわけ厳しい産油国の実態 財政が急速に悪化、外貨準備も急減

一口に新興国や資源国と言っても実際はさまざまである。足下における国際金融市場の環境変化で影響を受けやすいのは、資源国、とりわけ産油国と言える

一昨年末以降、原油をはじめとする国際商品市況は全面的に低迷している需要拡大が期待されてきた中国、新興国の景気が減速する一方で、ここ数年は米国での「シェール革命」のほか、ロシアなど非OPEC(石油輸出国機構)諸国での供給拡大の動きが広がっており、実体面で需給が緩みやすい状況が続いた加えて昨年末のOPEC総会ではOPEC自体の機能不全が明らかとなるなどで、供給過多がしばらく続くとの見方が広がり、相場の下押しを招いている

そこに、米国の金融正常化が拍車をかける原油は世界的に米ドルで取引されるため、金融市場においてその相場は米ドルと連動して動く傾向が強い米ドル高圧力が強まる環境では原油価格は上値の重い展開となりやすい側面がある

中東やロシア、中南米、アフリカなどの産油国では原油や天然ガス関連収入に対する財政依存度が極めて高く、原油相場の調整は歳入減を通じて急速な財政悪化要因となっている事実、サウジアラビアなど一部の中東産油国では昨年の財政赤字GDP比がマイナス20%を上回る水準になったさらに、輸出額の急減による貿易黒字の縮小で対外収支の悪化も避けられず、原油高を背景に堅牢と考えられてきたファンダメンタルズの構造的な脆弱さがあらわになった

また、主要輸出財の原油や天然ガスなどが米ドル建てで取引されることから対内直接投資や貿易の円滑化を図るべく自国通貨を米ドルにペッグ(固定)させている国が少なくない対外収支の悪化で自国通貨安圧力が強まることを警戒し、自国通貨買い(米ドル売り)の為替介入をせざるを得ない国が出るなか、このオペによって多くの資源国では外貨準備が急減している

ロシアでは一昨年末の外貨準備の急減を経て昨年初めから変動相場制に移行したほか、昨年末にかけてもカザフスタンやアゼルバイジャンなど中央アジア・コーカサス諸国が相次いで変動相場制への移行を余儀なくされたそれ以外でも大幅な通貨切り下げに動かざるを得なくなった国がある

● ブラジルは“異常事態”の景気低迷 オイルマネー逆流は世界にも影響

主要産油国は過去数年の原油相場の高止まりを受け、外貨準備をはじめとする潤沢な金融資産を積み上げており、当面は食いつなぐことが可能であるため、年内に通貨危機などの形で問題が表面化する可能性は低いと見込まれるしかし、中南米諸国の一部では原油・商品市況の低迷が景気の足かせとなり、通貨安などによる物価高が並存するスタグフレーションに直面している

特に、ブラジルは大統領周辺での汚職問題などを理由に政権支持率が悪化していることも重なって、政策の舵取りもおぼつかない同国は今年、五輪・パラリンピックイヤーであるにもかかわらず景気低迷を脱せない異常事態となっている

年明け直後には、サウジアラビアがイランとの断交を宣言し、周辺国にも同様の動きが広がるなど、中東情勢の混沌化が原油相場の混乱要因になることが意識されている供給途絶などが懸念される事態に至れば、原油価格は上昇しよう。しかし、現実に両国が直接事を構える事態は想定しにくく、実需面で需給が緩みやすい状況は変わらず上値の重い展開が続く可能性は小さくない。その一方で、対立激化による軍事費増大は財政状況の一段の悪化を招くほか、資金流出による自国通貨安圧力が強まるといった悪影響もあり得る

産油国・資源国の苦境はそれら各国の問題だけにとどまらない。産油国では、既に国内外を問わず資金逃避を誘発させる事態も生じつつある財政補填のために、「オイルマネー」の巻き戻しに動かざるを得ない国も出ている近年存在感を増していたオイルマネーの巻き戻しが、国際金融市場の動向に影響を与える可能性にも注意する必要があろう

