急須離れと世界進出混じり合う→緑茶

日本では、茶葉を急須で入れる緑茶「リーフ茶」を飲む人が減っているが、一方、海外では抹茶をはじめ、緑茶がブームになっているという。国内や海外における日本産の緑茶の状況を探ってみた。

お茶を巡る日本と世界の情勢とは?(JBpressのサイトへ飛びます)

■ ペットボトル普及で緑茶の「急須離れ」進む

今年も新茶の季節がやってきた。国内一の茶の生産地である静岡県では、4月21日に新茶の初取引が行われた。熊本県や大分県で起こった地震の影響で、九州産のお茶の入荷は遅れているものの、今年のお茶の出来栄えは上々とのことだ。まもなく私たちも新茶のさわやかな風味を楽しむことができるだろう。

とはいうものの、近年、ペットボトルや紙パック入りの「緑茶飲料」が普及し、若者を中心に急須離れが進んでいる。いまでは、「お茶は急須で入れるもの」という認識は大きく変化し、緑茶飲料の消費量は増加しているものの、緑茶のうち茶葉から入れるリーフ茶の消費が低迷しているのだ

リーフ茶の低迷に伴い、茶の生産量も減少している。煎茶の原料になる荒茶は摘み取りの順番で「一番茶」「二番茶」「三番茶」とよばれる。新茶はその年の最初に育った新芽を摘んで作った一番茶のことだ。消費量の多い緑茶飲料の原料になるのは二番茶以降の茶葉を使った荒茶である。また、最近の消費者は、量販店で手ごろな製品を購入する。そのため、生産者にとって大きな収入源である一番茶の価格が低下し、打撃を受けている

一番茶が高く売れず、収入が減れば、生産者の意欲は減退するものだろう。生産者の高齢化などに伴い、茶畑が減少している。

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ただし、抹茶の原料となる「てん茶」の生産は増加しているてん茶はよしずなどで茶畑をおおい、日光を避けて育てたもので、うまみが増し、苦味が抑えられた高級茶。てん茶を石うすでひき、粉にしたものが抹茶だ

■ 再び巻き返すか、緑茶の輸出

こんな国内の状況がある反面、いま国をあげて力を入れているのが緑茶の輸出だもともと茶の輸出の歴史は古く、江戸時代に始まった欧米との自由貿易では、茶は重要な輸出品だった。その後、第2次世界大戦の影響で輸出が減少したものの、戦後はふたたび盛んになり、最盛期には1万5千トンが輸出されていた。しかし、中国産の緑茶の進出や円高により、国際競争力を失うと、輸出量は減少していった。2005年の緑茶の輸出量はわずか1096トン、輸出額は21億1000万円だった

だが、その後、和食や緑茶の人気の高まりを受けてか、輸出量は上昇に転じ、輸出額も伸びている。2015年の輸出額は10年前の約5倍となる100億円を超えた。農林水産省は、2020年までに輸出額を150億円にすることを目標にしているが、このまま輸出が伸びていけば実現しそうだ

現状では、輸出額の半分は米国向けが占め、シンガポール向けやドイツ向けが続く健康志向の高い米国では、ここ数年で緑茶の人気が急上昇。2012年に米国スターバックスが買収したことで話題になった「TEAVANA(ティーバナ)」は、米国を中心に400店舗を展開するお茶の専門店で、メニューには「Matcha」「Gyokuro」などの日本の緑茶が並んでいる

また、伊藤園のペットボトル入りの海外向け緑茶「Oi Ocha」の売り上げも好調だ。さらに、2014年にニューヨークで開店した抹茶専門店「MatchaBar」が引き金となり、健康や美容によいスーパーフードとして抹茶が注目されている。

■ ドイツも日本産の緑茶に注目

 世界的に消費量の多いお茶は紅茶だが、近年では緑茶の需要が増えている

世界一の茶の産地は中国で、緑茶のシェアも世界一だ。そのため、日本産の緑茶輸出のカギを握るのは、中国産と差別化し、緑茶のシェアに食い込むことなのである。3月に幕張メッセで開催された「FOODEX JAPAN(フーデックスジャパン) 2016 (国際食品・飲料展)」では、たくさんの日本茶関連企業が海外展開を狙った展示をしていた。

海外への販売に力を入れている京都の緑茶メーカーで働くドイツ人男性は、「日本茶はドイツで人気があり、玉露や抹茶の注文が増えている」と話す海外でも、日本茶の渋みやうまみなどのバランスによる繊細な味わいが通じるのだという

ドイツはヨーロッパの茶貿易の中心地で、世界各地から輸入した茶を加工して、EU各国をはじめ、世界へ輸出している。紅茶が中心だが、緑茶も輸入している。しかし、ほとんどは中国産で、日本産はごくわずかだ

 ドイツ自国での緑茶の消費も増加し、1992年から1999年にかけては日本産のシェアが80%を超えていた。しかし、1999年に日本産の緑茶から高いレベルの残留農薬が検出されたとメディアで報じられた。それをきっかけに、多くの日本の緑茶がEUの残留農薬の基準を満たしていないことが明らかになり、日本産の緑茶はドイツやEUの市場から追い出されてしまった日本とEUの農薬の基準が異なることが原因にある。日本では一般的に使われている農薬がEUでは認められないものだった

それ以来、ドイツでは、緑茶の消費量が著しく増加しているにも関わらず、日本の緑茶のシェアは1%ほどにまで落ち込み、残留農薬が基準を満たしていた中国産の緑茶が代わりにシェアを占めた。悪いイメージがついてしまったためか、日本でもEUへの緑茶の輸出はあきらめ気味だった。

だが、米国での抹茶の評判がEUにも伝わってくると、嫌われていた日本の緑茶を求める人が現れるようになったドイツでは、緑茶の苦みや青臭さが敬遠されて、甘くした緑茶や緑茶にドライフルーツなどを加えたフレーバーティーが主流だが、抹茶の健康効果に期待するばかりでなく、日本の緑茶の風味まで楽しむようになるとは、緑茶の輸出関係者には予想外の出来事だったかもしれない

とはいえ、日本の緑茶を楽しんでいるのはまだ一部の模様。「多くのドイツ人にとって、和食は高級で、日本茶もよく知らない」と、筆者の知人のドイツ事情通は話していた

■ たまにはゆっくり日本茶を

世界に出回っている緑茶のほとんどは中国産で、価格も安い日本産の緑茶は品質が高いが、価格も高いので、購入者の中心は富裕層だ。日本の緑茶を海外へ広めるためには、各国の残留農薬基準への対応を急ぐとともに、中間層にまで購買を広げるための工夫が必要となる。

先にあげたFOODEXでも、日本茶メーカーの社員が「緑茶の需要が高まっているとはいえ、日本の緑茶を飲んでいる人はまだ限られている。緑茶の輸出を増やしたいが、実際には海外の人にお茶の味を理解してもらうのは難しい」と話していた。日本茶関連の各ブースでは、抹茶を使った菓子から緑茶になじんでもらったり、海外に人気のあるアニメのキャラクターを使った容器と緑茶をセットしたりするなどの工夫をしていた。

日本の緑茶がどこまで海外に受け入れられるのか、これからの動きが気になるところだ。また、海外のブームは緑茶の存在を改めて日本人に気づかせてくれた。せっかくの新茶の季節。たまには私たちもゆっくりと急須でお茶を入れ、緑茶の魅力を再認識してみたい

佐藤 成美

JBpress2016.05.06

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