新国立競技場→妹島和也プラン①

安倍晋三首相が新国立競技場の白紙撤回、ゼロからの見直しを決断したことは、結果としては大いに評価できる。しかし、その安倍自身を筆頭に、このドタバタを生み出した森喜朗元首相=東京五輪組織委員長、下村博文文科相、安藤忠雄デザインコンペ審査委員長ら主要人物たちの言動は余りにも見苦しい

●かつての戦争もこんな風に?

安倍が苦渋の決断に踏み切ったのは、安保法制案の衆議院強行採決でこれ以上内閣支持率が下落することを少しでも食い止めたいという狙いからであることは見え透いている。世論の「大きな批判」に従うと言うのであれば、まず安保法制案を撤回するのが本筋である。安倍は13年9月のブエノスアイレス招致会議でのプレゼンで、旧案を「他のどんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから、確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会は、その確実な実行が確証されたものとなります」とアピールしていて、それを撤回することは「国際公約違反」、つまり自分の面子が潰れることになるとして、問題をここまで放置してきた。この無様な事態を招いた最高責任者は安倍である。

森は、この期に及んで「私は最初からこの案は嫌だった」などと弁解がましく言っている。見直しなどしていては2019年のラグビーW杯に間に合わなくなると急かしてきたのは彼であって、本来なら五輪組織委員長を辞任しなければならないほどの失態である。

下村は、「一貫して明確な責任者がどこなのか、よく分からなかった」と言った。子どもじゃあるまいし、そういう時には自分が進んで責任をとればいいのだ。

かつての戦争も、こんな風にして泥沼に突き進んで行ったのだろう政治家は誰も責任をとらず、官僚は一度決めたことは覆さないのが仕事。マスコミは体を張って正面切って異論を唱えず、国民は「おかしい」と思っていても陰で不満を言うだけで、結局は長いものに巻かれていく……。戦後70年を経た今なお、安保法制も、辺野古基地も、原発再稼働も、TPPも、大事なことはみなそのようにして進んで行く中で、この一件だけが見直しとなったのは奇跡である

●「おもてなし」にふさわしいデザイン

さてどうするか。本当は旧国立競技場の改修で十分だったのだが、もう壊してしまった。当初から反対を唱える建築家たちの先頭に立ってきた大御所=槇文彦らが昨年8月に提案したシンプルな案があって、これは有力だと思うが、私は13年12月に「インサイダー」で最初にこのテーマを取り上げた時から、国際コンペで第3位だった日本の女流建築家=妹島和世の作品を推奨してきた

第1に神宮の森に溶け込むように柔らかでフラットなデザインが、和の趣があって「おもてなし」の“国際公約”に最もふさわしい

第2に第3位だったといっても、2次審査に残った11作品のうち安藤委員長を含む10人の投票でザハ、豪州のアラステル・リチャードソン、妹島の3点が同点となり他の委員から「委員長が決めてくれ」と促されて安藤がザハを選んだのであって、元々1位と3位という差があったわけではない

第3にザハは建築のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」の女性として最初の授賞者であるためマスコミで「世界的な巨匠」と形容されたりするが槇はもちろん妹島も授賞者であって権威に何ら遜色はない

第4に妹島は住友系の大手設計会社=日建設計とのコラボでこの案を出していて本格設計の作業も速いのではないか日建設計は大阪ドームやさいたまスーパーアリーナはじめ大規模な構造物は得意であり、もしザハ案で行った場合もその本格設計チームの中心となるはずだった

何とか妹島案を蘇らせて貰いたいと思う。同案はJSPのHPから「新国立競技場」→「国際デザインコンクール」→「最終結果」と辿ると見ることが出来る。

★http://www.jpnsport.go.jp/newstadium/Portals/0/NNSJ/third.html

なお、「インサイダー」ではこの問題を早くから何度も論じており、まずNo.708(2013年12月2日号)の「不細工かつ無思慮な新国立競技場建設案は破棄すべきだ!」を参考に供するが、一部省略してもなお長文なので何回かに分けて転載することにする。

参考 高野 孟 2015.07.18

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