● 原油安はアジア新興国には“恵みの雨” ただし以前に比べ景気の勢いは乏しい

原油安は産油国をこうした厳しい状況に直面させているが、対して、原油をはじめとする鉱物資源を輸入に依存するアジアなどの新興国にとっては、「恵みの雨」とも呼べる好影響を与える

インドや、インドネシアなど多くのASEAN(東南アジア諸国連合)諸国では、原油安が物価安定をもたらしている。さらに補助金削減による財政改善といった副次的効果のほか、貿易収支の改善を通じて対外収支も強化されるといった、ファンダメンタルズ改善の動きに繋がっている

上述の通り、中東情勢をめぐる不透明感の高まりなどで原油安の前提が崩れる可能性はあるが、世界的な需給が急速にタイト化するとは考えにくく、原油相場もしばらく上値の重い展開が続くとみられることは、多くのアジア新興国にとっては引き続き実質購買力の向上をもたらそう

アジアの新興国はここ数年は文字通り中国に「おんぶに抱っこ」の形で経済成長を実現し、同国への依存度を強めてきた依然として中国経済の行方に対する不透明感は拭えないが、世界最大の需要国である米国景気が利上げ可能なほどに堅調であることは、緩やかな外需拡大を通じて景気下支えを促すと期待される。また、過去数年にわたる自国通貨安を背景に、各国の輸出競争力が向上しているのも好材料となる

さらに、国際金融市場が過度にリスク回避的な動きに振れる事態を免れれば、相対的に高い収益が期待できる新興国に対する資金回帰の動きが広がり信用収縮の動きが止まって、消費や投資など内需の下支えに繋がると考えられる

半面で、リスクもくすぶる。近年はアジア新興国でも先述のように民間部門を中心に対外債務を拡大させる動きが広がっており米国の利上げに伴う米ドル高圧力は、各国内における債務負担の増大などを通じて景気の足かせとなり得る

インフレ率が低下したとはいえ、金融緩和を通じて景気下支えを図ることにも慎重になる必要がある米国の利上げ実施の影響で、外国人投資家にとっては米国への資金回帰が誘引されやすい環境にある新興国の利下げ実施は投資妙味の低下と映ることで資金流出を招き国内金融市場の信用収縮を加速させる可能性がある

したがって、アジアをはじめとする多くの新興国にとっては自立的に金融政策の方向性を決定することが難しくなるとみられ、この点は上述した資源国が直面する状況と大きく変わらない

財政政策については、地政学リスクなどの影響を受けにくい国々を中心に比較的自立した政策判断を行うことが可能であり、財政健全度が高い国は財政出動を通じた景気下支えが行いやすい

中国については依然公的債務残高の規模が比較的小さく、財政出動を通じて景気下支えを図りやすいほか、アジア新興国のなかではフィリピンやタイ、韓国などもそうした環境にあると判断できる

ただし、2000年代のように「新興国ブーム」と呼ばれる状況は一巡し、海外資金が大幅に流入することで経済成長の「ゲタ」を履かせてもらっていた状況は終わっている少なくとも、多くの国がひと頃に比べて景気の勢いに乏しい展開となることは避けられないであろう

● 気象異常で穀物高騰の懸念 現実になればより厳しい状況に

さらに、今年は新たなリスクにも注意する必要がある。実は、今年の世界的な気象テーマとして「ラニーニャ現象」の発生が懸念されている。これが発生した場合は南米で干ばつとなる傾向があり世界的にもトウモロコシやコメ、小麦、大豆など主要穀物の生産量が平年を下回る恐れがある

そうなれば、穀物の価格上昇が原油安の効果を相殺し、場合によっては自国通貨安も相まってインフレ再燃といった事態を引き起こす可能性もあるこうした場合のインフレは供給要因によるものであり、金融政策によって対応することは難しい景気の勢いが2000年代半ばに比べて乏しくなることを勘案すれば、経済実態はより厳しいものになると予想される

総じて言えば、アジアをはじめとする、資源を輸入に依存する新興国は、資源国などに比べより良い経済環境を享受し得るただ引き続き、世界的なマネーの動向をはじめ、外部環境に左右されやすい展開となることは間違いないと言えよう。  西濱 徹

参考 ダイアモンド オンライン 2016.01.22

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