夢のがん診断→技術血液1滴

神戸にある親子2人だけのベンチャー企業が、金属チップを使って、血液1滴、判定時間3分というこれまでのがん診断の難しさを覆す技術・手法を開発したのです

がん検診のむずかしさ

 近年、日本では2人に1人ががんに罹り、そのうちの3人に1人が命を落とし、国民の死亡原因のトップであり続けていますがんは年間約37万人もの人の命を奪っているのです

このコラムでも私自身の大腸がんを早期発見・治療してきた経緯をお話してきましたが、がんというのは初期症状が出にくく、痛みなどの異変に気づいたときには手遅れというケースが少なくありません。「がんは検診で発見する病気」であり、「どれだけ早く発見できるか」が生死を分けるのです

しかし、がん検診の受診率は2割程度

バリウムや下剤を飲んだり、マンモグラフィでは乳房を機械に押し潰されるような痛みを伴うなどの苦痛、予約を取り仕事を休んで受診する面倒くささ、そして一部高額な料金。それを部位ごとに行うということから躊躇する人が多いのです。しかも、判定には7~10日待たされるのが通常です。

なにか自覚症状が出たら病院に行く」と先延ばしにしてしまいたい人の気持ちも分からないでもありませんが、身を持ってがんの恐ろしさを知り、検診の大切さを訴える活動をしている私は、検診受診率の低さに打つ手はないものか、歯がゆく思っていました

驚きの手軽さで、その場でがんが診断できる!?

 そんな折、苦痛も面倒も強いられず、その場でがんが診断できてしまう画期的な手法が開発された、というニュースが世界を駆け巡りました。

国内はもちろん、アメリカやロシアからも取材依頼が殺到している中、なんと私、テレビ朝日「モーニングバード」で、世界で初めて研究室に入ることができました

神戸にある医療機器会社(有)マイテックの研究室で出迎えてくれたのは、こちらのお二人。

お父様の長谷川克之さんと長男の裕起(ゆうき)さん。初めての取材にまだ表情も初々しい様子が印象的でした。

医療関係のベンチャーが集結する研究棟の一番小さな部屋が彼らの城わずか30㎡ほどの小さなスペースで、中央に大きな机を置き、棚と冷蔵庫を置いたら、座る場所に困ってしまうくらい

失礼ながら、こんな環境で世界が注目する診断法が誕生したのかと絶句してしまいました。

 診断方法はいたってシンプル! 金属チップの表面に血液(不純物を取り除いた血清)を垂らし、顕微鏡で覗いて見るだけ

こうして文章にしてみるとわずか1行で書けてしまうという簡単さにはなんとも驚きです。

もう少し詳しく仕組みを紹介すると、今回開発されたのは、この金属チップと表面に塗る試薬ですチップは銅合金でできていて、表面に試薬を塗ることで過酸化銀メソ結晶という新規物質の膜が作られ、このようにトゲトゲした結晶の状態になります

そこに血清を垂らすと、がん患者が持ち合わせる「ヌクレオソーム」というがん関連物質だけがトゲに吸着するというのですこのヌクレオソームはがん免疫に攻撃されたときに血液中に溶け出る物質で、がん患者でなければ存在しません。つまり、トゲにヌクレオソームがくっついていれば、それ血液の持ち主はがんだと判別できるのです

そして、元々チップには金属ナノ粒子(プラズモン効果)で、電場増強効果によって光を増強させる特徴があり、蛍光顕微鏡で覗くとヌクレオソームが緑色に光って見えるため、がんの有無を一目で簡単に判別できるという仕組み

画像には次のように表れます。上段が良性腫瘍の患者の診断結果、下段が悪性腫瘍(=がん)の患者の診断結果です。

がん関連物質がまるで暗闇に光る星のように「悪性腫瘍」の存在を教えてくれます

昭和大学江東豊洲病院消化器センター伊藤寛晃講師との共同実験によると、がん患者と良性腫瘍の患者、計20人の血液で試したところ100%間違いなくがんの有無を診断できたそうです

