外食産業→3Dプリンタの破壊力

時代や環境の変化とともに、人々の趣向は変化し、業界におけるルールも徐々に変化していく。しかし、何かをきっかけにそのルールが一変し、昨日まで覇者だった企業が凋落し、名も無き企業が突然台頭してくることがある。
この“業界変革”のインパクトは想像を絶するほど大きい。しかも思いも寄らない方向から急にやってきて、既存のビジネスモデルを一変させる

今後、そうした変革が起こりそうな業界の一つが外食だ。新進気鋭の経営コンサルタントと早稲田大学ビジネススクール教授が外食業界の行方と業界変革の予測の仕方を伝授する。

■ 料理を製造する3Dプリンタ

最近は家電量販店でも販売されるなど日本でも普及し始めている3Dプリンタ。その多くはABSやPLAと呼ばれるプラスチック素材から成形しているが、将来的には3Dプリンタで料理を作ることもできるようになるのをご存じだろうか

昨年の初め、米国テキサス州に本社を置くシステムアンドマテリアルズリサーチ社が「3Dフードプリンタ」の開発資金として、NASAの中小企業向け出資プログラムで12.5万ドルを獲得した。この3Dフードプリンタは、宇宙飛行士が宇宙空間でも新鮮で美味しいものが食べられるように企画されたものだ

システム社がNASAに提出した企画案によれば、カートリッジに乾燥したタンパク質や脂肪などの栄養素や香料などが粉状のなったものを使い、プリンタヘッドで油と水を混ぜる。それらがノズルから熱されたプレートの上に押し出され、層が積み重なるように料理が製造されていく。様々な形や食感の食べ物を出力できるため、理論的にはどんな料理でも製造することができる。現時点でもシンプルなピザであれば、15分も掛からずに出来上がってしまうそうだ

システム社のシニア機械エンジニア、アンジャン・コントラクター氏によれば「この3Dフードプリンタは将来的に一般家庭の電化製品にもなり得る。人々はスーパーで“食材カートリッジ”を買い求め、家に帰って3Dプリンタを使って好きなように料理を製造できる」という

また、スペインのナチュラルマシーンズ社も料理を出力できる3Dフードプリンタ「フーディニ」を開発中である

たとえばピザを作る場合、生地がプリントされた後、ソースがプリントされる(ただし加熱などの調理は自分でする必要がある)。来年前半にも量産を始める予定で、価格は1000ユーロ(約14万円)になる見込みだ

■ 外食の定義が変わる

では、3Dフードプリンタは、外食業界にどのような影響を及ぼす可能性があるのだろうか。

技術革新が進み、料理を忠実に再現できる3Dフードプリンタが一般家庭に普及した場合、「家で食べられない料理を外に食べに行く」という動機が希薄になると考えられる3Dフードプリンタさえあれば、自宅で食べたいものを自由に食べられるからだ。外食に行く動機が「食べるため」から、「上質なサービスを受けるため」に変化するかもしれない

外食店では料理の内容よりもサービスや雰囲気が重視される時代がやってくる可能性がある

もちろん3Dプリンタで製造された料理ではなく、「きちんと人間の手で料理されたモノが食べたい」というニーズが残ることも当然予想できる。カートリッジに使われる素材に不安を感じ、人体への健康被害を心配する人も当然出てくるだろう。

また、料理そのものではなく、栄養素や香料などの配合情報である“レシピデータ”が売買の対象となり、外食産業・食品業界においてデータ売買が進む可能性もある。「どう作るか」はもはや価値がない。成分さえ分かってしまえば、自宅で高級フレンチ料理の味をも再現できるからだ

このような技術革新から描ける将来を考えた場合、外食業界、食品業界の企業は今後どのような行動をとるべきだろうか。変化にいち早く適応していくための次の一手は何だろうか。

たとえば、外食店舗では客の目の前で調理をするなどのパフォーマンス、ホスピタリティあふれる上質なサービスといった「家では享受できないもの」を作る必要があるかもしれない。また、外食企業は自社メニューを成分単位でレシピ化し、データとして販売するビジネスが考えられる。それに伴い、食に関わる企業でも、情報セキュリティ機能の強化が重要テーマとなる可能性もある

「3Dプリンタ」と「食」は一見関係なさそうな組み合わせだが、「3Dプリンタ」という先端技術が、「食」と結びつくと、「食」の業界を根底から変える「業界変革」を引き起こすかもしれないのだ

■ 重要なのは情報の意味づけ

「業界変革」が起こると、これにいち早く気づき、それに適応できる企業のみが生き残れる。そう聞くと「業界変革に早く気づくためには情報が必要だ」と思うであろう。

しかしながら昔と違って、現代ではインターネットを駆使すれば、情報はいくらでも手に入る。ただ「業界変革」に気づくには情報を知るだけでは不十分だ。3Dフードプリンタが「食」の業界にとってどのような意味を持つのかを考え、業界に何が起きるかを予測する。そうすることによって、はじめて「業界変革」を先読みできる

これは外食以外の業界について考える時も同じだ。情報があふれている現代では、情報自体がもはや重要ではない。大事なのは「情報の意味づけ」である。あらゆる情報にアンテナを張りめぐらせ、得た情報を「自分事としていかに意味づけるか」、「どういった示唆が考えられるか」を考えることこそが重要である

最初はある情報が「自分にとって、ポジティブなのかネガティブなのか」を自問する、という単純な訓練から始めればよい。そういった基本動作を日々続けていけば、業界変革に対する嗅覚も徐々に上がってこよう。

参考 東洋経済オンライン 2014.11.28

【関連する記事】