市場縮小でも伸びる→減塩醤油

醤油は和食に欠かせない調味料だ大豆と小麦から作った麹に塩水を加えて熟成させるこの調味料は日本各地に何百年もの歴史を持つ地場メーカーが点在し、多くの種類が販売されている文句なしのロングセラー商品だ最近の売れ筋は「減塩醤油」でこれも発売から半世紀を迎えている

国内の醤油市場は年々減少傾向にある1970年代に120万キロリットルあった国内市場はいま80万キロリットル。年々1~3%ずつ減り続けてピーク時の3分の2になっている食生活の洋風化に加え、少子高齢化で人口が減っている。かつては両親に子ども2人の家庭が多かったが、いまは単身世帯や高齢者の一人暮らしが少なくない。今後も醤油の国内消費量減少に歯止めをかけるのは難しいだろう。

 そのなかで気を吐いているのが「減塩醤油」だ。厚労省の定義によれば普通の醤油より塩分が50%以下のものが「減塩醤油」で、ふつうは小さじ1杯(約5ミリリットル) の醤油の中に約1グラムの食塩が含まれているところ、減塩醤油の塩分はその半分以下だ。メーカーによって40%、25%など塩分量はまちまちだが、大手メーカーのキッコーマンでは2007年に家庭用醤油全体の7%だった減塩醤油の売り上げは今年14%と10年間で倍に増えた

ただ、当初から売り上げが好調だったわけではない。キッコーマンの場合、減塩醤油の開発は東大医学部から腎臓病患者のために本来の旨みを残しつつ塩分をカットした醤油を開発してくれないかという要請を受けたのが発端だったいつもの醤油に水を加えて希釈するだけでは醤油のコクも香りもすべて薄まってしまうので、試行錯誤の末、イオン交換膜で醤油から余分な塩分だけをカットする「脱塩法」にたどり着き、1965年に『保健しょうゆ』という名前(67年に『減塩しょうゆ』と名称変更)でデビューした。

だが、一般向けにはほとんど売れなかった。減塩意識が低かったこともあるが、なにしろ値段が高かった。当時の卓上瓶は1本約50円なのに減塩醤油の瓶は同容量で100円と2倍もする。減塩醤油は普段使いではなく病人用の特別な調味料にすぎなかった

それが近年、売り上げが急速に伸び始める世界的な健康志向の高まりもあるが、主因は他にある。“容器革命”だ。工場で出来たての生醤油は加熱殺菌していないので柔らかい味がするだが醤油は開栓すると酸化による劣化が起きる。容器に外気中の酸素が入ると色が黒く変色し、味は濁り、香りも飛んでいく。どうにかして新鮮な醤油の味を家庭の食卓まで保たせられないか。メーカー各社の長年の課題を解決したのは2009年8月に業界2位のヤマサ醤油(千葉県銚子市)が発売した『ヤマサ 鮮度の一滴』だ。柔らかいフィルム製の二重袋構造の容器入りで、注ぎ口には空気の流入を防ぐ逆止弁が付いていた。同品は半年で累計出荷数が100万本を突破する大ヒットとなった

 最大手のキッコーマンも負けてはいなかった。2010年9月に従来の醤油差しに似た円柱形のボトルの中にフィルム製の醤油袋を入れた二重構造の小型容器入り『生しょうゆ「いつでも新鮮」』を出した。外のボトルを押すと注ぎ口から醤油が出て、押す力を緩めるとボトルと内袋との間に空気が入る。空気に押されて内部の醤油袋は徐々に小さくなり、その空気が外側の容器の安定性も増す。醤油が外気に触れないので開栓後も90日間は鮮度を保てるという同シリーズは2011年11億、12年22億、13年が45億円、14年66億円と伸び、2012年から減塩醤油もこの容器入りになっている

減塩醤油は普通の醤油から塩分を抜く手間が要るので普通の醤油より割高になる。200ミリリットル入りの小型容器は1本約200円。従来の1000ミリリットル入りに換算すると1000円の高額だ。それでも売れているということは、煮ものをしない人にとって醤油はもはや小型容器入りで十分ということなのだろう。「人口減で国内の胃袋が次第に小さくなるなか、容量が少なくても付加価値を見いだしてもらえる商品をつくっていかねば生き残れない」とキッコーマンは話す。

減塩醤油の今後の課題は「薄くて風味がない」というイメージを払拭することだ。だが「1ヶ月ほど使ううちに味慣れして既存の醤油が塩辛く感じられるようになる」という研究成果もある。醤油メーカーは生き残りの布石でもあり、既存の醤油を脅かす存在でもある減塩醤油の二律背反に直面している

参考 Sankei Biz  2015.09.20

 

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