我が国は→モノレール大国

あなたはモノレールという乗り物に、どんな印象を持っているだろうか。関東圏に住んでいれば、JR東日本の浜松町駅と羽田空港を結ぶ東京モノレールに乗った経験のある人は多いだろう。都心から離れるたところでは、JR東日本の立川駅を通り多摩丘陵を縫うように走る多摩都市モノレールや、千葉市を走る千葉都市モノレールを思い出す方もいるはずだ関西なら、大阪府豊中市と池田市、兵庫県伊丹市にまたがる大阪国際空港から、大阪の中心部を囲むようにしながら門真市まで延びている大阪モノレールは身近な存在である

実は日本には、モノレールの営業路線が10路線もある。全国各地にモノレールの営業路線があるという意味では、日本は世界有数のモノレール大国なのである

しかもここにきて、路線はさらに延びそうな情勢になっている。2015年7月10日に東京都都市整備局は「広域交通ネットワーク計画について」という文書を公表し、今後の東京の交通網整備計画を公表した。この中に、多摩都市モノレールを町田方面と箱根ケ崎方面(東京都西多摩郡瑞穂町)の両方に延伸する構想が盛り込まれた

大阪モノレールについても現在の終点である門真市駅から南に9kmほど延伸する検討が進んでおり、今年度中に具体的な事業化が決まりそうな勢いである。さらに、沖縄の那覇空港から那覇市市街地を結ぶ沖縄都市モノレールも、現在の終点である首里駅から4.1kmを延伸して沖縄自動車道と接続し、沖縄本島北部への交通の便を改良する検討が進んでいる

なぜ、日本ではモノレールがこんなに“モテる”のだろうか。今回はこれを考えていこう。

●実は多種多様な方式で“死屍累々の歴史”を刻んできた?

モノレールの研究開発は19世紀に始まったが、その歴史は百花繚乱ともいえる方式の乱立と、その衰退というなかなか激烈なものだった。なにしろ大まかに分けて、線路の上に車体がまたがる跨座式と、線路から車体がぶら下がる懸垂式とがあり、さらに車輪が鉄輪かゴム輪かや、線路が鉄路かコンクリートか、さらにそのサイズはどうかなどの設計方式によって、ランゲン式、アルヴェーグ式、サフェージュ式、逆T字式、上野式、ロッキード式、東芝式、さらには一見ロープウエイのようにも見えるIビーム式などに分かれている

現在日本の営業路線で使われているのは、跨座式のアルヴェーグ式(東京モノレール)、その発展形である日本跨座式(多摩、大阪、沖縄など)、懸垂式のサフェージュ式(湘南モノレール、千葉)、Iビーム式(広島短距離交通瀬野線)、上野式(東京・上野公園の上野懸垂線)の5種類だ

それぞれの方式には由来と歴史がある上野式は敗戦後の東京の公共交通を模索していた東京都交通局が1950年代に開発した方式で、上野の路線は実験的に開業したものが今も営業路線として残っているものだ。この形式のモノレールが走っているのは世界で上野だけ。非常に貴重な“動く技術遺産”でもある

アルヴェーグ式はドイツで開発されたものを日立製作所が日本に導入した。アルヴェーグ式はタイヤハウスが客室内中央に突き出ている(だから東京モノレールの客室内は、特徴的な座席配置をしている)が、それを1960年代に運輸省(当時)と日本モノレール協会が床が平らになるように改良した上で各部を規格化したのが日本跨座式、サフェージュ式はフランスで開発され三菱重工業が導入したもので、Iビーム式は三菱重工の独自開発である

かつては東芝式(神奈川県・大船のドリームランド線)、ロッキード式(姫路市営モノレール、小田急向ヶ丘遊園モノレール)の営業路線もあったが、これらはすべて廃線となっている。

さまざまな形式の栄枯盛衰の果てに、現在のモノレールは成立しているわけだ。

通常の鉄道や地下鉄などに比べてモノレールが有利な点、逆に欠点とはどんなものだろうか。

まず、モノレールは線路などのインフラ部分が比較的安く作れるさらに線路の幅が小さいため、景観を圧迫することなく道路上を通すこともできる。また、現在使われている形式ではタイヤがゴムなので登坂力がある上、基本的に高架であることを生かして、高低差のある地形でも真っ直ぐに路線を通すことができるつまり、丘陵地に向いているわけだ

また、本気で走らせるとかなり速い。現在、東京モノレールは、空港快速という途中停車せずに浜松町駅と羽田空港を結ぶ便を運行している。これはモノレールの高速性を生かした使い方だ

