打倒中国→日の丸ロケット反転攻勢

新興国を中心に商業用衛星を活用する動きが本格化するなか、ロケットによる打ち上げビジネスの競争が激化してきた高い技術力を誇る日本勢は、コスト競争力で海外勢に劣ることから苦戦を強いられている数十万点の部品を使用するロケット産業は裾野が広いだけに、成長軌道に乗れば波及効果が大きい関係各社は国内外の需要を取り込むため技術力に加えコスト競争力に磨きをかけている。(栗井裕美子)

 ■塵も積もれば…

 5月22日、愛知県飛島村の三菱重工業飛島工場で国産大型ロケットH2Bの5号機の機体が報道陣に公開された。公開されたのは機体の1段目(長さ約33メートル)と2段目(同約10メートル)。国際宇宙ステーション(ISS)に食糧などの物資を届ける無人補給機「こうのとり」5号機を先端に積み込み、8月16日に種子島宇宙センター(鹿児島県)から打ち上げる計画だ

 外観は平成25年8月に打ち上げた4号機とほぼ変らないが、違いを質問された二村幸基執行役員フェローは「コスト削減を追求している」と強調した

 5号機は、搭載カメラで撮影した画像の伝送装置を4号機の2台から1台に減らした。建造費の1%にも満たない微々たるコスト削減だが、「塵のような改善でも確実に積もらせて山にする」(二村氏)と力を込めた。コスト削減のノウハウを2020(平成32)年に投入予定の新型主力ロケット「H3」に生かす考えだ

 ■コスト競争が激化

 三菱重工がコスト削減にこだわるのは、世界のライバルたちの存在がある

 米国衛星製造協会によると通信や放送、気象関連の商業衛星サービスはこの10年で世界で2倍超の約12兆円に伸びている。今後、新興国を中心に企業が自前の衛星を所有する動きが広がり、ロケットによる衛星の打ち上げ需要の拡大が見込まれている

 ところが、衛星の打ち上げは、欧州、ロシア、中国の企業が世界シェアの9割を占めている日本にも衛星を使った通信事業を手掛ける大手があるにもかかわらずその衛星の打ち上げは海外勢に奪われているのが現状だ

ネックは打ち上げコストの問題だ主に「こうのとり」を打ち上げるH2Bは140億円程度といわれているが、商業用に利用されるH2Aでも約100億円にのぼる。これに対し、商業衛星の打ち上げで実績がある欧州企業は、受注件数が多い分だけ製造コストを下げることができH2Aと比べて1~2割近く安い価格で打ち上げているとされ中国の政府系企業なども低価格で攻勢をかける

 このためH3の打ち上げコストは50億円を目指している。「塵もつもれば…」とコスト削減を積み上げるH2Bのノウハウも生かしていく必要があるのだ

 ただ最近は、打ち上げコストの価格破壊の動きが注目されているロケットの機体をこれまでのように使い捨てにせず、再利用することでさらなるコスト削減につなげる試みだ

 電気自動車のテスラ・モーターズの経営も手掛ける資産家、イーロン・マスク氏が創業した米スペース社は今年1、4月に無人ロケット「ファルコン9」を打ち上げ、いずれも失敗した。大西洋上に浮かぶ無人プラットホームにロケットの1段目を再着陸させることでコスト削減を目指している。実用化すれば宇宙飛行コストが従来の100分の1の約6千万円にすることができるという野心的な計画だが、成功には至っていない

 ■国内中小企業育たず

 日本勢の苦戦は、数十万点ものロケットの部品を製造する日本の中小企業の経営に波及する問題だ

 平成24年度の日本航空宇宙工業会の調べでは、国内の宇宙関連事業を手掛ける企業の従業員数は8181人。ピークだった7年度の約8割に落ち込んでいる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロジェクトなど官需が多くを占め、国家予算の縮小とともに関連産業の企業数も減少した

 大阪市内の部品メーカーの経営者は「あまりもうからないが、社員の士気と技術力を高めるためにロケット製造に協力している」と打ち明ける

 これに対して、安倍晋三政権は、安全保障に関わる問題として宇宙産業の振興に積極的に関わる方針で、今年1月に今後20年の指針となる「宇宙基本計画」を発表。官民が連携してニーズを発掘し、研究開発や民需開拓にも協力して取り組むことで、今後10年間で累計5兆円の市場を創出する目標を掲げている

 国産ロケットのH2Bの強みは、三菱重工が製造から打ち上げまで手掛ける世界にも珍しい一貫体制といいスケジュール通りに正確に打ち上げる技術力も高く評価されている

 ロシアと米国でISSへの物資補給を目的とした打ち上げの失敗が相次いでいるなか、8月16日の打ち上げは、世界中の注目を集めている。JAXA広報担当は「気を引き締めて確実に打ち上げたい」と話す

 高い技術力で確実に打ち上げる信頼性を武器にする日本勢が世界の衛星打ち上げ需要を取り込む反転攻勢のきっかけになると期待されている

参考 Sankei Biz  2015.07.24

【関連する記事】