官能小説でたどる→戦後70年

 過激なエロ映像が簡単に手に入る現代でも、官能小説が書店から消えることはありません日陰でじっとりと咲き続けるジャンルの戦後70年の歴史をたどった本が出版されました性行為を表現する独特の言語感覚は、官憲の摘発を逃れるための苦肉の策だったそうです。女性作家の隆盛で新時代を迎える現在に至るまで、普段は近寄りづらい世界をのぞいてみましょう。

「貫く」ならばセーフ

「日本の官能小説 性表現はどう深化したか」(朝日新書)の著者、永田守弘さん(82)は1981年に雑誌「ダカーポ」の官能小説の紹介欄を担当したことをきっかけに、このジャンルと濃密につきあうことになりました。年間およそ300作を読みます。この本では、時代順にたくさんの官能小説の引用をちりばめながら、社会情勢や流行も交えて解説します。
戦後しばらくは性表現への摘発が相次ぎますチャタレイ夫人の恋人事件(1950年)四畳半襖の下張事件(1972年)などが有名ですが、永田さんは「警察ににらまれないため、作家は直接的な表現を避けながら、読者にそのシーンを思い浮かべさせなくてはいけません。その工夫が官能小説の豊穣な表現を生み出しました」と話します
例えば「挿入」はいけません。そこで「女体を貫く」などの表現がひねり出されたのです
1978年の富島健夫「初夜の海」が最後の摘発になりました。今では女性器そのものの名称を書いても問題になりませんが、官能小説家たちは競い合うようにユニークで隠微な表現を生み出し続けています。

もはや男性のものでない

 官能小説という呼び名が一般的になってくるのは1950年代半ばごろ。それまでのSM趣味など好事家のひそやかな娯楽から、ポルノ御三家と称された川上宗薫、宇能鴻一郎、富島健夫らの登場もあって、より幅広い人気を獲得していきます
1970年代以降、会社の出世競争や人間関係で疲れたサラリーマンを癒やすかのような、たくましい男性器で女性を悶絶させるパターンの作品が読まれます時代が下った現代では、失業などで社会から疎外感を味わう中高年が女性との出会いで精気を取り戻す「回春もの」が受けています
男性読者向けのイメージが強かった官能小説の世界ですが、現在は女性作家の活躍がめざましく、読者も女性が増えているそうです。攻略されるだけの女性ではなく、女性自身が性の満足を得る微妙な行為や心理を細やかに描こうとする作品が増えています。永田さんは「これまでにない新しい方向性の気配が濃くなっている」と期待を込めます。

お尻派?おっぱい派?
男性の女体への執着をめぐる一大テーマについて、官能小説界では時代の流れのなかで何度か偏りはありました。しかし、最近はお尻の優勢が定着している、というのが永田さんの見方です。「女性の押し出しが強くなり、男性が正面から向き合えなくなっているのではないでしょうか」と分析します。両派のなかでも、「巨乳」「美乳」などとさらに細分化された嗜好についても、本のなかで触れています。
小説に登場する女性の職業設定も、時代によって流行があります。かつて人気だった尼僧が下火になる一方で、女子学生がアルバイトすることは多い巫女はよく採りあげられています。最近では、バスガイドやキャビンアテンダントなど実際に職業体験を持つ女性作家が登場し、業界の内情に通じた作品を発表しています

「淫心を燃えたたせる」

 時代を超えて、一定の愛読者を保ち続ける官能小説の魅力は何でしょう。
永田さんは言います。
官能小説は性欲をかきたてるためのものでなく、もっと感性の深くにある淫心を燃えたたせるものです

参考 with news 2015.06.11

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