 逆に欠点はといえば当然だが既存の鉄道と相互乗り入れが不可能なことや、上下線の車両を入れ替える際などに特殊かつ大がかりな専用軌道が必要になることだ

モノレールを建設するならば、特有の利点をうまく生かしつつ、欠点がはっきりと表れないようにする必要がある。建設費でいえば、地下鉄の場合、1kmあたりの建設費が200~300億円かかるのに対して、モノレールは百数十億円程度だただし、同100億円程度の新交通システム、同30億円以下の路面電車といったライバルもいるので、モノレールを採用する前に利害得失をよく考える必要がある

でも初期のモノレールは、「とにかく作ってみる」という色彩が強かった。ここでは詳しくは取り上げないが、1960年代から70年代にかけて、遊園地にはかなりの数のモノレールが導入されている。上野懸垂線は東京都交通局による実験線だったし、JR東海道線・大船駅と江ノ島を結ぶ湘南モノレールは、三菱重工がサフェージュ方式を導入するにあたって建設した実験のためのモデル路線という色彩が強い。この湘南モノレールは丘陵地帯を突っ切るように走っていて、高低差に強いという特徴を生かしている

これらの試行錯誤を経て、日本ではモノレールの使い方は主に3つとなった。1)既存の道路の上を通してバス輸送を代替する、2)都市の周囲を回る環状線として使う、3)空港など大型施設と都市部とのアクセス、あるいは大きな施設内の移動に使う――である

1)の典型例が多摩都市モノレールだ。多摩丘陵にはいくつもの大学があり、宅地開発も進んでいるため輸送需要が大きい。にもかかわらず、幹線道路である都道は、抜け道が少なく渋滞が頻繁に起きるので、バスの定時運行が難しい。そこで道の上にバスよりも輸送能力の大きなモノレールを通したわけである。

2)の代表は大阪モノレールだ。伊丹の大阪空港から、大阪の中心部を囲むようにぐるりと路線が走っている。途中、交差する放射状の鉄道路線各線との乗り換えを確保し、環状線としての役割を果たしている。環状線は放射状路線と比べると、周囲の土地利用が進んでから計画されることが多い。すでに開発が進んだところでも道路の上の空間ならモノレールを通すことができる。また、環状線なら既存鉄道網と車両が相互乗り入れできないという欠点も目立たない

3)はもちろん東京モノレールが開拓した使い方だ。また、かつての小田急向ヶ丘遊園モノレールやドリームランド線は遊園地へのアクセス路線だった。現在では、東京ディズニーランドで施設内を移動するディズニーリゾートラインが営業している。

ただし、こうした形で100%分類できるわけではない。大阪モノレールは環状線であると同時に大阪空港へのアクセスラインにもなっているし、沖縄都市モノレールは市街地を縫うように走りつつも、那覇空港へのアクセスも提供している

ところで日本でモノレールが増えた理由は、モノレールが本当に便利だからというだけではなかった政府が1972年に都市モノレールの整備の促進に関する法律を制定してモノレールが市街地の道路の上に非常に作りやすくしたのである

見る通り、この法律は非常にざっくりとしたもので、具体的な施策は行政に委ねられていた。そこで運輸省(当時)は、道路法で道路が「トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含む」と定義されていることを利用して、モノレール線路を下の道路の付属物と見なすようにした。こうすると、道路整備関連の豊富な財源をモノレール建設に振り向けることが可能になる

この結果、1980年代半ばから、国の支援を受けて建設されたモノレール路線が日本各地で開業していった。1985年に小倉の北九州モノレール、1988年に千葉都市モノレール、1990年に大阪モノレール、1998年に多摩都市モノレールが開業といった具合である。しかし、その営業成績はあまり芳しくなく……どころではない、悲惨なものだった。北九州モノレールは2005年に、千葉都市モノレールは2006年に産業活力再生特別措置法に基づく救済処置を受けることとなり、多摩都市モノレールは2008年に東京都から追加出資を受けざるを得なかった。大阪モノレールも長らく赤字に苦しみ、単年度黒字となったのは開業から11年後の2001年度のことだった。

原因は個々の路線でやや異なるが、根本にあったのは国のてこ入れがあったために収益性についての徹底した事前検討なしに路線建設が進められたことと、第三セクターに代表される経営責任が不明確な運営形態を採用したことが挙げられるだろう。

それでも近年、路線が延びて利便性が向上したことと、沿線開発が進み乗客が増えたことで、これらの路線の経営状態は徐々に良くなってきつつはある(年次の決算を読んでいくと、北九州モノレールはまだ危うい感じだが)。

ここまで、ざっとモノレールという乗り物の概要をまとめてみた。次回は、日本のモノレールの代表として、多摩都市モノレールと大阪モノレールを分析する。共に同じ日本跨座式を採用し、近年延伸計画が動き出しているという共通点があるが、路線を分析するとこの2つのモノレールはかなり違っているのだ。

参考 日経トレンディネット 2015.10.08

【関連する記事】