従来のがん診断法との違い

 ちなみに、血液検査でがんを診断する方法なら現在でも広く行われています。血液中の腫瘍マーカーと呼ばれるがんの指標となる特殊な物質の数値を測るというものです。

しかし、がんがあっても検出さえないこともあり、他の診断と組み合わせて実施されています。私自身、陰性という結果が出た直後に下血し、内視鏡で再検査をしたら大腸がんが発見されたことがありました。また、検査結果が出るまでに1週間も不安な気持ちで待ちました。

他にも、レントゲン、CT、PETなどの画像診断もありますが、こちらは医師が画像を見てがんの進行度や性質などを判断する方法で、初期のがんは小さいため発見が難しいのです。見落としの危険もあるし、腫瘍が見つかって摘出手術をしてみたら良性腫瘍だったなんてこともよく聞く話です

今回の金属チップの診断法では、血液中に含まれるがん関連物質を画像で見るため、悪性腫瘍(=がん)かどうかの結果は一目瞭然と言えますね

一番知りたいのは、どの部位のがんがわかるのか? がんの大きさもわかるのか?
特に転移・再発の恐怖を抱える患者にとっては切実な問題です。長谷川克之さんによると、「それぞれの部位ごとに光の形や大きさに特徴がありますから、判別が可能になります」と力強い答え

現段階で実験済みなのは、胃がん・大腸がん・食道がん、そして、発見が一番難しいとされるすい臓がんの消化器系。これは共同研究を行う昭和大学伊藤寛晃講師が消化器センター勤務のためだそうです。

理論上は乳がん・子宮がんなどの婦人科系、また皮膚がん、喉頭がんなども可能だそうで、今後は「血液のがん」と呼ばれる白血病も試したいとのことです

また、CTやPETなどの画像検査ではがんが発見できるのは、腫瘍が10ミリ以上の大きさに成長してからとされていますが、この手法ではどうなのでしょうか?
どんなに小さながんでも血液中のヌクレオソームの光を捉えるので、0.1ミリといったがんの『芽』を見つけることができます。」

腫瘍そのものを肉眼で見つけるのではなく、あくまでも血液中に含まれるがん関連物質の分子を検出するので、「早期発見」どころか「『超』早期発見」が可能になるというのです

そして、これほどの診断がわずか3分という短時間でできるのは、4~5日かかる前処理が必要ないためだとか。

必要な血液量も5マイクロリットルと1滴にも満たないため、他の検査のついでに残った血液でパッと診断することが可能です。実用化すれば、まさに手間も痛みもいらない夢のような診断ですね

もともと金属部品の会社だった

 (有)マイテックは、1999年創業当時は大手メーカーの機械加工を請け負っていましたが、代替わりして2005年にバイオ事業に転換2010年に独自の量子結晶技術を活用して、従来の物理的加工法ではない化学的手法の新技術であらゆる分子の検出を可能にしたそうです

検出される分子は、がんだけではありません応用範囲は無限だといいます。たとえば、製薬、農業、食品関連等の開発・検出・検査。ダイオキシン等の環境汚染物質の検出・水質・土壌分析毒ガスや生物化学兵器の検知などバイオテロ対策まで

なにやらとてつもないスケール感ですが、実は2人とも医学知識はゼロだったというから驚きです。

何も知らないのがよかった。縛りがないから、『これはあかん』と思ったら、すぐに違う実験に切り替える。どこにも所属してないから『あなた専門外でしょ?』なんて誰にも文句言われない。専門なんてないから自由なんです」と笑う克之さん

この研究に関しては公的な補助金も受けず、可能な限り自己資金。東京に実験に行くのも飛行機代がもったいないからと半日かけて車で通い、裕起さんは大学を中退し学習塾で講師のアルバイトをしながら研究を続けてきました。2人きりの小さな研究室で親子喧嘩をしながら、この研究が一日も早く実用化されることを願っています。

もうその願いがかなう日は目前まで来ているかもしれません。

すでに日本や中国などで特許取得済み世界中で30~40か国の権利化を目指しているそうです。保険適用は視野に入れていませんが、1年後にも実用化を目指し、費用は数千~数万円を想定しているとか

2人は夢をこのように語っています。

実用化されれば、離島の人でも検査チップさえ送ればがんが判定できる。医療格差の解消につなげたい。私たちは世界で一番小さなグローバル企業を目指しています

参考 現代ビジネス 2015.07.04

【関連する記事】