携帯電話→料金は下がるのか?

9月14、15日と、携帯電話事業者3社の株価が急落した。11日に開かれた経済財政諮問会議で、安倍晋三首相が、携帯電話料金の家計負担軽減が大きな課題だとして、高市早苗総務相に料金引き下げの検討を指示したニュースが流れたためだ2日間で3事業者の時価総額は、2兆円以上減少した。情報通信政策に詳しい北俊一・野村総研上席コンサルタントが、その背景と狙いを解説する。

◇安倍晋三首相が経済財政諮問会議で指示

諮問会議の資料を見てみよう。同会議の構成員である伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授ら4人の連名で、「経済の好循環の拡大・深化に向けたアジェンダ」という資料が提出されている。最優先で取り組むべき四つの課題の一つとして、「雇用・所得環境の改善や子育て支援・少子化対策の強化を通じて、家計を元気にし、消費を活性化する」を掲げ、そのための手段の一つとして、「家計支出に占める割合が高まっている情報通信の競争環境の整備」を挙げている。唐突感を感じざるを得ない。恐らく、誰かが差し込んだものだろう。

さて、この話はさまざまな要素が絡んでいるため、次のように分解して考えてみよう。

1)家計支出に占める情報通信支出の比率が高まっているのはなぜか

2)比率が高まっていることは悪なのか

3)どうすれば比率を下げることができるのか

◇携帯料金の支出は「スマホ依存」が原因で急上昇?

家計支出に占める比率が高まる理由」は山ほどある。ガラケーからスマホへの移行、3Gから4Gへの移行、ADSLから光ファイバーへの移行、スマホ・タブレット・モバイルルーターなど、1人複数台保有の進行等に伴うARPU(1契約当たりの売上高)の増加、1世帯における携帯電話利用者数の増加(小学生から高齢者まで)、などが挙げられよう

電車やバス等の公共交通機関の中や駅・停留所、カフェ、街角などで、我々日本人の行動を見てほしい。通話をする人は激減したものの、誰もがスマホやタブレットをいじっているSNSの読み書き、ニュースの閲覧、写真や音楽、映像の視聴、ゲーム、ショッピング、ナビゲーションなど、用途は実に多様だ。私の乏しい経験からの意見なので、間違っていたら教えてほしいのだが、こんなにスマホをいじりまくっている国民は他にはいないと思う。まるで「スマホ依存症」とも言うべき状況だ

それに伴い、我が国のデータ通信量は爆発的に増大しており、携帯電話事業者の設備投資は3社合計で毎年1兆円を優に超えている

では、「比率が高まっていることは悪なのか」はどうか。上述したスマホや光ファイバーなどのICTの普及促進は、これまで国策として、世界最高水準のICT環境の実現を目指し、推進してきたものだ。その成果が、情報通信支出の上昇として、しっかり表れたと言うことができる。つまり、本来は評価されてしかるべきものなのだ

「スマホ依存症」はここでは一旦脇に置く。多くの国民が、いつでもどこでもICTの効用を存分に享受している。その効用への対価が高まることが悪なのだろうか

こんな事を書くと、「通信事業者の回し者め」と言われることが容易に想像される。

確かに、このような理屈をいくら振りかざしたところで、家計支出における情報通信支出の比率が高まっていることは、まぎれもない事実である。消費者として、1円でも安くしてほしいというのは、切実な願いだ。

そこで、「どうすれば比率を下げることができるのか」だ。二つの視点を提示したい。なお、ここでは携帯電話についてだけ取り上げる。

一つめの視点が、ユーザーの多様な利用形態に合わせ、料金プランをより多様化させることだ。言い換えれば、料金のミスマッチを最小化する、ということだ。我が国のスマホの料金プランは、諸外国に比べて、データ通信のヘビーユーザーに優しく、ライトユーザーに厳しいプランになっている

そこで、ライトユーザー向けの新しい料金プランの投入が望まれる。ただし、注意しなければならないことがある。我が国の携帯電話業界は、大手3事業者による「協調的寡占状態」にあり、より一層の競争を促進させるため、MVNO(仮想的移動通信事業者)の参入を促進させる政策を打ち込んでいる真っ最中だ

SIMロック解除義務化などもその一つこのタイミングで、格安スマホ、格安SIMと言われるMVNOと同等のライトユーザー向けプランが大手3事業者から出されると、MVNOの成長の芽が摘まれてしまう可能性があり、さじ加減が重要だ

もう一つの視点は、端末と回線の分離だ。現在、端末を買い換えるユーザーや、MNPで他事業者から移ってくるユーザーに対して、スマホやタブレットの代金の大幅値引きやキャッシュバックが行われている。これらの販売奨励金は、同じ端末や同じ通信事業者を長く使い続けている人を含めた全ユーザーの通信料金から、一律に回収されるという構造になっている

特に我が国では、新型「iPhone6s」の価格表を見ればおわかりのように、本来10万円もする高価な端末が、2年間使うことを条件に実質負担金ゼロ円で購入できてしまうここまで極端に端末を値引く国は日本以外にないつまり、日本の携帯電話料金には、端末の代金が形を変えて含まれているということになる

ちなみに、欧米諸国でも端末と回線は分離されていないが、端末を安く買おうとすれば、その端末値引き分だけ、自分の月々の通信料金は割高となる。つまり、“自分の尻は自分で拭く”構造になっているのだ

端末販売と回線販売が分離されれば、端末を正価(あるいは割賦を組んで)で購入し、別途、回線だけを契約することになる通信料金からは、端末代金の回収分が除外され、通信料金の家計消費に占める比率も下がるだろう

これは、携帯電話だけでなく、光ファイバーやISP(インターネット接続業者)も同様だ。パソコンや家電の値引き分は通信料金から回収されているのだ

端末と回線を分離し、端末代金と通信料金をリバランスする(配分し直す)ことで、家計支出における通信料金の比率を下げるのか、端末と回線の一体化を是認し、通信料金の比率上昇を受け入れるのか。我々は一体どちらを選択すべきなのか、という議論が巻き起こることを期待する

参考 毎日新聞 2015.09.19

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